秀吉とねね

 男は藤吉郎の問いかけに頷いた。

 浅野長政は組頭として信長に仕える男で強者として知られていた。

「様はやめてくれよ。今度から君も同じ組頭じゃないか」

 地位をかざそうとしない丁寧な態度には彼の人望も見え隠れしている。

「戦も終わったばかりだ。今日は体を休めたほうがいい。ねね、帰ろう」

 藤吉郎に手拭いを渡した女、長政の娘ねねは藤吉郎に礼をすると長政の後を追って帰っていった。

 藤吉郎のもとには汗のしみた手拭いと微かな良い香りだけが残っていた。


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