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銀河フェニックス物語<少年編>第九話(1)「金曜日はカレーの日」

 戦艦アレクサンドリア号、通称アレックのふね
 銀河連邦軍のどの艦隊にも所属しないこのふねは、要請があれば前線のどこへでも出かけていく。いわゆる遊軍。お呼びがかからない時には、ゆるゆると領空内をパトロールしていた。

銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第八話「ムーサの微笑み」 
<少年編>マガジン

 将軍家の坊ちゃんは、ソツがないと言う言葉がぴったりの少年だった。

少年正面@2

 アーサー・トライムス少尉。十二歳の彼が絶滅民族インタレス人の血を引き、僕たちには想像も出来ないような知能を持つ天才少年だ、と言うのはこのふねの誰もが知っている。
 彼はそれを殊更に目立たせない様に、もちろん鼻にかける事も無く、ひっそりと暮らしている様に見えた。それでも艦内における存在感は圧倒的だ。

 坊ちゃんの任務はアレック艦長とモリノ副長の補佐で、通信兵の僕は、坊ちゃんとの接点はほとんどない。

 バルダンに聞いてみた。
「将軍家の坊ちゃんと話したこと、あるかい?」

ヌイ後ろ目驚く

「あるぜ。ヌイはないのか?」
「挨拶しかないな」
「坊ちゃんの戦闘能力はただ高いだけじゃねー。考えてることが面白いんだ。話していて勉強になる」
 白兵戦部隊のバルダンは訓練の後、坊ちゃんと戦術の話で盛り上がるのだという。天才軍師である坊ちゃんの頭の中にはありとあらゆる星系で起きた過去の戦闘の具体例がインプットされているのだそうだ。

 バルダンが熱く語る。
「検索するより坊ちゃんに聞く方が早くて便利なんだよ」
 少々失礼な感じがするが。

「仕事以外の話はするのかい?」
「趣味の格闘技の話もするぞ。身体の使い方を見直すのにいいんだ」
「それは、お前さんにとっては趣味かも知れないけれど……」
 坊ちゃんにとっては仕事の一環なんじゃないだろうか。

 僕が坊ちゃんに興味を持ったのは、彼が食堂のアルバイトのレイターと同じ十二歳で、同室で暮らしている。と言うことからだ。
「レイターと同い年には見えないよね」
「そうだな、レイターは十二歳に見えないほどガキだし、坊ちゃんは下手すりゃ大学生でも通じるぞ」

レイター少年とアーサー@

 二人は一体どんな会話をしているのだろうか。

 お腹が空いた。
 残業を終えて自分の部屋に戻るとレイターがギターを鳴らしていた。同室のバルダンが僕のベッドに腰掛けて弁当を食べている。

 ああ、今日は金曜日か。
 バルダンはカレーライスが嫌いだ。
「辛いし、臭いし、見た目もグロいし、あれは食い物じゃねー」

バルダン横顔怒り叫び逆

 戦闘機乗りだったモリノ副長が前に乗っていたふねでは、週末との区切りになる毎週金曜日の夕飯がカレーと決まっていたそうだ。
 この話を聞いた料理長のザブリートさんが喜んで取り入れることにした。メニューを考える手間が省けるということらしい。

モリノとザブリート

 バルダンは怒っていた。
「こんなまずい食い物が毎週出るなんて話は聞いてねー。知ってたらこのふね志望しなかったぞ」
 って。
 だから、金曜日はバルダンは食堂に近づかない。レイターに別の弁当を部屋まで持って来させて食べている。

「カレー、おいしいのに」
 と言うレイターをバルダンは殴ろうとした。
「止めろ! 俺はその言葉を聞くだけで嫌なんだ」     (2)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
イラストのマガジン

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」