20231224_墨の時間

 以前、テレビをたまたまつけると「年賀状を書くか・書かないか?」というお題を、年代別にインタビューをしている番組を見た。今は、若者だけではなく、基本SNSで済ますことが基本になっているらしい。理由は、手間・めんどくさいからとの事。自分は、その人に伝えたい事があった時、書けばいいかなと思っている。別に、新年が始まるとかはどうでもよくて。
 毎年の恒例行事として、家族の年賀状の宛名を、自分が手書きで書くというのがある。学生時代、書道部だったので、毎年年賀状を部員に送っていた。その習慣が今でも続いていて、出来る限り人に出す。当時の先生は、今でも手書きで送ってくださるので、自分も当たり前のように出すようになった。そのついでにと言わんばかりに、親の宛名も自分が書いている。
 部屋がきれいになって、初めての朝だ。今まで太陽に当たらなかった部分にも、日が当たるようになった。いつもより部屋が明るく見えた。今日は、朝からやる気が満ち溢れていた。いつもなら、睡眠第二ラウンドが始まるが、はやく昨日頼まれた年賀状を書きたいと思った。
 朝食を食べ終わって、時計を見ると8時だった。机には、宛名リストと2024年度の年賀状が置いてあった。文房具箱の奥から、筆ペンを3本とえんぴつ・消しゴムをもってきて、さっそく作業に取り組んだ。
 適当な紙で、まず試し書きをする。筆ペンの質感チェックでもあるし、だいたい3本中2本は使えない状態なので、そもそも使えるかどうかの確認でもある。筆ペンは、正直好きではない。筆と違って、引っ掛かりが無いので、圧の調整がしにくい。筆をもってくればいいじゃないと思うが、あいにく。数年前に使って洗わずにほっておいたので、今は立派な化石となっている。
 30分練習をしたので、本番に取り掛かった。郵便番号以外は、筆ペンで書くことにした。最初は、小さい字を書くので手こずっていたが、段々慣れてきて、途中からノリノリで書けるようになった。字を書いていると、波に乗っている気分になる。強弱というか、抑揚を線に乗せる。リズミカルに。自分の中で、いい線かけるなと思うタイミングがある。体と筆が一体になった時、自分の思い通りの字が現れてくれる。これが楽しくて仕方がない。
 年賀状を書くたびに、書道ちゃんと学びたいなと思う。自分にあっている分野何だろうなと。なにより、下書きしなくていいのがいい。白と黒の2色。色彩なんて考えなくていい。また、緊張しながら書いた後の、解放された感じも癖になる。ただ、あの先生とであうと絶対やりたくなるから、それに触発されたくないという、あまのじゃくの心が今も引き留めている。
 思ったより、作業は早く終わった。紙が無限に生まれてくるなら、何回も書き直したい。前までは、やれるだけやっていたが、今は上手くいったのも、へたくそなのもそのまま提出している。とりあえず、期限重視で動いている。自分が気になっていればいい。だいたい、他者から見るとそんな大したことのように見えないからだ。また、毎日筆を持っているわけでもなので、こんなもんかという諦めもある。
 乾燥させるために、ソファーに年賀状を敷き詰めてみた。その光景を写真で家族ラインに送った。
 「今日の仕事終わりました。さて、今回はおいくらでしょうか?」

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