【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.08.02)
近況ですが、ペーパーマリオオリガミキングをクリアしました。おもしろかったです。ヘンテコ戦闘システムがとにかく飽きないし、マップごとに枝ステージへのアクセス手段がガラっと変わるのが楽しかった。あと、文房具の侵略軍という設定の時点で「虚航船団だ……」となっていたのですが、実際にお出しされたのが「自称アーティストのイロエンピツ」とか「サイコ狂人の穴あけパンチ」とか「殺人鬼のハサミ」とかだったりしたので、「虚航船団(マジモン)じゃん!!!!」ってなりました。これ割とマジでスタッフオマージュしてませんかね? 侵略される側のキノピオ文明がやけに細かく描写されるのも、極めて虚航船団的でしたし。あと、ストーリーが素朴ながらも、感動的でよかったですね。でも一番おもしろかったのは、散々ボム兵のドラマを描いておいてぶちかましたピーチ城前のシューティングパートだったと思います。あれはすさまじいサイコだった。びっくりした。
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大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件-なぜ美しい羽は狙われたのか/カーク・ウォレス・ジョンソン、矢野真千子
年に一度くらいは森博嗣のエッセイ以外のノンフィクションも読もうキャンペーンの成果品。大英自然史博物館で珍鳥の標本が盗難された事件のドキュメンタリで、どうして羽根が盗まれなくてはなかったのか?という話です。あらすじがタイトルに全部書いてありますね。アカデミック・自然保護的な視点側に寄って書かれている本でありながら、犯人の属する「毛針趣味」の文化も種々の「業」を交えて描かれており、個人的にはそっちの世界が未知に溢れてて面白かったです。釣り用具でありながら、用具としての性能という本来求められるべき方向性から逸脱した方向に、多くの人間が魅せられ、のめり込んでいるのが実に人間的な豊かさを感じます。エンタメとしてとにかく優れた一冊であり、出来事が驚くほどドラマチックに展開してゆくのですが、「実際の刑事事件を楽しんでしまったいいのかな……」という罪悪感にもちょっと襲われました。これは、私がノンフィクションを読み慣れていないためなのか、そもそもこの本の姿勢がやや特殊なのか。私の視点では判断できないので、永遠の謎になってしまった……。
宝石の国(11巻)/市川春子
硝子の針で指を裂き開くような、非人間的なしびれる痛みが神経に満ちる11巻。八年かけて用意した宝石たちを嬉々として指ではじき、ガッツンガッツンぶつけあわせて遊ぶ市川春子先生の笑みの壮絶さたるや筆舌に尽くし難く、こんなひでぇおはじき遊びがあるかよという具合ですね。甲殻、貝殻、そして鉱物と、やわらかなものを、ひいては命溢れる有機の惑星を忌避するような価値観は、ありし日に読んだ『妖星伝』を想起させられます。全てが死に果てた虚無の荒野を、何よりも美しく正しいものとして、祈り願う。それを疑わない言葉と画の力はあまりにも悪魔的で、読んでいてるだけでその価値観の中に引きずり込まれそうになる。そして、何より特筆すべき点は、主人公フォスを「復讐者」として定義づけた点でしょう。唐突でありながらも、完璧に納得できる見事な言語化であり、さらにはそれこそが「人間の定義」なのだと言い切ってしまうおそろしさ。その定義にエモーショナルなメッセージを持ち込まず、再現実験の一要素として壇上に上げて論ずるその様は、ぞっとするほどのSF性に満ちており、月の砂漠のように美しい。
四畳半タイムマシンブルース/森見登美彦、上田誠
森見登美彦の小説『四畳半神話大系』と、上田誠の演劇『サマータイムマシンブルース』のコラボ小説。経緯が込み入っておりますが、私は『サマー~』は不勉強ながらタイトルを聞いたことがあるくらいだったので、森見登美彦の新作として読みました。調べたところ、あらすじ自体はほぼ『サマー~』そのもののようですね。タイムトラベルものなのですが、この作品自体が十六年ぶりの続編で、かつ、今となっては失われた初期の作風へタイムジャンプであるという、メタな部分と重なり合っているのがお洒落。『夜行』に『熱帯』と、練度と密度がドラゴンボールのようにインフレし、読んでて怖くなるほどの「重さ」を備えていた近作と比較すると、今更の「腐れ大学生もの」はややライトカロリーで食い足りない感もあるのですが、そのすきっ腹は懐かしの面々との再会の喜びが満たしてくれました。確定づけられた運命を自覚しながらも、大学生活を無限の可能性と言い切る詭弁っぷりは、今も昔も変わらず、やはり素晴らしいものですね。
嘘喰い(31~43巻)/迫稔雄
『バトゥーキ』の新刊が超おもしろくてひっくりかえった勢いに任せ、なぜか『嘘喰い』のプロトポロス編を読んでしまった私です。ギャンブルでは(エアポーカーを除くなら)ハンドチョッパーが、暴パートでは三鷹vs番代が一番好きですね。好きな立会人は銅寺です(嘘喰いファンは名刺代わりに好きな立会人・暴・ギャンブルを伝えるのが、初対面の際のマナー)。いや~おもしろい。何度読んでもクソおもしろい。そして相変わらず、三国統一~ナイトメアあたりで何がなんだかよくわからなくなる。運営連中の勢力争いと、無限に湧いて出てくるシングルタスクだのコーディネーターだのがややこしすぎる。で、エアポーカーなんですけど……獏さんとラロさんがボコボコ言ってるだけで無限にブチ上がるし、信じられなくらいバシバシにキマった画がバンバンぶっこまれるし、ほんと読む麻薬ですね。「理知により限りなく真実に近づけるが、最後の一手だけは天の気まぐれで決定される」、「ギャンブルに必要な、思考・判断能力すらも酸素としてリソース化され、賭けの対象になっている」という二つの要素が、このゲームをキング・オブ・ギャンブルとでも呼ぶべき至高の一戦として完成させています。で、ここで普遍的なベストを示した上で、その次に来るものとして客観的にはクソ運ゲーでありながら、「この物語においてのみ」エアポーカーを越えうる、キング・オブ・ローカルゲーム・ハンカチ落しを持ってくるのがほんと最高なんすよね。ラスボス戦後のライバル戦みたいな。