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映画「Aftersun/アフターサン」の感想

この映画ずっと気になってました。
オスカーやBAFTA(英国アカデミー)に数々の部門でノミネート。
カンヌやメディアでも瞬く間に注目されA24配給となり、プロデューサーは「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス‥なら間違いない!

ということでやっと配信きたけれど。

「今心が弱っているかたは見ない方がいい」
と言われたら‥どうしますか?

私の心はいつも弱いです。
元気になるのはいつの事かと途方に暮れる事もあるので、どちらかというと見ない方がいいのかもしれません。

しかし「心に刻まれる」とか「号泣した」などと感想が書かれていたら映画好きとしては観てみたい衝動に駆られますよね。
「心が弱いのに刻まれるとダメなのか‥」って良い意味なの?としばらく様子見でした。

軽い葛藤の末

そろそろ大丈夫…だろうと自身に確認をとった上で
この映画を薦めてくれた映画好きな知人は、
今までの人生でベストに入るくらい!
で も 元 気 な 時 に 観 て !
と鼻息荒く語ってくれたので
思い切って観てみたという映画の感想です。

まずは簡単なあらすじです。


11歳のソフィーの夏休みは、離れて暮らす31歳の父親カラムが計画した旅行に同行する。
トルコの僻地にある観光地で2人は離れている間を埋めるように親子の関係を築き、楽しく過ごす日々をビデオカメラでお互いを写しながら思い出を収める。
20年後、カラムと同じ年齢になったソフィーはそのビデオを見返し当時子供では気付かなかった父の一面を見出すこととなる…。


※ここよりネタバレ&感想です





この映画を観たあと久しぶりに海の底で体育座りをしているような、そんな感覚に襲われました。
心が…とか言われた刷り込みも少々あったのかもしれませんが
自分は本当にキツく今思い出しても正直しんどいです。
何か起こったわけでもない、誰が観ても驚くようなラストでもない、そこに映し出されるのはほんの少しのハラハラした父カラムの行動と、遠巻きに見ているようで見ていない無邪気なソフィーの姿ばかりです。
よく分からなかったという感想をお持ちのかたはそれで全然構わないと思います。
決して見方が間違っているわけではなく、その方が今ある心の健康を保っているという確信に繋がるものなのですから。

人知れず涙を流し続けた夜、朝になり眩い景色の中でふと襲ってくる黒い雲。
何度も何度も押し寄せる不安、哀しみ、絶望感。
眠っても悪夢しか見ないし起きても灰色の景色。
暗闇の波に飛び込んではみるものの、また何かに引き戻される。
太陽に身を任せてみても、或いは激しい運動をしてみても何をやってもつまずき、スムーズに日々を送れる事は何一つ無い。
そしてまた自分を責め落ち込む…。

父親の苦悩が手に取るように理解できる場面や、具体的な事は分からないけれども誰にも理解し難いであろうその生きる事への苦悩が、自分には共感した部分でもありました。

その中で無邪気に振る舞う我が子と観光地を照らす明るい太陽。
心とは正反対のあまりの眩しさに疲れ、日焼けを緩和する為にソフィーの背中に塗布するクリーム(アフターサン)
苦しい中でも、せめて思春期を迎えようとする娘に楽しい思い出を残してやりたいと願う父の愛情。
自分が親から与えられなかった愛情を、今のうちに充分に我が子に注ぎたい。
いつかの終わりを迎える前に。と
カラムは静かに見守りそして遠くを見つめます。

私も実際1人で子供を育てていた時期にそんな気分になった事があり‥
子供が心配するから辛そうな顔を見せてはいけない。
子供の「楽しい」と思う事(思い出)を出来るだけ叶えてやりたい。
現実は厳しいかもしれないけれど、この子には「私」しかいないのだから。
という妙なプレッシャーがあったのは確かです。
その時期はまさしくカラムと同じくらいの年齢。
まだ、若い頃の生き生きとした経験の記憶が薄れていない時期で、昔を振り返っては自分の選択した現実を憂えるのです。

今だから「親として一生懸命だった」過去の自分を俯瞰的に思い返す事ができるのかもしれません。

そんな彼の(あらゆる疲れた人の)胸を抉るような寂しそうな笑みと共にミラーボールが光り、そして映画は終わりを迎えます。
ビデオを見返す31歳のソフィーは、最後となるであろう当時の父親の映像(娘の想像)を見て何を思ったのでしょうか。
その後ろでは大人になったソフィーの子供(多分)である赤ちゃんの声がかすかに聞こえてきます。

まさにこれ…。
という言葉しか出ませんでした。
みんな年齢性別など関係なくギリギリの所で立ち気分の落ち込みを見ないようにし、また歩き出し立ち止まる、その繰り返し。
彼はどうしてこうなった。という具体的な理由の表現はありません。
この映画は、親子の会話と表情だけで通ってきたであろう楽しかった過去や子供時代の辛さを想像させ、余計な説明はありません。
娘が父親を心配そうにふと見上げる仕草。
父親が娘にさりげなく話す子供の頃の苦い経験。
観た人それぞれの思いや経験を踏まえた上で想像し、感じて下さいと託されているのです。
そういう意味では、監督の経験からこの映画の構想ができたというエピソードらしく、見る側に委ねるだけでなく個々で感じる気持ちや経験を丁寧に丁寧に描いている
そんな気がしました。
時々差し込まれるシーンも一度観ただけでは分からない伏線となっており、観る度にじわじわと心情の奥深さを感じることになるのです。

そこで、映画全般で表される気持ちや身体の浮き沈みを表現するサウンドも特徴の一つ。
私もカラムと同年代ということで聴き覚えのある曲が流れ、REMやBlur、The Lightning Seedsなど郷愁にふけるには十分でした。
やはり何処の国の人も「カラオケ」好きなんですね。
知らない人の歌なんて聞きたくないので、父親も歌おうとしないし、気を遣って娘が歌うけれど
えっ!その曲きたか〜一番辛い時期に聞いたヤツや‥!
終いには二人はカラオケ大会の会場から逃げ出します。


そしてQueen +David Bowieの「Under Pressure」が流れ、カラムとソフィーが楽しそうにダンスをするシーン。
最後に親子はお互いを大事に大事に抱きしめ合います。
終盤でしたが、この優しいシーンだけでもどれだけ我が子を愛し、そして父親が大好きだったか痛いほど分かります。

この曲は耳にしたことがあっても歌詞まで考察したことがなかったので、字幕の和訳を読み感慨深いものがありました。

引用です。
https://www.worldfolksong.com/popular/under-pressure-queen.html

「愛を分け与える=プレッシャーとなる」
ここに何か映画の鍵がありそうな気もします。
初見の感想としては、親の立場から映画を観て考察したので「自分(親としての気持ち)から我が子への思い」だったのですが、時間が経つにつれいつの間にか
「自分(娘としての気持ち)から母への思い」
にシフトチェンジされてました。
たくさんのプレッシャーを抱えたまま親も苦労してきたんだろうな。などという‥
こんな自分としては大分穏やかに物事を考えられるような思いもよらない気付きがあったのは確かです。

細かい部分を思い出そうとするとまた超超エモい気持ちになり涙が出てきてどうしようもなくなるので、結局何が言いたいのか分からない文章になってすみません。
それくらい感情に訴えかけられた映画だったということでお許しを。

この映画が初めての長編作品ということで、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ監督をこれからも注目していきたいです。

注意:
超超おすすめはしておりますが、
今現在心が辛いと感じているかたは、どうか少しでもお元気になり体調を取り戻してから、
この素晴らしい映画をご覧になって下さい。

映画はいつまでもあなたを待っています‥。




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