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『まとめ』歴史を変えた6つの飲物〜蒸留酒編②〜

ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラから見る世界史

「酒の害は酒が毒だからでなく、すばらしいが故につい飲み過ぎるからだ。」
エブラヒム・リンカーン

❶新世界と砂糖、奴隷

新大陸へ

蒸留酒が誕生し広がった頃は、ポルトガル、スペインの探検家達が海路を切り開き、アフリカの南端を回ってインドへの航路を発見し、コロンブスが大西洋を横断し西インド・アメリカ大陸を発見した頃でした。

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ヨーロッパと新大陸が繋がったのです。

当時はオスマン帝国がアラビア半島の広範囲を支配していました。そうなると東西の交易で栄えていたヴェネチアを代表する商人は陸路でのアジアの香辛料などの商品が手に入りづらくなってきます。

そのために新しく海からの航路を開拓したのが、ヨーロッパでも西端に位置していたポルトガルとスペインでした。
ただ皮肉にも彼らの成功はアラビア人がもたらしてくれた技術ー羅針盤、海図、蒸留酒ーに負うところが少なくなかったでした。

❷負のスパイラル=サトウキビ栽培

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さらに砂糖もアラビア人からの知識が活かされました。
サトウキビの栽培には大量の水と人的資源がかかせませんでした。
灌漑の知識、水を送るスクリュー、ペルシア人の発明である地下水道、水力によるサトウキビの圧搾機などでした。
砂糖栽培は土地の地力を大量に消費します。なので数年後には畑を移動させなければいけませんでした。また灌漑の技術も必要です。

それでもなお、サトウキビの収穫は重労働で、かつ収穫後に速かに圧搾、製糖しなければ、劣化が速いのでその運搬には多大な労力が必要でした。

なのでヨーロッパ人はアフリカ西岸から黒人奴隷を連れてくるようになります。
最初は一方的に黒人を拉致していたが、段々とヨーロッパの品々と交換に、アフリカ商人から奴隷を買うようになりました。つまりアフリカ人がアフリカ人を拉致し、交易する様になるのです。

元々キリスト教ではキリスト教徒を奴隷にする事は禁じられていました。ただ異教徒に関しては様々な宗教的解釈をして、ある種無理矢理に自らの行為を正当化し、自分達の利益のために黒人奴隷を交易システムに組み込んでいきました。

最初はマデイラ島などヨーロッパの島で行われていたサトウキビ栽培。1429年にコロンブスが新大陸を発見しました。
そして1439年にコロンブスが2度目の航海でカナリア諸島にサトウキビを持っていき、栽培を開始しました。

ただ先住人の奴隷化に失敗します。原因はヨーロッパ人が持ち込んだ病に、先住人が免疫を持たなかったのです。
そこで黒人奴隷の輸入を開始します。

それから4世紀にわたり、およそ1100万人もの奴隷がアフリカから連れてこられました。実際に船に積まれた人数はこれを遥かに上回る数でした。航海中の船内で亡くなったからです。

❸奴隷貿易を支えた蒸留酒

この奴隷貿易で中心的な役割を担ったのが蒸留酒でした。
17世紀にはオランダ、イギリス、フランスもカリブ諸島でサトウキビプランテーションを作り奴隷貿易が盛んになっていきます。

奴隷貿易の窓口であるアフリカの奴隷商人が奴隷との交換品としてヨーロッパ人から受け取ったのは、軽くて風通りの良い綿織物、通貨として利用していた貝殻、金属製の器、水差し、銅板など多岐に渡りましたが、中でも一番欲しがったのは「強いアルコール飲料」でした。

アフリカでは様々な地域でヤシ酒、ハチミツ酒、ビールなどが飲まれていたが、ヨーロッパからやってくる強いアルコールはアフリカ中の「どこでも人気」の品で、イスラム教地域でも求めたと言います。
ポルトガルが中心だった奴隷売買初期に、アフリカの奴隷商人は強いポルトガルワインの味を覚えたのでした。

❹ワインからスピリッツへ

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ヨーロッパの商人にとってワインは人気で便利でしたが、すぐにブランデーの方が有用だと気づきました。
要はブランデーの方が場所を取らずに、より多くのアルコールを詰めて、高いアルコール度数のため保存が効く為です。

またアフリカの人々も蒸留酒をより高く評価しました。
理由はビールやヤシ酒よりも、アルコールが高い、つまり「酔える」からでした。

お互いのメリットが一致し、奴隷との交換品で最も貴重な品が蒸留酒、なかでも「ブランデーが最も高貴な品」とされて、名声の証となりました。
それからアフリカの奴隷商人と交渉を始める前に、大量のアルコールを贈り物として渡す事が通例となります。

当時のイギリス海軍医によると「酒を飲まぬ輩とは絶対に取引に応じなかった」と言う言葉から当時を伺い知れます。

❺悪魔殺しから、世界的な飲み物へ

1647年9月、リチャード・ライゴンというイギリス人がアキレス号からカリブ海に浮かぶバルバドス島の姿を発見しました。
バルバドス島に1627年に初めて入植したイギリス人は、まずタバコの生産を試みました。当時、すでにイギリスでタバコは人気を博しており、北アメリカのバージニアで採算の取れる作物だと証明されていたのです。

ただタバコ栽培は最低の出来に仕上がります。
そこでブラジルからサトウキビと、砂糖作りの設備および専門知識を持ち込む事にします。
こうしてバルバドス島でサトウキビ栽培が確立されます。それから10年間でこの島は砂糖貿易の中心地になり、この地の入植者達は新世界の大富豪の仲間入りしていきます。

中には当時の王が羨む程の富を得た者達もいます。王は度重なる戦争の負担に追われていたからです。

そんなバルバドス島の入植者が手に入れたのはもう一つ。
それは砂糖作りで出来る副産物を発酵させ、これを強力なアルコール飲料を作る方法でした。
最初はサトウキビの絞り汁か、汁を煮る時に出る泡を原料にしました。ですがこの工程を改善して、これまで価値のない余り物とされていた糖蜜を使う方法を開発します。
これにより以前より低コストで、砂糖の生産量を落とす事なく造る事が出来る様になりました。

ライゴンによると、この飲み物は「キルデビル・悪魔殺し」と呼ばれ、非常に強く、味は良くない。しかし、みんなこれを大量に飲みすぎる程飲んだそうです。

ただこの飲み物がいい効果を与えてくれます。
これまでワインやビールをヨーロッパから北アメリカまで輸送するには費用がかさむうえに、傷んでしまう危険がありました。それをこのキルデビルであれば、島で大量に造る事が出来たのです。
このキルデビルが今日の私たちに馴染の「ラム」です。

因みに「ラム」の由来の話
「ラムバリオン」が語源です。
・ラムはサトウキビの学名が「サッカラム」
サッカは甘い、ラムは「茎」
・バリオンはブイヨンの意味で「煮る」
つまり「茎を煮る」という意味なのです。

このラムがカリブ諸島から世界各地に広まっていきます。
奴隷に定期的に支給し、過酷な労働に耐え、苦しみを紛らわせるためにです。
奴隷達はこれを飲むか、食べ物と交換するための通貨代わりに使われました。社会統制の道具になったのです。

❻イギリス海軍とラム

1655年に英国海軍では海兵達にそれまでのビールに代わってラムを支給し始めます。また上級士官はシェリーを飲んだのです。ここにもお酒により社会性が表れます。

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そして当時の世界的に船乗りの死因の一つに「壊血病」がありました。これはビタミンC不足で起きる疾患でした。
長期間の航海が多い船の上で新鮮な食料や、果物を摂取する事が難しかったのです。そこで対策としてラムにライムかレモンの果汁を加える事となりました。これにより壊血病の発症数が劇的に減少したのでした。
それまでのビールにはビタミンCが含まれていないので、ラムに変えた事で解決出来たのです。

イギリスの水兵を馬鹿にする呼び方に「ライミー」がありますが、これは上記の事に由来します。

これの逆の例として、フランス海軍が支給されていた飲み物はワイン、長期間の航海の際はより保存の効くブランデーが支給されました。ワインはまだ少量ビタミンCが含まれますが、ブランデーには一切ありません。
よってイギリス海軍と逆の結果が生じたのです。

❼通貨としてのラム

これまで見てきましたが、ラムの重要性は一番に「通貨」として使われた事にあります。
それが三角貿易と言われるヨーロッパ、インド及びアジア、新大陸を繋ぐ潤滑油となったのです。

ラムと交換で奴隷を買い、奴隷を使って砂糖を作り、
砂糖生産の廃棄物でラムを作り、それでまた奴隷を買う

この闇深いスパイラルが繰り返されるのです。

一般に地元で生産および消費されるビール、特定の地域で生産および交易される事が多いワインとも違い
ラムはポリネシアで生まれた砂糖がアラビア人によりヨーロッパに紹介され、コロンブスが新大陸にもたらし、アフリカ人奴隷がこれを栽培した。砂糖生産の廃棄物を蒸留して作るラムは、新世界のヨーロッパ人の野心と冒険心の産物だが、一方で、彼らが知らない振りをいた奴隷貿易という残虐な行為なしには、大航海時代、そしてそこから始まる産業革命からの繁栄も恐らく起こらなかったでしょう。

ラムは、人類史上初めて世界が一体になった中で起きた時代の大勝利と、その裏にある迫害を体現する飲み物なのです。

今回は蒸留酒、主にラムが果たした負の遺産とも言える役割を書いてきました。
普段ラムコークとか気軽に飲んでますが、こんな形で歴史に関わってきた部分もラムにはあるのです。今度ラムを飲む時に少し思い出してみて下さい。

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さて次回はラムコークと書きましたが、ラムやウィスキーがアメリカで果たした役割をみていきますので、お楽しみに!!

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