第八章

 朝、
「いいえ、それはちょっと無理ではないだろうか、いや、そういう意味ではなく、もし支配人の趙さんの意思ならば、お話の通りに進むべきだ。新人のほうは大丈夫だけど、歓迎会の準備はさすが。素朴でいいの、え、もうすぐ正月を迎えるし、人手不足ということも不可避だ。では、そうしよう。宴というと、日本のある商会?もともと上海の会場をこちらに移ることとなるの、分かった。ちょっとメモさせてもらって、はい、分かった。すぐ人手を用意する」

 相手が電話を切ったら、任遠帆がすぐに新人育成の講師への電話をかけた。

「都合いいの、オフィスに来て、さっき鐘部長から電話が出た。今度新人講座の内容を変えなければならない」

「もうすぐ行く」任遠帆の電話を受けた講師が一緒に朝食をしている同僚に謝って、走って食堂を離れた。

 講師の姿が消えてきたのを見送っていた二人の女が囁いている。

「彼って本当に大変そうだね。朝食くらいもちゃんと食べられなくて、朝っぱらなのに、きっと任遠帆のほうだろう」

「余計な世話ではないの、彼は任遠帆に一番愛でられている部下なんだよ。任遠帆が部長になったら、副部長の席に座れることに決まっているんだろう」

「そう言っても、今、部長は鐘明景だろう。鐘明景が部長をやり続けている限り、部長の席も空くようになるはずがないね。ああ、いいなあ、私も鐘明景のような彼氏がほしい」

「まだ眠気をしているの、まさか鐘明景は彼女ができているくらいのことさえ知らないの」

「ええ!寮でぜんぜん言ってくれていなかった。ずるい、早く教えてよ」

「はい、はい。いま鐘明景がインターンシップの身で、大四になっているそうだ。休日にある女の人とイチャイチャしていたそうだ。何度も見られたよ、同じ人だって。しかも小さい頃からの幼馴染みなんだって、」

「へー、そうなの、ロマンチックだね」

「だから、諦めるほうがいいよ。恋人ではなくなんであろう。もう一つ、声そんなに出さないでほしい。ミルクが冷めないうちに速く飲もう、今日は早く行けば鐘明景が見られるよ」

「え、ほんとう?」

 二人の女の人はホテルの種種の噂を巡って話し合っていたが、新人人事部長鐘明景のことで終わった。大学生インターンシップの身なのに、人事部長のところからスタートしたことはホテルのほとんどの係から見れば不思議がられてももっとものことだ。


「コン、コン、」
「あの、入ってもいいの」
「あ、きたか、どうぞ」

 十分な睡眠が取れないため、目の立った隈も憔悴した顔に油っぽい髪が加わって、椅子に凭せ掛けた人がしょぼくしているように見える。

 「あっ、」その光景を見ると男の人が思わずに声を漏らしてしまった。
 
「お体、だいじょうぶ?」

「まだまだいける、心配しないで。こっちより、新人育成のプラン変動の件、一応必要なところに付記をつけておいたよ、ほら」

 講師は机に置いてあるコピー用紙の内容を読むほど顔も歪むようになった。

「それはちょっと急ぎすぎるだろう。まず五日の新人育成の日数を三日に縮めて、また急に行われる宴の準備するにはすべて男の係をそっちに助けに行かせるなら、それはいいけど、明日の朝は新人歓迎会が開かれることになるって、上の決まりにやっぱ納得がいけることではないけど、ただ、こうしたら時間のほうはちょっと厄介になりそうだ。係りのパンフレットや身分証明のカードなどもできていないからだ」

「支配人の趙さんもう言った。歓迎会は素朴にされてもいい、なんとか新たなプランを出してくれないの、頼む」

「はい、分かった。ちょっと時間はかけるけど」

「できるだけ八時までに、新人教室は八時二十分だろう」

「それはもちろん」
 男の人が承諾をしてから、筆でもう一枚の紙に書き始める。二十分じゃく過ぎていないが、汗がいっぱい掻いた。

「よし、出来上がった」

「本当なの、さっさと聞かせてくれ」

「ご協力が必要だ」

「協力してあげるから、言い続けて」

「朝十時までに、なにとぞ各部門の部長を会議室に呼び寄せてください。学生は自分の部が判明できなければ、仕事用の服も用意できない。続いて、人の格好によってのことだから、それも明日新人歓迎会には不可欠な準備で、最低限の基準だ。午後一時半ごろ学生たちを服装庫に集まらせる。服の配りは二時四十分ごろ始まる。三時には男の学生を宴に行かせるなら、二十分で着替えたら間に合える!今回宴の規模から見たら、夕食の時間になるまで恐らく終わらないはずだ。ところで、男から女から一人ずつ選んで学生代表として宣言をさせるくらいの最低限の儀式感も必要だ。身分証明のカードとパンフレットの作成は午後までに間に合えるはずだ。その後、各部門のリーダーに任せばいい。これでいいって思う」

「素晴らしい、素晴らしい、君の言ったままに進んでいこう。これから各部門の部長に知らせるから。そう、例のことって、忘れないでね、」

「外国人向けのフロントの件だろう。ちゃんと覚えている」

「頼む」
 二人が互いに礼をして、それぞれの仕事で別れた。

 
 今日の育成会議も昨日のように、終わりについているのに、教室の雰囲気がまだ盛り上がっている。

「え、つまり皆さんが着替えしたあとすぐに教室に戻ること。明日新人歓迎会が行われる場所は後でもう一度写真で示すから、多分一目すれば分かると思うけど、もし不明な点があれば、電話、QQ、あるいはオフィスに来て聞いても、大丈夫、遠慮しないで、そろそろ時間だ」

 ドアに振り向いたとたんに、任遠帆が門をそっと押した。

「あ、任副部長、ちょうどいい、どうぞ」

「皆さん、おはよう」
 任遠帆が衆人の拍手を浴びながら教室に入った。その後についた各部門の部長も次から次へと学生たちに笑みを見せながらゆっくりと並んだ。

「皆さん、さぞ私のことをまだ覚えているだろう。一昨日の夜は契約書を交換したことってまだ覚えがあるの。改めて自己紹介させていただいて、本ホテルの人事部の副部長の担当、任遠帆だ。今日は人事部部長の鐘明景が急用のため皆さんにお会いになれなかったのも残念極まりない事実ながら、これから部長の代わりに各部門のリーダーを紹介させていただいていこう」

「以上七つの部門。皆さんはそれぞれの部門に入る前に、くれぐれも心の準備をしておいてください。例えば日本料理に興味を持っているか、それとも中華料理に興味を持っているか。ちなみにうちの中華料理が蘇州らしい風味を満載していてるので、すごく魅力あるよ」

「あの、料理ができない人でもいけるの」長髪をしている女の子が一番手を上げた。

「それはご心配なく、主な仕事内容は料理をお客様の食卓に届け出るみたいなことをするだけでいい。ほかに何か聞きたいことがあるの、」

「え、そうなのか、」中華料理部の部長の話を聞いたや、学生たちが隣の友達と意見を交換してささやき声で騒いている。

「えっと、もし疑いがないのなら、こっちから人を指名するよ。もう一つは予めに言わないとね。皆さんが自分の友達と別々のところに入る可能性があるので、もう社会人になった以上、それくらいの心の準備をしておいているだろう」

 カフェ部の部長が互いの建前の話に優位を占めて、人を選び始める。

「すみませんが」男の人が任遠帆と目差しを交わしてカフェ部の部長を邪魔した。

「どうしたの」

「ちょっと聞いておかないとことがある、学生たちに」男の人が二人だけで聞けるくらいの大きさで聞いてみた。

「じゃ、お先に」

「皆さん、突然なんだけど、日本語ができる人いるの」
 教室は咄嗟に静かになって、その場の誰でも戸惑った顔で互いに見合っている。

「いない、の」男の人が呟いた。

「どういう意味なの、なんでいきなり日本語ができる人を招くの、任遠帆の意思なの、って、任遠帆がどこ行くの、さっきここにいたのに」

 日本料理部の部長が疑問を出した。声は大きくないが、今の教室にはあまりにも憤怒っぽく責をくっているように聞こえる。

「袁章って、お友達も日本語が上手なんだろう」
 一昨日の夜食で袁章に「鐘明景が日本語ができる人を探している」ということを知らせた女の子が呟きながら、二人を指した。
 女子学生の言葉が魔法をかけられたかのように、在席の人の視線を二人の在り処に引き寄せた。

「お二人、日本語ができる?」

「まあ、簡単な言葉なら少しだけ話せる。挨拶くらいなら大丈夫なかもしれない」穎毅然は苦笑して目を逸らした。袁章は立って、何かを言い足そうとするところを、

「実はちょっと事情があるから。詳しいことはいまいち説明できにくいから、とにかくお二人を副部長のオフィスに連れて行くから、では。お二人、ついてきて」
 各部の部長はまだ混乱な状況から目が覚めていないうちに男の人が二人をオフィスに送った。

 各部の部長が学生を自分の部に編入したばかりでちょうど昼ご飯の時間に入る。今は教室に各部の部長を除いて新人育成の男の一人だけだ。
「もしかして外国人向けのフロントがほんとうに再開されるの、事前に知らせてくれないのならずいぶん困るよ。例えば今度突然の宴なんてこと、それはいいけど、外国人向けのフロントって大したことなんだよ」

「オフィスの部長の言うことに賛同する。もしほんとうに再開されたら、人手、いや、特別な能力を持っている人を欲しがったら、なにとぞフロント部に手を柔らかにしてください」

「中華料理のほうもたいへん困っているよ。以前日本人のお客が来た時はただうちのウェーター日本語で料理をうまく紹介できなかったため何度も苦情されたことって、人事部がそのことに連帯責任もあるだろう。なんで日本語ができないということは仕事に怠っていたと理解されていたの、おかしいだろう。」
「経費不足の件はなんとかしてくれないの。上に届けないの、もし本当に再開されて、日本人の客が増えて、そのような事のため苦情されたらそろそろ下に席を譲らざるを得ないことを考えなければならない。」

「すみませんが、おっと、皆さん全員揃ったか、ちょうどいい、十二時四十分までに会議室に集まること。いくつ重要なことがあるからぜひ遅れないで、」鐘明景が言い終わってからすっと走りに行ったが、教室は雰囲気が固く凍えるとともに誰でもの顔でも固くこわばっている。

 今日の食堂も昨日のままだ。

「オフィスの人が昨夜のなんだっけ。急に声を上げてびっくりしたよ。彼の言い方から見たらなんか私たちのことをすっかり忘れてしまった感じだった。それともふりをしていたの、穎毅然はどう思うの」

「必要はないだろう。その人はなんかとても疲れそうに見えた。徹夜したみたいだ。それより、彼に言及された外国人向けのフロントって一体どんな存在なの、そのようなところに入るなんて想像できないんだ。」

「さあ、今どう考えても無駄だろう。いざ何かあったらなんとかなるさあ、」

「何もうまく行けるといいなあ」
 穎毅然が窓外越しにホテルの周りの風景を眺める。
 街頭は一つずつ並んでいる街灯にも赤い灯籠を掛けてある。そのような灯籠は昔のような蝋燭の光によることではなく、電球の光だ。街灯のみならず、並木の枝にもイルミネーションを掛けてられている。夜に入ってここから見下ろすと、こちらも絢爛たる海となるようだが、風が吹いていると光線も散って見られる限りところどころを照らして、一瞬の時に生きていた沖となるような幻も時折のことだ。
 その時のひかりがその時の人の歩みを止めないばかりか、心の隅にも届かない。自動車の数は激増に反した行人の姿は日々減る一方だ。車はほとんど上海の方向に背いているのも当然だ。車の高さであろう、昔なり今なり、出世した者ならではの帰り方の一つの権利だ。さすが物も者も外へ離れてばかりいて一日中のラッシュを過ぎると、似て非ある街の賑やかさは昨日より肌に滲むほど冷たい寂寥感が募る。

「あ、助けてくれて本当にありがとう。もともと夜までもどうしてもできないことだけど、まさか夕食まで一時半残っているなんて、本当にありがとう。えっと、机のほうはもう準備しているけど、席と席の距離によって一つずつのノートとペンに合わせて机に置いてください。置く前になにとぞ距離をちゃんと計ってください。あ、特にノートの紙に何か書いていたら、新しいのを取り替えなければならない。ぜひ見過ごさないように」話しているのは宴部門の主管の若い男の人だ。
 すべてのことは新人育成の講師の新たなプランのままにうまく進んでいる。その場で手伝っている男の学生でもいい、彼らの先に各部門に入って、仕事の技を習いに行く女の学生でもいい、全員はすでに各部門の制服着用している。ほぼはスーツだ。

「はい、水だ。ご苦労さま、はい、水だ。あの、皆さん、一応休憩しよう!」宴の主管の呼び声に応じて一人ひとりも同じところに寄りに行く。

「えっと、袁章だろう、」
「はい、えっと」
 袁章は見ず知らずの聞き手を見るなり、当惑の色が顔に浮いた。
 向こうが急ににっこりした。

「あの、今朝、なにあったの、お二人は講師に連れられて行ったの、どこに行ったの、」
「あ、私たちは別の意味はない、ただ気になっているだけだ。」
 どうも聞き手の仲間のような人が笑いながら水を袁章に一本渡す。

「あ、大したことではない。本当に日本ができるかどうかのことを確かめたにだけだ。」

「お友達はあちらで一人で水を飲んでいるという人なの、」

「え、」

「お二人は日本語ができることって、すごいね」

「いや、いや、とんでもない話だ。専攻科目だからもうできるかできないかという話ではない、普通は高校生が英語を習わなけれならないと同然だろう。それは同じなんだよ、それにできるといっても、まあまあだ。」

「えっと、兄さんも旅行の専攻?」

「ええ、でも袁章と同じ学校ではないけど、うちの学校には日本語の専門課程がないからだ。」

「なるほど、なるほど」

「そういえば、袁章がどの部門に入ったの」

「フロントなのか、実はちょっと曖昧だった。兄さんは、」

「ここだよ、まあ、上は二、三階の会議室にも関係あるって、つまり宴の部門だ。あの水を配っている人がうちの主管だ。」

「そうか」

「そういえば、曖昧ってどういう意味なの、別の意味はない、こっちに来る前は『こっちにいろいろことがあった、おとなしくリーダーについたほうがいい』って先輩にそう言われちゃった。袁章も気をつけてほしい。」

「あ、どうも。実はフロントって言われても、ホテルのではなく、なんと表せたらいいか」

「外国人向けのフロント、なの」

「ええ、そう、そう、なんで兄さんが知っているの」

「まあ、もう何年も卒業していた先輩から聞いた覚えがあるみたい。このホテルは何年前にその部門が動いていたけど何か事情でやむを得ず閉められたとか。」

「へっ、詳しく言ってもいいの」

「ごめん、私たちもそれくらい知っているだけだ。私たちのような若い人がそのような仕事を長くやってはいけないはずなんだけど、袁章もそう思っているだろう」

「まあ、それもそうだけど、いろいろ教えてくれて、ありがとう」

「いいえ、いいえ、」
 両方は話を終わらせた五分過ぎると仕事が再開するようになった。

「あ、そろそろだ。あの、皆さん、お疲れ様、宴部門の人以外はこれでいい、仕事場は二階の会議室に移動すること」
 大勢の学生にほとんどの人が行ったが、少数のは宴の主管について二階に繋がっているエレベーターのほうに行った。

 


 


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