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Souls of Fukushima

かつて、全国規模のリーグで戦った福島県のサッカーチームは、私が実際に見た範囲で、ふたつ存在した。
経営難で解散してしまった、福島FC。
原発事故で消えてしまった、東京電力女子チーム・マリーゼ。
それぞれのチームに、それぞれのサポーター達がいた。
その熱い事実は、決して消えない。

そして現在、全国規模のリーグで戦っている福島県のチームも、ふたつ存在している。
Jリーグdivision3(以下J3)、福島ユナイテッドFC。
日本フットボールリーグ(以下JFL)、いわきFC。
JFLは、J3のすぐ下部に位置するリーグなので、カテゴリー的には福島ユナイテッドFCのほうが、いわきFCよりひとつ上、ということになる。

※以下、チーム名と地名の識別のため、下記の通り略します。
・福島ユナイテッドFC・・・福島U
・いわきFC・・・いわきF

↑福島Uのマスコット・福嶋火之助。目が綺麗!


同じ福島県内とはいえ、両チームのホームタウン、福島市といわき市の間には、車で2時間ほどの距離がある。
そして、いわき市に住んでいる私は、いわきFを発足当初から応援している。
しかし、福島Uについては、同県であるにも関わらず、
「カテゴリーも違うし、ホームも離れているから、それぞれに頑張ればいいんじゃないのかな」
などと、とんでもないことを思っていた。
けれど今では、その考え方は大きく変わり、福島UといわきFには、互いに強くなり、共存共栄して欲しいと願っている。
そう思うようになったきっかけは、2019年の秋。いわきFの本拠地に飾られていた、花のアレンジメントだった。

その秋、全国地域サッカーチャンピオンズリーグを勝ち抜いたいわきFは、JFL昇格を決め、翌年からの戦いの舞台を、いよいよ全国へと広げることになった。
それを祝福して、福島UからいわきFへ贈られた、この祝い花を見かけた時、私は自然に足を止めていた。
いわきFのチームカラーである、赤と青をあしらった祝い花は、大きく華やかで、けれど派手過ぎはせず、本当に美しかったのだ。
ああ、こういうのっていいな、と感じた。
福島UといわきF、地理的には先述のように遠く離れ、いわき市からの距離だけで言えば、茨城県のJ2・水戸ホーリーホックのほうが近いくらいだ。
しかし、同じ福島県のチーム。
花を眺めるうちに、どちらも強くなって、上のカテゴリーへ一緒に登って欲しい、そんな願いが心に浮かんでいた。
福島UにもいわきFにも、J2より上に行くには、スタジアムに問題があると聞いている。けれど、両者がハードルをクリアして、何度も祝い花を贈り合うような戦績、足跡を残せたなら、どんなに素敵だろう。
大震災や原発事故、大水害という、福島の負のイメージをくつがえすような、この両チームの活躍を見たい。見てみたい。そう、強く思った。

2021年2月28日、福島県双葉郡のJ-villageスタジアムで、福島UといわきFによる「東日本大震災メモリアルマッチ・福島ダービー」が開催された。
震災後、J-villageは原発事故対応の拠点となり、素晴らしかったスタジアムの芝は潰され、駐車場や寮の敷地などに使われるという、暗い日々がずっと続いていた。
しかし2年前、美しい天然芝が戻り、J-villageは、サッカー施設としての本来の姿を取り戻したのだ。
(この時も、再開記念試合として、両チームの対戦が開催されている)
そして、震災から節目の10年となる今年は、福島の元気と復興を発信することを目的とした「福島ダービー」。
福島U・時崎悠(ゆう)、いわきF・田村雄三。両監督の似顔絵が描かれたポスターが、試合前から、元気と明るい雰囲気をかもし出していた。

快晴に恵まれた当日は、気温も暖かく、絶好のサッカー日和。
会場の前には、スタジアムグルメと呼ばれる、地元の飲食店が出店する屋台が並び、何を食べようかと迷うところから楽しめた。
また、試合前にはダンスのショーや、高校の吹奏楽部の演奏、ハーフタイムには私たち観客も参加しての体操と、演出も用意されていて、会場はお祭りにふさわしい、きらきらした雰囲気に包まれていた。

肝心の試合は、キックオフの笛が鳴った途端、福島UがいわきFに攻め込むという、最初から心拍数の上がる展開となった。
まったくの私見だが、それまでの福島Uは、様子見をしながら立ち上がり、パスをつなぐことを重視する、おとなしいサッカーという印象があった。
しかし、この日の福島Uは、様子見などまるでせずに、スロットル全開で前へ前へと飛び込む、攻撃的な展開を見せていた。
もちろん、筋力とスタミナを鍛え上げたいわきFも、怖気づくはずなどなく、福島Uの攻撃を受け止めながら、反撃の隙を突く。私が見た、両チームの直接対決の中で、1番の名勝負だった。
選手たちが距離を詰めて走り、人もボールもよく動く、目を離せない試合展開。コロナ対策のため、サポーターが声を上げられないスタジアムに、ゴールキーパーが指示を飛ばす声、選手たちが互いを呼ぶ声が響き渡っていた。
あっという間に時計が進むような好戦により、スコアはなかなか動かなかったが、終盤に福島UのシュートがいわきFのゴールネットを揺らし、1-0で福島Uが勝利をおさめることとなった。

試合後、それぞれのサポーターの前であいさつをした選手たちは、次に相手サポーターへのあいさつのため、互いの場所を入れ替えた。
私はいわきFの応援席にいたのだが、頭を下げる選手たちに湧き上がった、サポーターの拍手の大きさは、どちらのチームに対しても同じだった。

今年、福島ユナイテッドFCは「次の10年に向けた新たなビジョンを打ち出し、J2昇格へのロードマップを示す」と明言した。
そして、いわきFCも、大倉社長がご自身のnoteで、今年は「J3昇格」を目指すと宣言している。
あの祝い花を見た時に、どちらも強くなって、上のカテゴリーへ一緒に登って欲しいと思った私の願いは、とてもちっぽけで、微力にすらなれないものだ。
けれど、その未来は、きっと現実となる。そう確信できるような、惹き込まれる、素晴らしい福島ダービーだった。

そして、私の中にはもうひとつ、ちっぽけな願いがある。
冒頭に挙げた、消えてしまった福島FCと、東京電力女子チーム・マリーゼ。
この両チームのサポーターに、福島ユナイテッドFC、いわきFC、それぞれの戦いを楽しんでいて欲しいのだ。
そしてもし、彼らがどちらかの(あるいは両方の)サポーターとなっていてくれたなら、なんて素晴らしいことだろう。
そんなふうに、私は思っている。


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