弱肉強食
個人経営の雑貨屋のレジ、店主の若い女と客の中年男性
「気に食わん。なんで応対しに出てくるのにこんなに時間がかかったのだ」
「申し訳ございません」
「いや、理由を聞いているのだ」
「お客様がいらっしゃったことに気づきませんで…」
「それでも接客業か!今日はサービスしてくれるんだろうな」
「商品の割引という意味ですか」
「そうだな」
「何故?」
「『なぜ』?だから、応対しに出てくるのが遅かったから…」
「それがお客様に対してどれ程の不利益をもたらしたのか具体的に言っていただかないとどの程度割引すべきか…」
「うるさい!不愉快だ!…そう、客が不快な気分になっているのに何も埋め合わせをしようとしないのかね!?」
「私も今不快です」
「私の態度が不快だと?それはそもそもそっちの態度が悪いから…」
「いえ、見た目と臭いです。見た目と臭い。あなたの見た目と臭いが不快です」
「何回も言うな。それに今そんなこと関係ない」
「いや、不快感を与えるか否かという点において共通の話題です」
「ちょっと君、頭がおかしいのではないかね」
ドスッ。
「え?刺すほど?刺すほど不快なの俺?」
「いえ、衝動です。誰でも良かった」
「何て女だ」
ドスッ。
「嘘だろ。ちょ、死ぬ」
サクッ。
「し、死ぬ前にどうしても言わせてくれ。キスして良い?」
「良いですよ」
女にキスする男。
ズンッ。
「まだ刺すか。俺どうせ死ぬしオッパイ触っていい?」
「どうぞ」
ザクッ。
「お尻触っていい?」
「はい」
ズムッ。
男は最期の力を振り絞り、女の体を触り、揉み、つまみ、舐め、あらゆる性衝動を満たそうとする。女は端からナイフを取り出しては男に刺し、刺してはまた取り出す。2人とも苦痛と恍惚に顔は歪み口を大きく開け、よだれを垂らすというよりはもはや流している。女はその間ずっと、小さいがはっきりと聞こえる声で「生きにくい。生きにくい」と言い続け、男はその言葉の意味を遂に理解できないまま力尽きる。
この雑貨屋は今日も開いている。ナイフの品揃えが豊富。
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