見出し画像

風の谷でやさしくなれたら

『ナウシカって、とっても聞き上手ですよね』

たまたま点けていたNHKから聞こえた声に、なぜだか泣きたくなった。

どうやら『風の谷のナウシカ』を通してウィズコロナの社会について考える特番の再放送らしかった。コメンテーターには生物学者・歴史学者・美学者の三人が招かれており、冒頭の言葉は美学者の伊藤亜紗さんのものだった。

漫画版『風の谷のナウシカ』では種族間の差別が色濃く、劇場版であんなにキラキラしていたクシャナ殿下も女であることを理由に王家の人間から不当な扱いを受けていた血族的弱者だった。間違ってもふわふわのネコバスなんぞはとても登場できない殺伐とした世界。そんな世界で、ナウシカだけは劇場版となんら変わりのない美しくしなやかな少女だった。

このnoteも含め、あらゆるインターネットツールの発達で私たちは『発言する』ことに何の苦労もしなくなった。多少の障害はあれど、言えないことなど基本的には存在しない。意志さえあればたとえ誰かに対する殺意でも簡単に書き込める時代。

たくさんの『言いたい』がひしめき合う中、それを『聞こう』と動いている人はどれくらいいるのだろう。

思えば、壁打ちのテニスボールのように想いが消化できない日々が続いていた気がする。日記を始めたのも元はそう言う気持ちだった。しかし、人の話を聞こうとする余裕もないのに自分の声が届けられるはずがなかった。今の書きかたでも間違ってはいないと思う。でも、いつの間にか周りの声を聞くことをすっかり忘れていた。

ナウシカを聞き上手といった伊藤さんの話は、どの言葉を掬ってもなんの毒素も感じなかった。ナウシカのことを聞き上手と観察できたのは、伊藤さんの心もまた聞上手なんだと思う。私もああなりたいと思った。

本屋に行ってナウシカの原作を大人買いしてきた。B5判7冊で3500円しなかった。いち漫画読者として他市場に比べたその安さに驚いた。多くの人に普及されるべき内容だから価格の垣根が低いのかもしれない。ありがたみを噛み締めながらゆっくり読んでいこう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?