躊躇いのなさに基づく連携(中国上海)

ロンドンに行くためには、上海の浦東国際空港でトランジットをする必要があった。加えて、乗り継ぎの便が上海に到着した翌日の離陸ということで、一度空港を出て、その晩は空港から少し離れたホテルに宿泊しなければならなかった。

無事にホテルまでたどり着けるだろうか。

そんな不安を抱きながら僕を日本から運んでくれた旅客機を降り、案内されるがまま、滑走路から空港の入り口ゲートを結ぶバスに乗り込むと、何やらキャビンアテンダントがバス車内の乗客に向けて大きな声で叫んでいた。

どうやら機内に鞄の忘れ物があったようだ。バスの中は寿司詰め状態で、乗客もそれぞれに会話しているものだからなかなかキャビンアテンダントの声は通らない。しかも滑走路とゲートを結ぶバスはこの一台だけでは無い。

この状況で鞄の持ち主なんて見つけ出せるだろうか、大人しくサービスセンターかどこかに届けた方が良いのでは無いか。僕はそう思った。

しかし、そのタイミングで、バスの乗り込み口の付近にいた乗客がその鞄を掲げ、大きな声で呼びかけた。

「この鞄の持ち主はいないのか」きっとそんなニュアンスだったと思う。

そこからは見事だった。声が通りづらい状況で始まったのは公開の伝言ゲーム。はじめに呼びかけた乗客の声を聞き、また誰かが同じ内容を車内の奥に伝える。以後繰り返し。

結局、僕が乗っているバスの乗り込み口からかなり離れたところにいた乗客の持ち物だったらしく、鞄は無事にその方に届けられた。

一部始終を見て、「日本だったら、自分だったら」ということを考えずにはいられなかった。

日本の空港で機内に忘れ物が見つかった場合、降りた乗客の群れに直接呼びかける方法が取られただろうか。自分がバスの乗り込み口付近にいたら、鞄を掲げて持ち主を見つける手助けをしただろうか。公開の伝言ゲームは行われただろうか。

キャビンアテンダントとバスの乗客の躊躇いのなさに基づく連携によって、無事に持ち主を見つけることができたのだから、あの状況においては、彼らの行動が正解だったのだろう。


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