てんかん患者のお薬
2番目の子、ニンタは知的障害があるし、グルコーストランスポーター1欠損症でもあるし、てんかん患者でもある。
今日はこの話の続き。
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ニンタの場合、薬と食事療法が効いて、ありがたいことに現在てんかん発作はない。そして二年前から減薬も始めたのだけれど、これまたありがたいことに、減薬中に発作が再発することもなかった。
そして先日、二剤飲んでいた抗てんかん薬のうち、一剤を完全に終了することができた。
薬は三ヶ月ごとに処方される。そのたびに一回あたり40mgずつ減らし、二年かけて最後は0mgになる、というやり方で、特に複雑な事はない。
と、思ったが、そうでもなかった。
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ニンタは主治医が遠方なので、一年間のうち、主治医のところで二回検査入院し、フォローのために地元の病院に二回通院している。合計年四回。
そこで、それぞれの先生が三ヶ月分の処方箋を書くのだけれど、どちらの先生も、年二回しか診ない患者の減薬が今現在どうなっているか、というのは暗記しているわけもない。
もちろん、先生は記録を確認して慎重に処方箋を書いてくれるのだけれど、そこはやはり通年でニンタを見ている私がダブルチェックするべきである。
ははあ、減薬というのは人任せではならないのだぞと、私はやり始めてからようやく気がついた。
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次の関門は処方箋の流派問題とでも言うべきもの。
院内処方、院外処方のドラッグストアや個人薬局、いろいろあるその薬局によって、茶道で言えば裏千家と表千家があるように、薬の表記に流派があるのだった。
例えば、一日160mgの薬を、朝に半分の80mg、夜に半分の80mgを飲んでいる場合。
「一日160mg」と表記する流派と、「分2朝夕80mg」と表記する流派がある。少しややこしい。
更に更に、表記にはg流派とmg流派がある。「160mg」は「0.16g」。うん、それはまあ、わかる。
しかし、この流派が混在して「分2朝夕80mg」と「一日0.16g」が一緒です、と言われると、素人の私が一瞬で判断するのは怪しくなってくる。
三ヶ月ごとに一回あたり40mg減薬すると言うことは、そこに引き算も加わり、「一日0.16g」飲んでいた三ヶ月後には「分2朝夕40mg」を処方してもらわなければならない。
一つ一つは簡単な算数なのだけれど、全部が重なると地味にややこしい。
お薬手帳を確認しながら、「えーと、ちゃんと40mg減薬できてるかしら???」と、頼りない私の文系脳を三ヶ月おきに叩き起こして、間違いがないようにしつこく確認するのだった。
もちろん、薬局側でも確認してくれるのだけれど、人間がやることには間違いがある。ここでも、最終チェックする私が責任者。
それに40mgの減薬なんて、一円玉の4%しかない重さ。そんな少量を減らしていく作業なのだから、いつ誰がどこで間違えたっておかしくない。粉薬だから見た目ですぐにわかるものでもない。
そんな風に、慎重に慎重に作ってもらったお薬を、ニンタがむせてこぼしたりすると、「おうっ…今何mgこぼれたんだ…」と思わないでもなかった。
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抗てんかん薬というものは、多すぎてもいけない、少なすぎてもいけない。小児患者は日々成長するし、てんかんのメカニズムも未知の部分が多いので、薬の塩梅は先生の職人技みたいなところがある。
そういう繊細な分野の「減薬」を、素人の私が責任者になるというのは、ちょっとしたプレッシャーだった。(せめて、処方箋に流派があるのは、どうにかならないものか)。
でも、終わってみれば何もなく、もしかしたら二年もかけずに、一気に0mgにしても何も起こらなかったのかもしれない。
でもそれは結果論であって、私はこの二年間、もしかして発作が再発するのでは、という可能性をいつもいつも考えていた。
ニンタがちょっとぼうっと考え事をしていると、目の前にさっと手をかざして眼球が動くのを確認する癖が抜けない。
そして減薬が終わったから安心という事もなく、グルコーストランスポーター1欠損症ということは、いつ何が悪くなるかわからない、という可能性をうっすら抱えたまま生きていくという事でもある。
もちろん、てんかんには寛解の目安があって、車の運転や水泳などが許可されている人がいることも、強く言っておきたい。
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無事に減薬が済んでめでたくありがたい。でも最後に、ちょっと贅沢を言うとしたら。私がこんな簡単な算数でモタモタしている事や、発作を不安に思っている事って、誰にも話したことがない、と言うこと。でも些末な事ではないんだけどなあ、というぼやき。
それは、薬を飲んでいるニンタ本人も知らない。知的に4歳と言われているニンタに説明するのも難しい。減薬の成功をお祝いするでもない。
だから、こうやってここに書いて。誰かが読んでくれて。
この二年の奮闘が、成仏していく。
二年前の私へ。減薬の終了おめでとうございます。ニンタは三年生になり、勉強は苦手ですが元気です。私も二年前よりとても元気になりました。
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