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自分の仕事をまるっと誰かひとりに引き継ぐことは、今後ますます難しくなる。だから「仕事の引き継ぎ方法」を分類した。

私は仕事の引き継ぎが苦手だ。今後ますます仕事の引き継ぎが重要になってくる気がした。「仕事の引き継ぎ」関連のことをまとめていく。

「仕事の引き継ぎ」が重要である3つの理由

仕事の引き継ぎに注目した理由を3つ書く。

理由1.自分の仕事をまるっと誰かひとりに引き継ぐことは、今後ますます難しくなる

引き継ぎの理想は、まるっと誰かに引き継ぐことだ。

しかし現実は違う。自分の仕事を分割して、いろんな人に引き継ぐ必要がある。

なぜこうなっているのか。それは人口ピラミッドが関係ある。「生産年齢人口(働ける人数)」の数が減ることで、自分と同じ働き方が出来る人は減っているのだ。だから、引き継ぎの方法も多様化する。労働力が足りないので、育児・介護・難病・障害などは労働の障壁ではないという環境整備が必要なのだ。

人口の変化と働き方の変化

労働力が多い人口ボーナス期に経済発展しやすい働き方
・なるべく男性が働く・・・重工業の比率が高い、筋肉が多いほうがよい
・なるべく長時間働く・・・早く安く大量、時間=成果
・なるべく同じ条件の人をそろえる・・・均一なモノをたくさん提供することで市場ニーズを満たせる。労働力は余っているので、一定条件で足切りもできる。

人口オーナス期に経済発展するためには、から一部抜粋

労働力が足りない人口オーナス期に経済発展しやすい働き方
・なるべく男女ともに働く・・・頭脳労働比率高い、労働力足りない
・なるべく短時間で働く・・・時給が高騰している
・なるべく違う条件の人をそろえる・・・均一なモノに飽きている市場なので、違う価値を提供し続ける。労働力が足りないので、育児・介護・難病・障害などは労働の障壁ではないという環境整備が必要

人口オーナス期に経済発展するためには、から一部抜粋

理由2.引き継ぎは、過去の知識や価値観を捨て去るチャンス。引き継いだだけで改善されるパターンがある

引き継がれた人は、先入観なく業務を実行できる。無駄な業務やもっと良い方法を編み出してくれる場合もある。だから必要性がなくとも、自分が長く行っている業務なら、誰かに引き継ぐだけで改善されるケースがある。

自由と非効率と繁栄が共存していることは珍しくない

ビジョナリーカンパニーZERO

引き継いだ相手があなたより、非効率で再現性がない形で業務を行うかもしれない。でもそれはそれでOKだ。

理由3.仕事の引き継ぎの効果は「複利」で効く

仕事の引き継ぎ方法は、あらゆる仕事に適用できる。引き継いだときに成果が0.9倍になるチームと、1.1倍になるチームでは、時間が経つにつれ大きな差が出てきそうだ。

次に、引き継ぎ方法の多様化を考える。

「仕事の引き継ぎ方法」を4分類する

ざっくり4分類してみる。「シチュエーショナル・リーダーシップ」の考えが根底にある。

引き継がれる人の「仕事のスタンス」と「業務の理解度」で4分類する

1から4にかけて、だんだんと抽象度が高い引き継ぎとなっていく。

1.指示型引き継ぎ
・引き継がれる側のスタンス:Whyを求めていない、Howをそのまま教えてほしい
・引き継ぐ側:手順が決まっている。その手順通りにやってくれれば成果がでるから、その通りやってもらう

2.コーチ型引き継ぎ
・引き継がれる側のスタンス:「1.指示型」よりはWhyも気にしている。少しはHowを自分で考えたい
・引き継ぐ側:基本的なHowは教える。ただ、引き継がれる側にWhyも伝えて、「1.指示型」よりは仕事のやり方を自分で考えてもらう

3.援助型引き継ぎ
・引き継がれる側のスタンス:「2.コーチ型」より、もっとWhyだけ知って、Howを自分で考えたい
・引き継ぎ側:Howは引き継ぎ相手が考えてもらうようにサポートする

4.委任型引き継ぎ
・引き継がれる側のスタンス:Whyだけ教えてくれればOKです
・引き継ぎ側:Whyだけ教えてあとは任せる

「Whyから考えたい人」が「Howだけ知りたい人」に引き継ぐと事故る

上の4分類は1直線にも並べられる。引き継ぎにもパターンがあることを知らないと、自分が望む方法と、相手が望む方法が異なることに気がつかない。

引き継がれる側は「指示型」を望んでるのに、引き継ぎ側は「委任型」しか知らないパターンなど。私は委任型の引き継ぎしかできないので(=ほぼ丸投げ)、よく事故が発生していた。最近はちょっとだけ援助型もできるようになったかも・・・。

「仕事の引き継ぎ」と採用

引き継ぎと採用は関係が深いので書いておく。

自分の仕事をまるっと引き継げる人の採用は期待しない

似た能力、似た働き方が出来る人の採用は難しい。繰り返しになるが、労働力は減り、自分と同じ働き方ができる絶対数が減っていくのだ。

どうするか。複数の人に仕事を分割して引き継ぐ。その中に新規求人もあっていい。自分以外の仕事も含めて、業務を組み替える必要がある。全員にとって、新しい引き継ぎ業務がチャレンジになっている必要がある。

少し違うけど参考になる具体例を私の過去の記事で紹介しておく。求人をつくるときに、ちょっと勉強するだけで採用が簡単になるという事例だ。

辞めたら困る人は多いが、辞めてもなんとかなる場合も多い(すごく大変だからやりたくないだけ)

単一障害点とは、その単一箇所が働かないと、システム全体が障害となるような箇所を指す。

wikipedia単一障害点

その人がいないと仕事が回らなくなる場合もある。ただ、私の周囲を観察した限りではあるが、以下のパターンもかなりある。

・単一障害点となっている人の働き方が原因で、現状はその人がいないと成立しない業務になっている
・しかし、その人が辞めたら辞めたで、仮に引き継ぎがほぼゼロでも、体制を組み直し同じ成果を出すことはできる(ただしものすごく大変で、やりたくない)
その人が今のポジションを移動しないまま、単一障害点をなくすのはいろんな事情で難しい

あらかじめ人を補充したりして同じ業務を出来る人を増やせるならそれが理想だ。でも、長年放置されている単一障害点は、いろんな理由でそれができないから放置されているのだ。そのときは、ちょっと無理に引き継がせることで、状況を変化させる手もある。ある程度人事権がある人が「えいや」でやるしかない。基本これはやりたくないけど、頭の中に選択肢としては持っておきたい。

「仕事の引き継ぎ」に使えるネタいろいろ

最後に、私が過去にメモしておいた「引き継ぎに使えそうなネタ」を大きく3つに分けて紹介する。ばーっと目を通して興味あるところだけ見ればいい。

1.具体的な手法の参考になるもの
2.引き継ぎ業務の内容を説明する切り口
3.仕事を引き継ぐ側が、引き継ぎをすることで学べる

1.具体的な手法の参考になるもの

1-1.トヨタの自工程完結(書籍)(私の読書メモ
一般的に「仕事の引き継ぎのための整理」でイメージする内容に近いのはこれだろう。トヨタの製造側ではなく、バックオフィス側の業務フローを整備した内容が書かれている。

自工程完結とは、品質やライン・機械のつくり込みにより、自分の工程でつくったモノは自分で品質を保証するという考え方のこと。 後工程はお客様という考えで、後工程に不良・不適合を流さない意識が大切

「自工程完結」より

実際に私が社内のオンラインイベントの業務を書き出してみたものを紹介する。社員2名でなんとなくすすめていたものを、何も知らない人に引き継ぐとするとどうするか、という観点からやってみた。

1-2.プロダクト開発でドキュメントを書かないとどうなるか

詳細はこの記事を読んでほしい。読むのが面倒な人は以下の図だけ見てほしい。

最初のうちはドキュメントがない方が早いが、どこかで逆転する。ドキュメントがないと効率が頭打ちになる。「チャットの履歴を一定期間しか残さないことでドキュメント化を促進する」という考えは面白かった。

似た内容として、この記事もある。

1-3.人的学習ネットワークの引き継ぎ

業務内容ではなく、人のネットワークの引き継ぎもある。ここでは「困ったときに誰に何を聞けば良いか」の引き継ぎだけを考える。

トランザクティブメモリーとは、同一の知識を組織の全員が記憶するのではなく、組織内の「誰が何を知っているか(Who knows What)」を共有することを重視するという考え方です。

トランザクティブメモリーとは

「誰か何を知っているか」は、顔とセットじゃないと覚えにくいという研究結果がある。(元ネタ世界標準の経営理論 P259)

この研究では、チームのメンバー間のコミュニケーションの質や頻度とトランザクティブ・メモリーとの関連性についても分析を加えています。その結果、興味深いことに、トランザクティブ・メモリーの高いチームでは、「フェイス・トゥ・フェイスの直接対話によるコミュニケーション」がメンバー間で頻繁に行われていたことがわかりました。

トランザクティブ・メモリー

2.引き継ぎ業務の内容を分解して説明する切り口

2-1.業務を「最低品質保証」と「ベストエフォート」に分ける
・最低品質保証・・・満たすべき最低限の必須水準が決まっている、法律で決まっているものなど
・ベストエフォート・・・最大限の努力。できるだけいい感じでやるもの

この分類をしておかないと、「必須でやるべきこと」をベストエフォートのように扱ってしまうことが多い。そして、必須なのに出来てなかったりする!

2-2.不確実性の4分類

この分類を知らないと、今後の見通しを説明するとき、「わかってる(レベル1)」「わかってない(レベル4)」の2分類でざっくり引き継ぎしてしまう。実際には、「この3パターンのどれか(レベル2、複数シナリオ)」とか「AからBぐらいの幅で発生する(レベル3、見通しの幅はわかる)」とか、見通しはもうちょっと細かく説明できる。

2-3.技術的課題と適応課題

問題点を引き継ぐとき。専門家にアウトソーシングして解決できる課題(技術的課題)と、解決に自分自身の変容が必要でアウトソーシングできない課題(適応課題)がある。

「適応課題」とは、知識の有無や技術的な可否ではなく、自分自身のものの見方を変えたり、周囲との関係性が変わらなければ(=適応できなければ)解決できない問題のこと

適応課題とは

技術的課題として引き継がれたが、実際には前任者の適応課題で、担当が変わったら簡単に解決する場合も多い。

2-4.等価交換と贈与

まずは等価交換と贈与の考え方を説明する。

等価交換は業務と目的(見返り)が明確だ。

贈与は、自分の業務への見返りを求めない。みんなからいろいろ助けてもらっているから、自分もお返ししないと、というイメージでやっている。

引き継いだ業務の目的が曖昧でも、廃止しないほうがよいものがある。なぜなら以下が発生している可能性があるのだ。
・「等価交換」の視点で見ると目的が曖昧に見える
・会社全体の「贈与」でみると成立している(ただし全体像は自分から見えない)

等価交換だけで業務を回すほうが、納得度が高そうに見える。ただ、ちょっと私にはやり方がわからない。

3.仕事を引き継ぐ側の学びになるという視点

3-1.「人にわかりやすく説明すること」を通して、その事柄への理解をいっそう深める

引き継ぎを通じてわかりやすく説明することで改めて学ぶ。ファインマンテクニックというらしい。私がブログ書いてるのも同じかも。

3-2.相手が自分と同じ方法で業務を行うとは限らない

特にWhyだけ引き継ぐケースは余計なことを言わないほうがよい。相手はゼロからよい方法を考えているので、自分の経験則から軌道修正をするべきではない。自分の思考パターンに縛られている話をかいたので載せておく。

3-3.やったほうがいいことは、やれることよりいつも多い

引き継ぎの時に、あれもこれもと引き継がない。むしろ省いていく。

物事って、やった方がいいことの方が、
実際にやれることより絶対多いんですよ。
やったほうがいいよねっていうことが
山ほどあるんです。
だから、やった方がいいことを全部やると、
みんな倒れちゃうんです。

任天堂の岩田社長が遊びに来たので、みんなでご飯を食べながら話を聞いたのだ

まとめ:次にやることが決まってなくても、すべての仕事を引き継ぐ準備をしよう

次にやることがあるから、今の業務を引き継ぐことが一般的だ。

でも逆もあるはずだ。やることがなくなれば、不思議と何か新しい仕事が舞い込んでくるものだ。

だから、次にやることが決まってなくても、今の仕事を引き継ぐ準備ははじめてもいいし、引き継ぎ先がいるなら先に引き継いでしまっていいと思う。

今回は以上です!


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