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初めての減薬

ニンタの検査入院に、半年ぶりに行ってきた。

ニンタが4歳でグルコーストランスポーター1欠損症と診断されてから、だいたい3ヶ月おきに検査入院してきた。しかし、食事療法がなんとか続いていることと、容態が安定していること、さらに小学校入学ということで、そんなに頻繁に休むのもよろしくないかも、などの理由で、今回は初めて半年あけたのだ。

今回も、ありがたいことに脳波に異常はなかった。そして、前回の検査入院で予告されていたのだが、いよいよ「減薬」に入ることになった。

ニンタはもともとてんかん発作があったのだが、最後に発作らしきものがあってから、3年経過している。この3年というのは、てんかんの治療において、ある程度の目安となるらしい。

抗てんかん薬のコントロールはとても難しいと聞いていたし、わざわざ安定しているところに変化をつけて、発作が出たら嫌だな、と思う。

しかし、ほとんどの薬に副作用があるように、抗てんかん薬にも、眠気や胃のむかつきなどがあるという。ニンタにどんな副作用が生じているかは、本人からの聞き取りがまだ難しいのでよくわからないが、副作用により、発達が阻害されている可能性もゼロではない。

ニンタは、食事療法をする前から、飲んでいる抗てんかん薬は変わっていない。食事療法を始めたのだから、もう薬はいらないかもしれない。いらないかもしれないから、減らしてみる。減らしてダメなら戻すしかない。

現在、目立った異常がないだけに、わざわざ挑戦的なことをするのは、正直不安だ。けれど、主治医のヤマ先生は、ちょっと自信があるように見える。いや、ヤマ先生はいつもポーカーフェイスなので、何を考えているのかよく分からないのだけれど、はっきりと「いけると思いますけどね」と言ったのだ。「でも、発作がない人が急いで減薬する必要もないので、ゆっくり減らしていきます。今2剤(2種類)飲んでいるので、まずは2年くらいかけて1剤減らして、それで問題なければ次の薬を減らすかどうか考えましょう」と続けた。

ニンタは、4歳のときに飲んでいた薬と同じ種類を飲んでいるだけでなく、量も同じだけしか飲んでいない。この2~3年で体も大きくなったのに、薬は増やしていないので、薬の血中濃度はすでに低くなっている。つまり、すでに緩やかに減薬しているようなもので、そういう点からみても、今回の減薬は「大冒険」というわけではないのだろう。

減薬で急にニンタが賢くなったりもしないだろうが、薬を減らして良い、と言われたことは、進歩である。喜んでいいと思う。食事療法は一生続いていくが、将来的に、もし抗てんかん薬がゼロになったとしたら、「食事療法で脳に栄養さえ届けば、発作が起こらない」ということが半ば証明されるわけで、栄養さえあれば元気に動く脳ですよ、という感じがする。

しかしまあ、そんなに楽観視できないのが、この病気だと先輩方から聞いている。

真面目に食事療法を続けていても、特に成長期に体調を崩す人が多く、10歳前後で謎の発作や脳波異常が出る話はよく聞くし、そのたびに食事の内容を見直してみたり、薬を変えてみたり、成長期だから仕方ないと諦めてみたり、皆さんとても苦労している。

抗てんかん薬の調整も、まだハッキリわかっていないことが多いのか、主治医の経験と勘が頼りのようなところがある。一発でうまく行くことは稀で、何度か調整を繰り返していくうちに、親はどんどん薬の知識が増えていく。入院先での立ち話では、親同士が難しい薬の名前をスラスラと列挙して、「○○がダメだったら、次に△△やるかもなんだけど、□□やったときはどうだった?」と、他人が聞いたらお医者さん達かしら?と思うような会話をしているところをよく見かける。

私も、初心者ながら、食事療法のことはそれなりに勉強していると思っている。でも、抗てんかん薬についてはまだ全然知識がなく、ああ、ついにこの領域に入るのだな、という気持ちもある。

思い返せば、この病院に初めて来たとき、ヤマ先生から「てんかんのゴールは、薬をやめることではありません。体にあった薬を見つけて、発作をうまくコントロールして生活していくことがゴールです」という説明を受けたのだった。

いろんな理由で、ニンタの薬が減ることについて、手放しでは喜べない。「今は安定してるってことなんだな」という程度の認識で、今後どうなるかはわからない。

といって、過度に不安になる要素はどこにもなく、ニンタには「ごはんの勉強頑張ったから、お薬が少し減るんだよ。よかったね」と伝えた。一度に減る量は、目視では全くわからないほど少量だが、うまくいけば2年後には完全に1種類なくなるかもしれない。

2年後、ニンタは3年生だ。どんな生活をしているだろうか。私も、元気に暮らしているだろうか。終わりの見えない病気との付き合いを考えると、2年という月日はあまりに短く、何かが良くなっているという希望は、なかなか持てない。

それでも、とにかく、今、今は安定している。

おめでとう、ニンタ。頑張った、ニンタ。

特に何かお祝いするわけでもないが、約3年前、病名もわからず、繰り返す体調不良に毎日悲鳴をあげていたことを思い返せば、なんとめでたい日であることよ。

諸々の事情で、私のテンションは低めだが、これは「冷静」と肯定的にとらえて、それはそれで立派なものよ、ということにしておきたい。

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