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りゅたどら             ☆絵・写真から着想した話 その6

☝🏼このフリー画像から書いた妄想話です

りゅういち 「観たか。紅白」
たつじ   「なんだか、知らん歌手ばっかりで」
どらぞう  「だよなぁ。若者のグループが次々出てよ」
たつじ   「踊りまくってばかりで。歌合戦っていうより」
どらぞう  「踊り合戦だな」
りゅういち 「ダンスパフォーマンス」
たつじ   「また、知ったかぶりを」
りゅういち 「お前らの家でも、ダンスの奴らが出で来ると孫が盛り上がっ 
       てただろ」
どらぞう  「そうそう。あと、もの凄い早口で喋る系の」
りゅういち 「ラップ」
たつじ   「わからんから、もういい」
どらぞう  「孫たちは、演歌でトイレタイム。俺たちは、若いのが出て来
       たらトイレタイム」
たつじ   「うちもだ。CM無いからな、NHKは」
どらぞう  「俺たちが子どものころの紅白は、もっとわくわく楽しかった
       よな」     
たつじ   「だな」
りゅういち 「俺は、今年もわくわくしたけど」
どらぞう  「あらやだよ。この人ったら、かっこつけちゃって」
りゅういち 「聴け。新年早々、お前らに招集かけたのは、紅白の若いやつ
       らを見ていて、サイコーな企画を思いついたからだ」
たつじ   「言うてみ」
りゅういち 「今年、俺たち年男だろ?」
たつじ   「5月に揃って72歳だな。祝いの会でもしようってか?」
りゅういち 「いや、記念にデビューするんだ」
どらぞう  「誰が?」
りゅういち 「俺たちが」
どらぞう  「あ゛?」
りゅういち 「いいか。三つ子の年男だぞ。72歳だぞ。充分すぎるセールス
       ポイントじゃないか。今年、辰年のうちにこの強力な武器で
       デビューしたらイケるんじゃないかと、紅白を観ていて思い
       ついたんだ」
たつじ   「え゛?」
りゅういち 「歌は、とりあえず誰かのカバー曲でカラオケ演奏。ダンスの
       振付は、地区センターのダンス教室の先生に個別レッスンを
       お願いする。地区センターの鏡張りの部屋をおさえなくちゃ
       いけないが、今、何曜日に空きがあるのかな」
たつじ   「ちょっと、待てよ。俺はやるとは言ってないぞ」
りゅういち 「最初のステージは、市民桜まつりにしよう。4月の頭だか
       ら、その前にもどこかで催しがあったら応募しよう。とにか
       く、場数を踏むことが大切だと思うんだ」
たつじ   「なぁんだ。デビューなんて言うから、てっきりどっかのオー
       ディションでも受ける気かと。町内会で人気者になろうって
       いう話か」
りゅいち  「違う。町内会は、踏み台に過ぎない」
どらぞう  「ひゃー。今の、かっこいい」
たつじ   「お前、どっちの味方だよ」
りゅういち 「いいか。市民まつりで三つ子のじいさんが歌って踊るとなれ
       ば、市の広報が取材に来て、広報に掲載されるに決まってい
       る。マスコミもワイドショーの端っこで流してくれるかもし
       れない。それを知ったどこかの事務所のスカウトが、名刺を
       手に俺のところに来てだな」
たつじ   「なんでお前のところなんだよ」
りゅういち 「リーダーだから」
たつじ   「ずるい。勝手に決めるなよ」
りゅういち 「そもそも、考えついたのは俺だ」
たつじ   「じゃあ、グループ名は俺が決める」
どらぞう  「え? やる? やるんだ?」
たつじ   「タツが三人で『T3(ティースリー)』ってのはどうだ」
りゅういち 「どこかで聞いたような名前だな」
たつじ   「じゃあ、ドラゴンスリー」
どらぞう  「りゅたどら」
たつじ   「何それ? ああ、名前の頭を……何で俺だけ一文字なんだ
       よ」
どらぞう  「リズム的問題」
りゅういち 「面白いな。不可思議な響きのほうがキャッチ―でいい。
       はい、決定! りゅたどら」
たつじ   「三人の中で、体育が一番得意だったのは俺だったよな」
どらぞう  「体育が得意だからって、ダンスが上手いとはかぎらない。盆
       踊りで、隣のおばちゃんから手首のしなり具合を褒められた
       のは、俺だった。今、思い出した」
たつじ   「盆踊りとキレッキレのダンスを一緒にするな」
どらぞう  「俺たちにキレッキレのダンスは無理に決まっているだろ」
りゅういち 「いいんだよ。へなへなダンスで。それも武器だ。俺たちは歌
       もダンスも下手でいいんだよ。目的は、72歳にして脚光を浴
       びることだ。目標じゃなくて、目的だ。辰年のチャンスを最
       大限に利用しようぜ」
どらぞう  「今年末の紅白で、俺たちが世代の壁を越えて歌って踊ってた
       ら面白いな」
りゅういち 「はは。それは無理だろ」
たつじ   「庶民代表、賑わせ枠で」
どらぞう  「いいな、それ」
りゅういち 「りゅたどら、ちょっと、踊ってみるか」
たつじ   「パフォーマンス、だろ?」

                           了