ああ、雑草抜かなきゃ。
私の家に庭はないが、こどもが学校から持ち帰った教材の鉢や、ちょっと余裕があった時代にプランターで植物を育てた残骸などが、玄関脇に並べてある。
少しでも土があれば、雑草はどんどん生える。土どころか、家と道路の境目とかアスファルトの割れ目からも生える。
余裕があるときは、定期的に抜いていたが、今年の夏はまだ手をつけてない。この家は荒れているな、と気のつく人なら目印になるだろう。
開けた窓からは、こどものケンカの声、私の「早くしなさい!」のイライラ声。生えっぱなしの雑草とそれらの声を総合して「子育て中で、すさんでおります」という看板を掲げているわけだ。お恥ずかしい。
ああ、雑草抜かなきゃ。
すくすく育つ雑草を、家の出入りの度に気にしているのだが、実は、気になっている植物がある。
小さい葉の頃から、「どこぞかの、名のあるお方なのでは」と思わせる、つやつやの葉だった。育つうちに、茎はどんどん太くなり、草というより「木」というような茶色になってきた。
そのうち、こんな小さなプランターでは窮屈になるのではないか。どうしよう。ちいさな木はもう1メートルほどになった。愛着が出てきてしまって、他の雑草を抜いたとしても、もうむげにできない。
どちらから飛んできなすったのだろう。家の周りに里山はないから、どこかのお庭で大切に育てられた子孫なのかもしれない。もしかしたら、立派な花が咲いたり、実がなったりして。
花がたくさん咲いたら、いくつか拝借して仏壇にお供えさせてもらおうか。実がなったら、こどもたちがおままごとに使うだろう。
そんな妄想に反して、その立派な植物は、立派な葉だけを次々に繁らせていく。おぬし、さては花の目立たないタイプの常緑樹だな。でも、花も実もならなくても、これだけ大きくなってしまうと、もう後戻りできない。
根がどんどん張って、プランターが壊れたらどうしよう。こんな住宅街ではどこかに移しかえることもできない。車に積み込んでキャンプ場に連れて行って、勝手に植えて帰るか。いや、生態系を崩すような外来種だったらどうしよう。やっぱり実家に頼んで庭のどこかに植えてもらおうか。
私がそんな物語を勝手に作っているうちに、夫がポイと抜いて燃えるゴミに出すかもしれない。
手入れの行き届かない玄関にある、ファンタジー。
片付けるのは億劫でも、考え事をするのは億劫じゃないの。
ああ、雑草抜かなきゃ。
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