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本当になかった変な話

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老人

僕の腰痛と、君の元気を交換してくれないか。
二十歳そこそこの若者は少し考えてから、良いですよ、と微笑んだ。
まず、二十歳そこそこの元気な若者は、自分が元気だという自覚がない。次に、大人は腰痛ってよく言うけれど実際のところどんなものなんだろう?、という疑問を少なからず持っている。そして、もちろん愚かである。腰痛を味わってみたいという好奇心を飼いならせるだけの自制心を持っていればそいつはもはや若者では

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ちょっと今困っています

というのもパラシュートが開かないんです。
それだけならまだしも、気を失うことが出来ません。意識がどんどん冴えてきます。このままでは、地面に激突する瞬間の恐怖が人生最後の記憶になりそうで嫌です。

ただ、今現在に限って言えば、非常に綺麗に富士山が見えます。

決心

帰宅後すぐ二階へ駆け上がり、息を落ち着かせるまもなく袋から一冊のマンガ雑誌を取り出す。
今日はこれを読むのが楽しみで午後の授業に身が入らなかったほどだ。
ゆっくりと上品にページをめくるようなまねはしない。何しろ分厚いのだ。バラララッと一気にめくる。あれ?。もう一度最初から、少し慎重にめくる。ない?。恐る恐る巻末の目次を見てみる。・・・・・・・いや休載かい!。

季刊やぞ!!。

一年に四回しか出ぇ

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9:1

二つの勢力が。

「しばくぞコラ!」
「やってみろや!」
「ああ?」
バキッ!
「ったぁ…!何すんねんワレ!」
「お前がやってみろ言うたんやろがい!」
「ちょ、落ち着いて!やめましょうよ!」
「なんやお前怖じ気づいたんか」
「そんなことないスけど」
「ほな行けぇ!」
ズン!
「ぐっ!ほら見てみい!お前がぐずぐずしてるからやられたやろがい」
「ちっ、しゃーない、俺もやったりますわ」
ドカッ!

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裁判

アメリカの裁判。陪審員に向かって検事は得意気に言った。

「さて、先程から暴行の容疑を否認している彼ですが、皆様にはこちらをご覧いただきたく思います。」
一台の大きなモニターが運ばれて来る。
「これは犯行現場から15メートルほど離れた雑貨店の店先に設置されている防犯カメラの映像です。」
検事はリモコンをモニターに向ける。ほどなく、ある映像が映し出される。
すぐにざわつき出す陪審員席。少し遅れて

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風呂から始まる

風呂に入りながらにしてその風呂の栓を抜く。実家暮らしの頃はそんなことはしなかったが、一人暮らしのユニットバスだとほぼ毎回そうである。一度湯を全て抜いてから空の湯船の中で体を洗う。

その日もいつものように湯に浸かり、体が温まったなというところで栓を抜いた。膝からすね、すねからくるぶしへと水位が下がり俺はなんとなく下がる水面を見ていたのである。

あれ?

くるぶしから先、足の甲から爪先までが、お湯

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連行

警察官が犯人を家から署に連行。

「外にマスコミが群がってる。感染対策の面からもマスクをつけろ」
「はい」
「なっ、ちょ、お前お洒落マスクすんなや」
「え?いや…これしかないんですけど」
「ええ?それ『しか』なんてことある?普通のも持ってるけどイベントとかのときはこれを着けて気分上げますー、やなくてそれしか無いの?」
「洗濯出来るやつなんでこれあったら不自由しないし…」
「いやお前、今から署に連

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良い人

倒れていた男を助けた婦人。

「あ、気がつかれましたか。倒れていたのでここで横になって貰っていたのですよ。貴方は丸2日眠り続けていました」
「う…そうでしたか。実は旅をしていたのですが途中で食料が尽きてしまい、なんとかこの町にたどり着いて…そこから覚えていません。助けて頂いてありがとうございます」
「いえいえ。さあ、栄養を採らないと。でもいきなり沢山は食べられないと思ってスープをご用意しています」

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弱肉強食

個人経営の雑貨屋のレジ、店主の若い女と客の中年男性

「気に食わん。なんで応対しに出てくるのにこんなに時間がかかったのだ」
「申し訳ございません」
「いや、理由を聞いているのだ」
「お客様がいらっしゃったことに気づきませんで…」
「それでも接客業か!今日はサービスしてくれるんだろうな」
「商品の割引という意味ですか」
「そうだな」
「何故?」
「『なぜ』?だから、応対しに出てくるのが遅かったから…

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最前線の緊張

2人。

「見てや。肘のとこ。蚊に噛まれてさ、めっちゃ腫れてんねんけど」
「うわほんまや。肘2個あるみたいなってるやん」
「肘は2個あんねんけどな」
「そうか、お前アホやもんな」
「うん」
「…いやほな言うほど腫れてないやないか!」
「しっ、声でかい。俺ら偵察部隊やぞ」
「すまん。でも見てみ。とっくに敵に見つかってもうてる」
「ええー!」

ライトに照らされる2人。敵の斥候1人。

敵「さっきから

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プロポーズ

「結婚を前提にUNOやろう」
「ええよ(ポッ)」
「ほなドロー4」
「なんやこいつ」

水くさい

最前線。飛び交う弾丸。

「うっ!」
「どうした、あっ、撃たれたか!」
「は、はい…すいません、自分はもうダメです」
「いやお前、もう死にかけてんのに敬語やめろや。もうええやろ」
「は…自分が死んだら故郷(くに)の両親に伝えてください。義弘は立派に戦っ…」
「お前義弘いうんか。付き合い長いのに知らんかったなぁ。てかマジ敬語やめろって」
「あと女房に…て…下さい…」
「最期まで敬語やん、なんやねんこ

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THE MASTER MIND

冬。学校からの帰り道。
「マスターマインド!…今日寒くない?」
「え、うん。寒いな」
「ちょ、寒すぎる。コンビニ寄ろう」
「ええで」
「肉まん買お」
「俺飲みもん取ってくる」
「うん」
「(飲み物コーナーで1人うろつきながら)…マスター…マインド…?」

「おい、何してんねん、飲みもん決まった?」
「あ、ああ。ちょっと待って」
「俺もう買ったから外出とくで」
「わかった(マスターマインド……とは?

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