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怪物がささやく「反対の合一」

この記事は映画「怪物はささやく」のレビューです。

エンドロールでは初めに安息の日が訪れ心穏やかな曲が流れます。それは次第に新たな始まりを祝福する希望に満ちた曲と重なりエンドと思いきや一転してあの悪夢を想起させる激しい曲に変わります。曲がマックスに達した所で少しの間を置きピアノが優しく前奏を奏で、歌が始まります。

心を手渡し君に託したい
必要なことは学ぶしかない
友達は見つからず
答えには一歩届かない
飛び方を学ぶには時間がかかる
家を恋しく思ったことは?
大地を這って嵐をくぐり
炎のように暴れ泥のように眠る
飛び方を学ぶには時間がかかる
町をブチ壊せば日差しが目を射る
未知の真実を求め炎は燃え続ける
愛のレッスンは必要ないから

ママからコナーに贈る詩でエンドロールは終わります。

この流れにこの映画のテーマが集約されているように思います。コナー少年は自分の正義と正反対の4つの真実の物語に葛藤し大暴れします。そのことを余命幾許もない母親は怪物のささやきを通して彼の正義と正反対が一つであることを分からせようとします。だからどんなに大暴れしても罰が無いのです。悪夢の物語の結末は4つ目の物語の真実とは正反対のものでした。コナーは泣きながら臨終のママに「行っちゃイヤだ!行かないで!」と言ってママに抱きつきました。怪物の瞳は慈悲深げでとてもいい目です。ママが怪物に目をやると怪物の役目は終わりました。

この映画はM.ーL.フォン・フランツ著の「永遠の少年」の一文「大人になることを拒み、真の人生、大人の人生への架け橋を見出だせないでいる人々を、いかにして若さの価値を失わずに空想世界から抜け出させるか、若い時に自分のものだった全一と創造の感覚、生気に満ちた感覚を手放さずに大人にするにはどうしたらよいか」という難しい問題と相通じるものがあるように思います。

ママは生前、コナーに目の描き方を教えました。「命は瞳に宿るの・・・それがわかったら立派な芸術家よ・・・見て黒目に外のものが映り込むの・・・瞳に命が吹き込まれるわ・・・もう一度・・・それが命よ」

ママが亡くなった日、コナーと確執のあった祖母はこの日のために準備しておいたコナー専用の部屋を彼に与えました。ママとの思い出がいっぱい詰まった素晴らしい部屋でした。机には愛娘の“リジー・クレイトン”の絵本が置かれていました。コナーは目に涙をためながらページをめくって行きました。あの悪夢の2つの物語に続いて最後のページには怪物の肩に腰かける少女のママが描かれていました。でも目は描かれていませんでした。

この映画は目が素晴らしい!リーアム・ニーソン演ずる怪物の目、ルイス・マクドゥーガル演ずるコナーの目、シガニー・ウィーバー演ずる祖母の目、フェリシティ・ジョーンズ演ずるママの目、それぞれに命が吹き込まれています。

“子供”と“大人”の狭間にいるコナーはあの絵にどんな瞳を描き命を吹き込むのでしょうか?

(See you)




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