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(仮)仮想村社会物語

「今通ったの、シロの車じゃねぇか」
「ああ、うちの村であんな低いのはシロしかいないな」
煙草の自動販売機の前でケンとトオルが停めたバイクに少しよりかかりながら言った。
「あっちは、シロの家じゃないべ?」
「シロは畑作業を早めに切り上げてあっち行ったりこっち行ったり忙しそうだからな」

ふたりは高校中退組みでぶらぶらしていた。
しかし、親が毎日うるさいので
夏になったら一緒にふもとに出て仕事を探そうと思っている。
「シロのやつ〜何度もふもとの町まで行って、真理を探してるんだろ?真理の実家とか真里が雇われていた、なんだっけか。ムラサキってカラオケバーも見に行ってるちゅうじゃん」
「ムラサキで真理はナンバー1ホステスだったって?だけど年齢を考えるとあの店まずいぜ。なぁ笑」
ケンは煙草の灰をポンポンと指で弾いた。
「ところで〜あの車は真理が買ってやったんだっけか?うちのババァが言ってたぞ
真理の今までの稼ぎの金でシロが車を買ったんだぞって。結婚して、いきなり高級車だからな」
「ん?俺は違う話を聞いてるぞ」
「ああ?」


「シロんちもあの宗教に入ってるんだよな?ジジイの代から」
「〈清い心で暮せば幸せになります。
勝利します。汚いものは排除退散!〉笑
村長が教祖だべ。よく言うよな」
「去年までの駐在の野郎も入っとったな」
「校長と校長の妻もだ。あとはPTAのババァか。
オレの嫌いなやつばっかりじゃ!笑」

「そいでシロの息子が結婚してからなぁ
集会に出なくなって、シロはぁ〜不幸なるぞとババアがギャアギャア言ってたな。
カナイのババア。
だけど結婚したあとにシロは宝くじが当たったんだべ」
「あん時がやつの人生の頂点か?笑
宝くじかよ。そういやあの頃
金があるって知ってオレの後輩チャン達が
たかりに行ってたなぁ」
「メグミ達だろ?お金があるところにお□□こが集まるんだな笑。俺も早く一発当てよう」
トオルは思いっきり煙草の煙を肺まで入れて吐き出すと、話を続けた。
「だけど残った100万で今度は町に出て馬券を買ったらぁ全部無くなったらしい」
「詳しいな」
「田園っていう店のマスターからその話は聞いたでな」
「そういや、マスターは真理の居場所を知らねえのか」
「前にちらっと聞いたら、知らんと言ってたよ。シロもマスターに聞いてんだろ」

「あの店は、案外スパゲティーがうまいんだよな。大盛りで。週に1回は食いたくなる」
「ああ、パスタじゃなくて、ナポリタンスパゲッティな。」
「考えとったら腹すいてきたな。田園に行くべ」
 ふたりは煙草を地面に捨てて足で踏み消すとバイクに乗り、シロが行った道と逆の方向に走り去った。

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