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ショートショート|その後の「くぅちゃんと天使」

※以前書いたショートショート「くぅちゃんと天使」の続編です※

◇◆◇

 犬としての寿命を終えたくぅちゃんが、大好きな飼い主家族の一人娘、鈴ちゃんのところに生まれ変わってから、4か月が経ちました。
 まだ、小さな赤ちゃんなので、くぅちゃんは歩くことも、話すこともできません。
 でも、少しずつ、手足を上手に動かしたり、声を出したりすることは、できるようになってきました。

 鈴ちゃんは、生まれてきた女の子に、愛ちゃんという名前をつけました。
「あいたん、かわいいね。大好きだよ」
 そう声をかけながら、一生懸命、赤ちゃんを育てています。
 でも、その子が、実はくぅちゃんなのだということを、鈴ちゃんは知りません。

 それでも、くぅちゃんは幸せです。
 毎日、大好きな鈴ちゃんと一緒に、暮らしているのですから。
 もちろん、パパとママも、時々、くぅちゃんに会いに来てくれます。
 生まれ変わってから出会った、鈴ちゃんの旦那様は、くぅちゃんを可愛がってくれる、とってもやさしい人でした。

◇◆◇

 ある日、ベビーカーに乗ったくぅちゃんは、パパとママ、鈴ちゃんと一緒に、近所の公園に遊びに行きました。
 そこは、犬だった頃のくぅちゃんが、いつも散歩をしていた場所です。
「くぅ、この芝生の上で、パパと黄色のボールで遊んだなぁ」
「ママは、あのベンチで、いつもくぅにお水を飲ませてくれたっけ」
「これは、鈴ちゃんが、くぅに首輪を作ってくれた、クローバーっていうお花だね」
 愛ちゃんの姿になっても、くぅちゃんは、楽しかった家族の記憶を、いつも思い出しています。

 でも、よく考えてみれば、くぅちゃんはもう、愛ちゃんなのです。
 だから、鈴ちゃんは、ママ。
 パパとママは、じぃじとばぁば。
 鈴ちゃんの旦那様は、パパ。
 でも、くぅちゃんの心の中は、まだ、犬の頃のままです。

 それくらい、犬としての、くぅちゃんの一生は、幸せだったのでした。

◇◆◇ 

 そんな、ある夜のこと。
 くぅちゃんがふと、目を覚ますと、大きな白い翼を持つ、天使が立っていました。
「あっ、あなたは、あの時の天使さま」
 それは、くぅちゃんが、犬としての寿命を終えた時に、現れた天使だったのです。
「無事に、人間に生まれ変わることができましたね」
「ありがとうございます。今、とっても幸せです」
「でも、くぅちゃん。あなたは、心の生まれ変わりは、まだできていませんね」
 天使はそう言いながら、くぅちゃんの瞳をのぞき込みました。
「あなたはもうすぐ、おしゃべりの準備を始めます。今度は、犬ではなく、人間の赤ちゃんとして、言葉を覚えなければいけないんですよ」
 そして、天使は、月のようにきらきら光る、金色の棒を取り出したのです。

 くぅちゃんは、犬としての寿命を終えるときに見た、虹色の棒を思い出します。
「だから、今度は、犬だった頃の記憶を消しますね」
 そんなの、絶対にいや!
 くぅちゃんは、思い切り頭を振って、それを断ろうとしました。
 でも、体がまだ、赤ちゃんなので、上手に頭を動かすことができません。
「天使さま、お願いします。わたし、犬のときの幸せな思い出を、忘れたくないんです」
 くぅちゃんは、それでも一生懸命、天使に頼みました。

「駄目ですよ。前世の記憶を持ったまま、この世の言葉を覚えることは、できないのですから」
 けれど、天使は、虹色の棒を振ったときのように、きっぱりとこう言いました。
 くぅちゃんは悲しくて、涙を一粒こぼします。
 それを合図に、天使は右手に持った、金色の棒を振りました。


 そして、くぅちゃんはまた、深い深い眠りに落ちていきます……。

◇◆◇

「あいたん、おはよう」
 翌朝、鈴ちゃんは、そう呼びかけながら、ベビーベッドをのぞき込みました。
 眠っていた愛ちゃんも、ママの声に反応して、目を覚まします。
「きゃは」
 そして、愛ちゃんが、生まれて初めて、声を立てて笑ったのです!
 かわいらしい、やわらかい笑い声が、とても無邪気に響きます。
「やったね、あいたん、声を出して笑えたねぇ」
 鈴ちゃんは嬉しくて、思わず、愛ちゃんを抱き上げました。

 その時。
 愛ちゃんの体から、何か、小さくて白いものが、ゆっくりと床に舞い落ちます。

 ふわふわとした、その白いものに、鈴ちゃんは見覚えがありました。
「……くぅちゃん?」
 思わず、鈴ちゃんの口から、懐かしい名前がこぼれ落ちます。
 その、ふわふわしたものは、くぅちゃんの白い毛に、とてもよく似ているのです。
「くぅちゃん、見守っていてくれるんだね」
 鈴ちゃんには、それが、くぅちゃんがこの世に残した、最後のあいさつのように感じられました。

〔了〕

※This story is dedicated to my friend Prika.

先日、ピリカさんが朗読してくださった、私の小説「くぅちゃんと天使」。
そのお礼に、彼女からリクエストがあった、続編を書いてみました。

ピリカさん、本当にありがとう! 大好きさっ💛

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