旅立ち

「もっと未知の世界を知りたい」

そんな漠然とした思いを子供の頃から抱いていた僕の背中を押してくれたのは一冊の本だった。

沢木耕太郎『深夜特急』

言わずと知れたバックパッカーのバイブルである。

思えば、これまでの自分の学生生活を振り返ったときに、「学生時代をこれのために費やしたんだ!」と胸を張って言えるものは無いように感じた。

それなりに単位をとり、アルバイトをし、稼いだ小銭で友人と遊ぶ。

そのような時間を過ごすのもとても楽しかった。まさに人生の夏休みを謳歌していたと思う。

しかしながら、将来、誰かに「学生生活どんな風に過ごしていたの?」と尋ねられた時に、回答に困って苦い思いをすることは回避したいと、心のどこかで感じていた。

周囲を見渡せば、優秀な友人たちはビジネスを始めたり、体育会の部活動に精を出している。

一方で自分はどうか、サークルにも所属しておらず、アルバイトは王道の塾講師、きっと何かを始めるチャンスはたくさんあっただろうが、人生の夏休みというぬるま湯に頭の先まで浸かり、気づけば現状維持を是とする思考に陥っていた。

以上の二つの感情に板挟みにされていた時期に出会ったのが、『深夜特急』だった。

読んでみて、素直に心が躍った。

「自分も旅をしてみよう、これなら今からでも間に合う」

この本が、自分をコンフォートゾーンから引っ張り出してくれた。

意思が固まればそこからは早かった。次の長期休暇である大学2年次から3年次に上がる春休みが始まるタイミングのロンドン行きの航空券を購入した。





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