おはなし

僕は、お向かいさんが好きだ。

毎日靴を履きながら鍵を閉める彼女に行ってらっしゃいを唱えるのが僕の日課である。

僕は暇である。

僕は彼女が何をしているのかは知らないが学生であろうと思っている。

きっと

彼女は大学2年生ぐらいで専攻では何か地球のために役立つような崇高なことを学んでいて、サークルには所属せず授業が終わると駅前の小さなお弁当屋さんでお惣菜を売って近所の疲れた胃袋を満たしている。

趣味は音楽を聴くことと蚕を育てること。

一匹一匹ダンボールで部屋を作って安全な桑の葉をあげて、そいつらが繭になったらぜんぶ煮詰めて着物を作るんだってさ。

僕もその中の一人。

僕は彼女の着物になるために毎日桑の葉を食べて元気にモゾモゾやっている。早く彼女を包みその温かさを知りたい。髪の黒さを引き立たせる白になりたい。

ああ僕、早く死なないかなぁ。

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