マガジンのカバー画像

後編·四季ハズレ

15
物語の舞台は主に中国蘇州である。前巻シキ外れと緊密な関係をしている。(前巻を読まなくても差し支えもない)  今度四季ハズレは考えに考えを重ねて、前巻と合わせて登場するキャラクター…
運営しているクリエイター

記事一覧

第十一章(中)

コン、コン、コン、

「はい、」
 一秒もせずに、ドアは開けられた。

「あれ?なんで李尋玲が、サービス係が?さっきの二人を呼び寄せてくれればよかったのに、どうやら料理の運びの担当に忙しそうに見えるけど、まさかブースまでも誰もいないほど忙しいなんて、やっぱ誰かを、」

「いいえ、いいえ、結構だ。あの、瑜覃文は、」李尋玲が慌てて文成羽のアドバイスを拒絶した。

「服についた匂いを払いに行った、タバコ

もっとみる

第十一章(上)

 降りつづけている雨の音より会議場の外で待たされた少なくない記者たちの互いの囁き声は時折どこかからビールを通り抜けた風のように内部の気圧に影響する。

「声を低くして!」記者たちの中の誰かが一声でびっくりして、皆が黙るようになる。

 とうとう雨水が硝子を当てる音もよくビールに響き渡るほどに静まり返るようになった。

 雨脚はまだ激しくなっている。それも来てくるとともに空の彼方で瞬いて閃いた雷光の

もっとみる

第十章(下)

「良し!良し!」
 周英超がカフェのほうへ走っていく。

「彼が道を知っているの、こんなに速く走って、なんかさっきと違って、ずいぶんいい調子じゃないの、一体何があったの、」穎毅然が隣の一時の同僚に小声で聞く。

「その人は鐘(ゾン)さんの友達らしい。前ニ、三度来たことがあるみたいだ。あっ、たしかクラスメイトみたいだ。気が荒いから、気をつけて」

「もっと詳しく言ってもらえないの」

「この前飲みす

もっとみる

第10章(中)

「すみませんでした」
 李尋玲がなにかに気づいたように謝る。

「どうしましたか、李さん、きゅうに」その反応に驚いた井上が身震いをした。

「はじめてなのに、こっちのことばかり話して、またしょうきょくてきなことですし、」

「李さんって、日本人の立場からいえば、えっと、前のであえた子たちとくらべればなんといえばよいか、れいぎくるしいみたいです。」

「レイギ?あの、すみません、れいぎって、ちょっと

もっとみる

第10章(前)

カフェへの途中は方向音痴の穎毅然が何度も方向を違えたあげく、カフェに着いたときはカフェの責任者に予想された時間に外れた。
 穎毅然のようにここの服装に相応しくなくて、目が立った何人がすでにもともとカフェの係りの群れにまじこんだ。

「あの、すみません、ちょっと道に迷って遅れた。」穎毅然が何もせずにただ立っているカフェのリーダーっぽく見えた人に話をかけた。

「また一人なの、ちょっと困ったね。あいに

もっとみる

第九章

「あっ、さむっさむい、朝っぱらこんな服を着てはきついなあ。背広が薄すぎるんじゃないの、」
 袁章の先に便服からスーツに変身をした穎毅然が更衣室の外でぶるぶる震えている。

「さむい!雨が降っていたの、昨日はないと知らせてくれたのに、まったく頼りない。穎毅然、もう終わったの、速い」袁章が言いながら、携帯webの天気予報を穎毅然にみせている。

「雨?朝は十時半まで小雨で、午後は雨のうち晴れの可能性っ

もっとみる

第八章

 朝、
「いいえ、それはちょっと無理ではないだろうか、いや、そういう意味ではなく、もし支配人の趙さんの意思ならば、お話の通りに進むべきだ。新人のほうは大丈夫だけど、歓迎会の準備はさすが。素朴でいいの、え、もうすぐ正月を迎えるし、人手不足ということも不可避だ。では、そうしよう。宴というと、日本のある商会?もともと上海の会場をこちらに移ることとなるの、分かった。ちょっとメモさせてもらって、はい、分かっ

もっとみる

第七章

「外国人フロント再開のことは定まっているらしい。部長の席に戻る日までは多分遠くないはずだね」

「えーこれはこれは、なかなかおめでたいことだね。というと、言われたとおりに鐘明景があっちに行くことになるだろうね、」

「え、そのとおりだ。とはいえ、」任遠帆の話が急に途切れた。

 任遠帆が長く溜め息をして、タバコをつけて、ぐっと吸い込んだ。

「難しいのは難しいとはいえ、簡単なもんだけど。あの、イン

もっとみる

第六章

 鐘明景のオフィスには黒い字できっちり埋まった書類がライティングデスクに散らばっている。そのほかによく高く畳んである書類も見える。
 空気にインクの匂いが満ちていて、またコーヒー豆の苦い香りが混んでいる。

「コーヒーでもいいの」
「はい、お願い」

 カフェマシンが豆を磨い始めた。鋭い音が立っている。鐘明景がのんびりと紙コップをノズルにおいてから、任遠帆に向かった。

「例のことなんて、」

もっとみる

第五章

 眩しい陽射しが窓を透して、ちょっと狭い通路の半分も壁一面にも金色に染め上げた。ニ、三人で並んでいるホテルの係が小さい声で囁きながら、食堂を行ったり来たりしている。
 
 ホテルのウェイターの食堂は三階にある。新人育成の教室も経理部も安全管理部も三階にある。

 食堂側の囁きと比べたら、新人育成の教室の声がずいぶんざわめいているように聞こえる。

 いま、インターンシップの担当が午前インターンシッ

もっとみる

第四章(後)

「あら、どうやら本題を忘れちゃったかな」しばらくして、陳欣明が星の見えない夜空を見上げて、溜息をした。

「最後まで聞きたいの」

「最後まで語ってください」穎毅然が前の憂鬱を一掃して、例の話の終わりを強く求めてきた。

「残っていることはもう言った甲斐がないけど、言おう。そう、二人が出会った。最初神農架の入口で。その時仮の料理人も傷だらけだった。服が血に濡れてしまった。疲れ切っていたのに、まだぎ

もっとみる

第四章(前)

「その二人の先生は社会の名料理人だそうだ。名料理人の門下はもともと三人の弟子がいるけど、もう一人は?殺されちゃったそうだ。食あたりに関係があるその仮の料理人に!それは当事者の言葉だった。
 三人誰でも世に出る前に名料理人が不治の病で亡くなった。仲の良い三人が名料理人の形見を片付けた時、案外に不思議なレシピを手に入れた。誰でも『知っらない、』『見たことがない』ものだったそうだ。それには誰も聞こえるの

もっとみる

第三章

「常連さん?」

「えっと、平日なら、わざと彼を待つために一時間も延ばしても、まあ、やっぱ間に合えない場合が多かったけど。ところで、その人は声がちょっと四川訛りっぽい。特に酔っ払っていた時には、」

「そうなのか、って、聞いたことがあるの」

「聞いたんだよ。故郷のことを言い及んだ覚えがある。間違えなかったら、綿陽市の安県だっけ、」

「えーもしかして、あの地震だったの、」

 皺が出るほど、額の

もっとみる

第二章

 学生たちが広場のようなところを経って、新しくできた大通りにやってきた。

 この辺りの灯りはさっきのより一層眩しくて、ここを通ったすべての人の目を奪うほど光っている。学生たちの心は繁華な商店街に建ち並んだ店のガラスに投射されたチカチカしたスポットの光に激しく打たれている。
 ある商品に説き及ぶと実用性とそのもの価格を常に合わせて得だかという考え方は早々世に溢れていて、自分にふさわしいものを選ぶべ

もっとみる