鎧を着て美容院へ行く

好きなラジオ番組で、定期的に、美容院が苦手だというメールが読まれる。
私も美容院が苦手だ。

高校を卒業するまでの間、同級生の親が営んでいた近所の床屋で髪を切ってもらっていた。
母親は車で15分ほどの別の美容院へ通っていて、一度「サキちゃんも切ってもらったら?」と聞かれたが、慣れていない場所・人に切ってもらう勇気が出ず断った。

実家を出てからは、引っ越した先の近くの美容院に行っていた。引っ越しは3回経験したけど、すべて家から近いからという理由でしか美容院を選んでいない。
やることはどこも同じ。軽いカウンセリングをしてもらった後シャンプーして切ってもらう。仕上がりを確認して、ありがとうございました。これしかしない。
それならどこでやってもらっても同じ。

都内に住んでいた頃はQBハウスや同じような価格帯の床屋で切ってもらったこともある。
安いうえに余計な会話もないし、すぐに終わる。これより良い美容院…というか床屋は他にはないと思う。

今行っている美容院も家から最も近く、それでいて料金もお手頃。無駄にサロンのシャンプーやトリートメントなども勧めてきたりしない。
予約のシステムがないので、行ってみて空いていればすぐ切れるという感じだ。
美容師にもよるが、会話も無理にしてこないし楽。


そのラジオ番組の相談メールでは「自意識が邪魔をして美容院が苦手」「何を話したらいいのかわからない」というものが多く、美容院をなにか他の場所だと勘違いしている人が多いなぁという印象がある。


私も美容院に行くには、家から出る覚悟を決め、気合いを入れて行く。
人と話すのが億劫だし、強制的に鏡の前に座らされて、強制的に見たくもないひどい顔を見させられ、強制的にてるてる坊主にされるのだから。
「突撃ー!」という気持ちで、えいや!と入店するしかない。
もちろん手の消毒をしてから。ご時世。

「何を話したらいいのかわからない」という悩みは、そもそも話しかけやすい態度をとっているから。
つまり寝てしまう、あるいはそっと目を閉じて寝ているフリをしてたまに起きてはあくびをし、こちとら眠たいですよアピールをすればいい。
それでも話しかけてくるようなら、相槌は「そうですね…」一択。会話が続かないようにする。
無理に話したくないという意思があるなら尚更これをやるべき。

あくまで客との会話はサービスでやっているということは忘れてはならない。会話の有無と散髪の技術はまったく関係がないのだから。

「会話しないと嫌な人だと思われそう」というのもあった。
散髪中に会話はしなくても、受付や料金の支払い時、希望の髪型を伝える時、退店時には喋らないといけない。
その時に少しだけ笑顔で明るく高めの声で話すようにしたり、「お願いします」「ありがとうございます(ました)」を多めに伝えるようにしている。

軽いカウンセリングのあとに「じゃあ切っていきますねー」のあとに「はい」ではなく「お願いしまーす」
仕上げのときなどに「長さはこれくらいでいいですか?」と確認されたら、「はい」ではなく「ちょうどいいです。ありがとうございまーす」
これで愛想の悪い人だとは思われまい。

特に今は散髪中でもマスクを着用しなければならず、表情がわかりにくい。だからいつもより大袈裟なくらいのリアクションでちょうどいい。


美容院へ行くことになんの抵抗もない人からしたら、なぜそんなに悩むのかという感じだろうけど
2、3ヶ月に1度のことだとしても我々は神経をすり減らして行かねばならないのだ。
自分で切れるような器用さも持ち合わせていない。
仕方なく切りに行っているのをわかってほしい。



美容院に何しに行くんだっけ?
髪を切りに行くんだよね。
じゃあそれだけを目的に行けばいい。
そうやって私は鎧を着て今日も美容院へ行く。


あー。
いつかアンドロイドにデータを入れて勝手にいい感じに切ってくれるようにならないかなー。


猫のエサ代にします。ありがとう!