『おちょやん』13 その恋が罪になる時代

 百合子の言葉は、千代の中の何かに火をつけました。神聖なる義務! うっとりとセリフを読み上げる千代に、仕事仲間の玉と里子は戸惑うばかりです。

 二人に役者になるつもりかと聞かれる千代。シズと百合子を思い浮かべつつ「無理無理無理!」と言うわけですが。
 ほんまにぃ?
 もう、千代の体の奥からも声が響いているようですよ。

道頓堀の流言飛語

 テキパキと仕事をする千代は、菓子屋の小僧さんと話しています。この坊主頭の小僧さんがお上手で。こういう奉公をして学校も行けない子がいたことは大事だと思いますし、その風情をこの子はよく出しています。しかも、賢いというのがわかる。
 『サザエさん』に三河屋さんの御用聞き、サブちゃんという青年が出てくる。でも、令和の子どもには理解できるのかどうか。形態を変えつつ、口減らしとして、都会に出てくるこういう若い人がかつてはいたんですけどね。苦労人というのは本来こういう層のことであるのですが、その定義すら最近はあやしいのではないかと不安になることがある。そこは再定義していかなあかん! 見て、演じて、伝えて行かないと。
 この小僧は賢いことがわかる。だって、この若さでポロッと「こないな時」だからこそ、岡安を励まそうとお得情報を伝えてきたって言っているんだからさ。
 なんやねん、「こないな時」て……。

 ライバルの福富を見ればわかる。武田信玄がなんか喜んどったら、それは織田信長があかんみたいな話やね。福富の福松はなんだかそれでええのかと苦笑気味というか。ボンの福助はトランペット吹いてますけど。
 この福助のトランペットもなぁ。西洋由来の金管楽器吹いて、モダンを感じ取る顔ですわ。こういう大正の新たな音楽の息吹を再現して欲しかった朝ドラもありますけど、なんかこう、なぁ。まあええわ! このドラマには、大将の風が吹いてます。新派の女優たる百合子に、トランペットを吹くボンと。
 どうして福富がウキウキしているか? なんでも“不義密通”の噂が岡安に立ったから! ひえー!

不義密通の噂!

 岡安のお茶子たちも、この噂で持ちきりです。最年少の里子が「ふぎみっつうってなんどす?」とキョトンとしています。今ではもう死語ですかね、「耳年増」。若いくせにませたことを言う、そんな状態のことですけれども。ゴシップを聞いてしまう環境の子がそうなります。あの先ほどの小僧さんもそうでしょう。商家に奉公するとオシャレになったり、ませちゃったりして。あの土方歳三も、アパレル店員時代に女性問題起こしてクビになっております。
 お茶子たちは興味津々です。ここは出どころをつきとめなあかん。福富の椿や! とはいえ、うすうす、なんとな〜く、根拠はあるとも思っている。
 もしかして、駆け落ちして東京に向かうとか? そうひそひそと話す顔を見ていると、その根っこ事実があって、年月やら人の口を経ることで何かが醸成されているとは思う。
 そしてここで、延四郎が化粧する場面が映ります。これは本職の歌舞伎役者さんでないと出せない雰囲気がある。化粧をすることで、何かが変わる。こんなに真っ白にしたら気持ち悪いって? それが舞台の上では美しい。そういう日常と非日常を分ける化粧の役目が見えてきて、一瞬なのに心をつかまれます。

その恋はご法度

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2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

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