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こたぬきたぬきち、町へ行く⑤

 ヤンキーのお兄さんは、にやり、と笑いました。前歯が一本かけています。眉毛はほとんどありません。
 たぬきちには、お兄さんが鬼にみえました。

(こんな怖い顔、あるんだ……)

 恐怖のあまり、今にもその場から駆け出してしまいそうなたぬきち。

「おい、お前。このへんのガキじゃねえよなぁ!ふへへへ」

(ああ!殺される!殺されちゃう!きっと今日がぼくのめいにちなんだぁ。父さん、先立つふこうをお許しください!なんまんだぶ!)

「ほんじゃ、ちょっとこっち来いや。おら、何びびってんだよ。すぐそこだからよ」

 お兄さんのおおきな手がたぬきちの小さな手をつかまえました。大人の力でがっちり!離してくれません。

「ど、どこへ連れてくつもり」

「ふへへへ、いいからこっち来いって」

 道ゆく人々は、だれもヤンキーのお兄さんを咎めたりしませんでした。

この子をどこへ連れ去るの、と言ってだれか。
ちゃんとした大人が助けてくれればいいのに。

 街かどにこの不憫な子を見る目はありましたが、じっさいには、お兄さんとたぬきちに声をかけてくれる人など皆無です。

「よーし、この辺でいいな」

⑥へつづく


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