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おバイク一人旅~富山県南砺市→高岡市・雨晴海岸→富山市(3日目)2022.5.14

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そのハプニングは、真夜中のことだった。

旅館の2階の部屋で、なかなか寝付けなかった私は、いぬいゆうたさんの朗読を聴きながら、やっと眠りについた。
しかし、それから二時間も経たないうちに、いきなり安眠を破られたのだ。

犯人は窓の外で鳴っている、ものすごい雨音だった。
大袈裟ではなく、頭の近くでスネアドラムを叩かれているような音量。
野比のび太並みに眠りの深い私が、雨音で起きるなんて異常事態だ。
「どんだけの豪雨だよ、明日帰るのに、路面酷いかな…」
そんなことを考えていたら、頭が冴えて、ますます眠気が逃げるという悪循環。
ついに明け方まで、私は眠ることができなかった。

当然のことながら、起きた時には完全な睡眠不足。
頭はぼおっとするし、体の疲れもほとんど抜けていなかった。
南砺市から私の地元までは、軽く見積もっても500kmはある。この状態で、朝から晩までバイクに乗るのは危険だと判断し、富山県内にもう一泊することに決めた。
幸いにも予約できたのは、富山市のビジネスホテル。素泊まりだが、非常事態なのだから、ベッドで眠れれば何だって構わない。
どれほどの雨かと窓を開けた私は、そこにあるものを見て、雨音があれほどうるさかった理由を知った。

妹に写真を送ったら「いい音がしそうな屋根だね」と返って来た

窓のすぐ外に、防水シートのようなものを敷いた1階の屋根があったのだ。
これが、トタン屋根のような音を立てていたというわけか。
おまけに、2階のひさしから落ちてくる雨水も、降る雨に混ざって大騒ぎをしている。
何だか、朝だというのに一気に疲れてしまった。

◇◆◇

チェックアウトの10時が来ても、弱い雨は降り続いていたが、昼前には完全に止むとの予報だった。
とりあえず雨が上がるまで、近くにある道の駅福光ふくみつで雨宿りをしようと、合羽を着てバイクを出した……のだが。
赤信号で止まった最初の交差点で、私はとても恐ろしいものに出くわすことになった。

交差点の真ん中に、グレーチング(排水溝を塞ぐ網目状の金属のふた)が、何枚も並んでいるではないか!
バイク乗りにとって、濡れたグレーチングやマンホールのふたは天敵。とにかく、馬鹿みたいによく滑るのだ。
おまけに、目の前の道路にあるのは、敷き詰めたと言っても過言ではないほどの枚数。これらを避けることはどうやっても不可能だった。
こうなったら、無い知恵を必死に絞って考えるしかない。

直進は、道が細くなりすぎるので無理。
右折はバランスを崩した時、足をつきにくい(バイクは右足側にブレーキペダルがある)ので、避けたほうがいい。もしも転倒したら、身体が対向車線に投げ出される可能性が高いので、下手をすれば命をなくす。
左折なら、足で地面を蹴り返せるかもしれないし、転倒しても骨折で済むだろう。
そんなことを考えていると、信号が青に変わった。

そして、案の定、グレーチングの上でタイヤが滑った。
「あ、やっぱり」
想定していたことなので、冷静にそれを受け止めた私は、おそらく余計な力をバイクにかけなかったのだろう。
俺に任せろと言わんばかりに、愛機がすっとバランスを立て直したのだ。
気がつくと、私達は転倒することも、反対車線に飛び出すこともなく、安全に交差点を曲がっていた。

◇◆◇

そこからは、濡れた風景の中をゆっくりと進んだ。
あちこちで見かけた、青々とした麦畑が印象に残っている。そろそろ麦秋かと思っているうちに、道の駅福光まで無事にたどり着いた。
空がかなり明るくなっていたので、富山のお米「富富富ふふふ」のジェラートをいただきながら、完全に雨が止むのを待つことにした。

ご飯粒が入ったジェラート。粒々が美味しい!

さて、ここからどこへ行こう。
地図を広げていろいろ考えたが、せっかく旅が1日増えたのだから、本来の目的だった雨晴海岸へ行ってみることにした。
海越しの立山連峰は拝めないだろうけれど、こればかりは仕方がない。
行き先を決めたときには、雨もすっかり上がっていた。

◇◆◇

南砺なんと市から県道で砺波となみ市に入り、高岡市を抜けて雨晴海岸へ向かうルートは、砺波を抜けるあたりまでがウエットだった。
途中で道の駅砺波を見つけ、切符を買いに寄りたくなったけれど、マンホールのふたがまだ濡れていたので諦めることに。こんな時は、不要な右左折を避けるに限る。
気を遣う路面状況も、高岡市内に入ると、だいぶ乾いて走りやすくなった。

高岡には、路面電車が走っていた。
私は路面電車を見たことがなかったので、車のすぐ脇に電車がいる光景に、最初はとても驚いた。路面電車が線路ではなく、道路に刻まれたレールの上を走るということさえ、知らなかったのだ。
本数も多いらしく、中にはドラえもん柄の車両もあった。

途中のセブンイレブンに寄ったところで、突然、強い空腹を感じた。
道の駅雨晴海岸で昼食、と思っていたけれど、既におなかが鳴り始めている。
バイクを出そうとヘルメットをかぶりながら、何を食べようかと考え始めた。
富山は氷見市の回転寿司が美味しいと聞いているけれど、そこまではいかないし、このあたりの寿司店はわからないな。そんなことを考えつつ、ふと視線を前に向けると。

目の前に回転寿司店が!

しかも「氷見」と書いてある。
Oh,my God!!!
これは乗るより歩いたほうが速いと、エンジンをかけずにバイクを押して、お隣の駐車場に入った。

写真を撮り忘れてしまったほど、お寿司は美味しかった!
私がいただいたのは、限定20食の「氷見づくし盛り」。
私の地元にはないネタもあり、説明を聞くだけでも楽しかった。
他にも富山ならではのお寿司を食べたくて、白えびの軍艦と、昆布締めの三貫盛を追加注文。
思わぬ幸運に、おなかもココロも、味覚も大満足だった。

◇◆◇

その後は、空も晴れて快適なツーリングになった。
調子良く走りを楽しんでいると、やがて穏やかな富山湾と、頭に大木の帽子をかぶった「女岩めいわ」が見えてきた。
お目当ての雨晴海岸だ。
真っ白な「道の駅雨晴」の駐車場にバイクを止め、改めて海を見ると、そこには言葉を失う絶景が広がっていた。

女岩はなかなかお洒落
能登半島が綺麗に見えた
道の駅には句碑も
もちろん、おやつもしっかりと
氷見線のレトロなオレンジが、風景にぴったり

お目当てだった「富山湾越しの立山連峰」は、残念ながら姿を隠し、雲の隙間から山影が見え隠れするだけだった。
とはいえ海岸の岩に座り、水平線を見ていると、雲と山影の区別がつくようになってくる。
写真ではわかりにくいけれど、雲の動きに伴って見え隠れする山影が面白く、飽かずにその景色を眺めていた。

気が付くと、2時間も雨晴海岸にいた。
ぼんやりしているのが苦手な私が、滞在時間の大半、ぼぉっと風景を眺めて過ごしていたのだ。
それほど雨晴海岸は心地良く、そして美しい場所だった。
そして、自分で思っていたより、ずいぶん疲れていたのだなと感じた。

◇◆◇

雨晴海岸の後は富山市へ走り、この日のお宿、ダイワロワイネットホテル富山にチェックイン。
部屋に荷物を置くと、私は路面電車に乗りに 夕飯を食べに、富山駅前へ出かけた。

しかし、生まれて初めて路面電車を見た私。乗り方などわかるはずもない。
ホテルのフロントで「乗るときは後ろから乗って、降りるときに、前にある料金箱にお金を入れるんですよ」と教わり、片道100円になる小さなチケットをいただいた。
高岡で見かけた時から、路面電車に乗ってみたくて仕方なかったのだ。
富山市内も走っているなんて、まさに幸運の極み。
早速、ホテル近くの停留所へ行き、わくわくしながら電車に乗り込んだ。

電車はすぐにやって来た
バスと電車の中間みたいな感じ

本当に、電車が道路を走るんだ!
私にとっては、とても珍しい風景、珍しい体験。
子供のような気分で路面電車を楽しみ、あっという間に富山駅前に到着した。

この日はビジネスホテルに素泊まりなので、夜は富山グルメを堪能しよう、と心に決めていた。
富山で食べたものが、何もかも美味しかったからだ。
旅の〆となる夕食は地元にこだわろう。そう思って選んだのが、富山おでん、白えびのから揚げ、氷見うどんの三品だった。

具はかに面、巻きかまぼこ、車麩
とろろ昆布を乗せるのが、富山おでんの特徴
山盛りの白えび、美味しくて完食
氷見うどんはこしが柔らかめで、するする食べやすい

富山の食べ物は味が濃すぎず、素材が良くて、何もかも美味しかった!
こんなに地元グルメを堪能した旅は、初めてかもしれない。

食事を終えると、急な宿泊のために必要なものを買い、再び路面電車に乗ってホテルに戻った。
ダイワロワイネットホテル富山は、ビジネスホテルとはいえ、ベッドの寝心地が本当に快適だった。
睡眠不足の旅人にとって、こんなに嬉しいことはない。
お風呂に入り、ベッドにもぐりこむと、私はたちまち深い眠りに落ちて行った。

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