輝きを取り戻しつつあるダイヤモンド。 浦和レッズ テクニカルダイレクター・西野 努氏 インタビュー (日本語訳)

インタビューの元記事(ポーランド語)
https://azjagola.com/2021/09/09/diament-ktory-probuje-odzyskac-swoj-blask-rozmowa-z-dyrektorem-technicznym-urawy-reds/

はじめまして。僕は東京外国語大学でポーランド語を専攻し、SHIBUYA CITY FCでインターンスタッフとしても活動している学生です。

このインタビューはJリーグなどアジアのフットボールを扱うポーランドのポータルサイド「AzjaGola.com」に掲載された、浦和レッズ テクニカルダイレクター 西野 努氏のインタビューを記事作成者 Kamil Gala の許可のもと翻訳したものです。

以下、インタビュー本文

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新型コロナウイルス感染症の流行によって、世界中のほとんどのクラブが困難を強いられている。この状況にうまく対応しているクラブもあれば、経営面での問題に直面しているケースもある。その一方で、この前代未聞の時期においても新たなアイデアでクラブ運営を効率化し、パンデミックにもかかわらず大きな利益に繋げているクラブも存在する。このコロナ禍でのクラブ運営はパンデミック終息後にも活きるはずだ。

そのようなクラブ運営を実現しているクラブのひとつが浦和レッドダイヤモンズだ。浦和レッズはコロナ禍を乗り越え、この困難を逆手にとるかのように、とりわけ選手の獲得において新たな解決策を取り入れている。その好例にノルウェーリーグから浦和に加入したキャスパー・ユンカーの移籍が挙げられる。コロナ禍で埼玉県のクラブの首脳陣は多くの向かい風に立ち向かわなければならなかった。しかし、浦和レッズは逆境を完璧に乗り越えるとともに、移籍市場でも「新たな方法」を見つけ出した。この「新たな方法」は現在猛威を振るうコロナウイルスの終息後も活用するようだ。さらに強調すべきは、このデンマーク人FWはゴール数を2桁をのせているということだ。FKボデ/グリムトからやってきたフォワードは新しいクラブに見事なまでに定着し、最初の20試合で13ゴールを記録した。

浦和は世界で最も先進的な都市である東京の隣に位置する埼玉県のクラブだ。そのため、クラブの内部にはフロントスタッフをはじめとした多くの人が関わっているのはもちろんのこと、TwentyFirstやTransferRoom、Wyscoutといった現地に行かずとも選手をチェックし、選手同士を比較することを可能にする「デジタル」なシステムを導入していることは何も不思議なことではない。これらのシステムによって、クラブは第三者を介さずに他クラブと迅速かつ直接的なやりとりをすることができる。これはコストや時間を削減できるだけでなく、正確な情報を仕入れられることにも繋がる。日本のクラブはデータに基づいた決定を下すように努めており、それらを統括するのがテクニカルダイレクターの西野 努だ。我々、AzjaGola編集部ではこの日本人にコンタクトをとり、簡単なインタビューが実施できることになった。

西野さんは浦和レッドダイヤモンズのテクニカルダイレクターを勤めていますが、仕事内容について教えていただけますか? 普段は何をしているのですか?

私の仕事はチーム構成とそのマネジメントです。

「チーム構成」にあたるのは選手獲得、スカウティング、選手との契約締結と更新などです。スカウティングスタッフが3名、事務スタッフが2名、そして法務担当のスタッフが1人います。私の指示のもとスタッフと協力しながら、チームの構成とマネジメントを担当しています。

「チームマネジメント」は、トレーニングのスケジューリングと実施、トレーニングの準備、アウェーへの遠征時のマネジメント、選手やクラブスタッフへの給与の支払い、また彼らの仕事の評価もしています。

また、クラブの首脳部や会長とのコミュニケーションも担当しています。

浦和レッズのテクニカルダイレクターとしてのいちばんの目標は何ですか?

私としては向こう5年以内にクラブ、そしてチームをアジアのトップに引き上げたいと考えています。それは競技面でもそうですし、ビジネスとしてもそうです。その後はトップの地位を維持し、FIFAクラブワールドカップのような国際大会でも戦えるようにしていきたいです。

直近の移籍市場で浦和はスカンジナビア半島から選手を獲得しました。北欧に目をつけたのはなぜでしょうか?

我々はどこか特定の国や地域に限定するようなことはしていませんでした。これはたまたまの偶然です。とはいえ、スカンジナビア半島出身の選手たちには柔軟性があり、日本という国や日本のサッカーへの適応も容易です。これはサッカー選手として、そしてチームとしても成功するためには重要なことです。

北欧出身の選手に関連して、キャスパー・ユンカーの移籍について詳しく教えていただけますか? コロナ禍での移籍となり、同選手はロッテルダムでメディカルチェックを受けました。

コロナ禍では我々のもとですべてのメディカルチェックを行うことは難しく、ロッテルダムでテストを受けてもらいました。

この間の状況はどのように把握していましたか?

この際はフェイエノールトの全面的なサポートもあり、状況を把握することができました。フェイエノールトの協力のおかげで来日前のメディカルをすべて終えることができました。

コロナ後もこのような方法を導入する可能性はありますか?

そうですね。資金的には問題ありませんね。コストやスタッフの時間もある程度は節約できます。クラブ間のオフィシャルなパートナーシップだけでなく、プライベートのコネクションも含めて活用できると思います。

浦和レッズのスカウトは常に移籍市場に目を光らせているのでしょうか?

もちろんです。今ではその地域(北欧)にもネットワークが増え、前よりも容易に情報を入手できるようになりました。

スカウトは実際にヨーロッパに足を運んで現地で活動しているのか、それとも日本からリモートで業務をこなしているのでしょうか?

我々には3名のスカウトがフルタイムで在籍していますが、その3人はすべての業務を日本で行っています。加えてもう1人契約でのスカウトがおり、そのスカウトはヨーロッパに滞在していることもあります。

ヨーロッパに滞在するスカウトをクラブとして抱えることは、コストがかかることなのでしょうか?

そうは思いませんね。新しい選手を獲得できなかったときに余計なコストがかかってしまうからです。

浦和レッズはチーム構成をより国際色豊かにしたいという話を耳にしますが、それは本当でしょうか?

Jリーグでは外国籍選手を5人までピッチに入れることができます。現在のところクラブには(外国籍選手が)3選手所属しています。つまり、外国籍選手の枠は2つ空いていることにあります。

今狙っている特定の国や地域(の市場)はありますか?

具体的にはありません。予算的に獲得できるようないい選手がいれば、世界中どこでもありえます。

将来的に浦和はどのようにリーグでの地位を高めていきたいと考えていますか?

日本で最高の経営陣を組織することです。HRM(人的資源管理)、スカウティング、選手の評価システムなどを指します。また、クラブのアカデミーや地域のサッカークラブと連携しながら、浦和レッズのサッカー哲学を根付かせたいと考えています。

新型コロナウイルスの流行は残念ながら特に経営面で世界のサッカーシーンを変えてしまいました。浦和レッズはコロナ禍が原因で生まれた損失に対してどのように対処してきましたか?

いち企業としてコスト削減のためにあらゆることを行いました。スタッフの給料やボーナスの削減から、選手用ウェアの洗濯や食事などの「細かい」ところに至るまで様々です。また、昨年にはクラウドファンディングを実施し、1か月で約100万円を集めることができました。

話をコロナ前の日々に戻しましょう。西野さんはサッカー選手としても活躍し、現役時代のキャリアを通じて浦和レッズでプレーしていました。当時から現在にかけてクラブはどのように変化してきましたか? また、スタッフとしての裏方として活躍するなかで何が違うと感じていますか?

そうですね、私たちは常に変化しています。まず、2019年12月に私を含めてスポーツダイレクターとテクニカルダイレクターが交代しました。それ以来、クラブとしての考え方は変えてきていて、経営面でも新しいチームを作っていきたいと考えています。

その間にリーグはどのように変化してきましたか?

何よりもまずJリーグはJ3までを含めて57クラブにまで拡大しました。1993年の初年度にはたったの10クラブでした。

ヨーロッパ各国のリーグと比較して、Jリーグの立ち位置をどのように評価していますか?

欧州5大リーグにはまだまだ及びませんが、ベルギー、スイス、デンマーク、トルコ、ポルトガルなどといったリーグとは非常に近い位置にあると思います。私はそう考えています。

リーグのレベルを底上げし、毎年のように強いリーグに作っていくためにJリーグは何をしていますか?

Jリーグでは、優勝クラブやリーグそのものが多くの収入を得られるようにするために、ボーナスや報酬のシステムで試行錯誤を繰り返しています。つまり、Jリーグで優勝するためには、毎年のように前年よりも強いチームである必要があります。

Jリーグには、かつてよりも多くのヨーロッパ出身の選手がプレーしています。この変化の理由は何だと考えますか?

リーグと日本そのもの両方に魅力があるからだと思います。Jリーグは組織としてしっかりしていて、外国籍選手も馴染みやすいと選手から聞いています。一方で、他のアジア諸国などに比べて、日本での生活に魅力を感じているようです。


浦和レッズの野望はとても大きなもので、クラブの持つ可能性はますます広がっている。チームのビジネス面での成長に加えて、競技面でも大きな進歩があったことに疑いはない。浦和は4-4におよぶ激戦の末、リーグカップで川崎フロンターレに勝利してみせたように、満を持してその強大な競争力を取り戻そうとしている。

現在、浦和はリーグ7位につけているが、3位のヴィッセル神戸とはわずか3ポイント差しか離れていない(元記事掲載時)。それに、浦和はまだ発展しつづけているクラブであることも忘れてはならない。浦和レッズを率いるのは1年前に徳島をJ2優勝・J1昇格に導いたリカルド・ロドリゲス監督。前述のキャスパー・ユンカーをはじめ、アレクサンダー・ショルツ田中達也酒井宏樹江坂任などの選手も加入している。浦和レッズは、AFCチャンピオンズリーグを制覇した当時のような日本で最も強いチームの姿を取り戻しつつある。時間は要するものの、インタビューにあったように浦和の経営陣はそれも意識しているようだ。埼玉スタジアムのファンには明るい未来が待っているかどうか? それ時間の経過とともに解決するだろう。何はともあれ、レッドダイヤモンズはトップに返り咲くための道を歩んでいる最中と言えるだろう。


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