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銀河フェニックス物語<少年編> 第五話 最終回 誰にでもミスはある

驚いたことにレイターは過去にも航行ログを書き換えたことがあるという。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第四話「腕前を知りたくて」まとめ読み版 (1)(2
<少年編>のマガジン

 僕はその足で艦長室へ出かけ、アレック艦長とモリノ副長へ正直にミスを報告した。
「本日の警戒中、私が初期値の入力をミスしたため、一時、惑星の引力圏に引き込まれ危険な状態に陥りました。申し訳ありませんでした。さらにそのミスを、レイターが航行ログを書き換えて元のログを消去しました」

 艦長と副長は驚いていた。
「アーサー、お前がミスをしたのか?」

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「はい、結果としてそれを隠蔽するような事態になり、重ねて申し訳ありませんでした」

 僕は頭を下げた。

「ほお、お前がミスをねぇ」
 艦長が驚く場所を間違えている。僕だってミスをすることはある。レイターが航行ログを改竄かいざんしたことこそ、驚くべきところなのだ。

「いかなる処分も受ける所存です」
「わかったわかった。ま、機体も壊れてないんだろ。もういいよ、部屋に戻れ」
 艦長は済んだことには興味がないようだ。だが、それでは秩序は保てない。
「しかし……」
 食い下がる自分を艦長は面倒くさそうにさえぎった。
「お前が生きて帰ってきたならそれでいいさ。不問だ。聞こえなかったのか、部屋に戻れ」
 将軍家の跡取りである僕に何かあれば艦長の責任は重大だ。自分が特別扱いされていることに苛立ちを感じる。かと言って、ミスした自分が上官に進言できる立場ではない。
「失礼します」
 釈然としないまま僕は艦長室を後にした。

「どうだった?」
 部屋に戻るとレイターが二段ベッドの上から恐る恐る顔をのぞかせた。
「お咎めは無しだ」
「ヤッター!」
 レイターは両手を挙げて喜んだ。その様子を見るとさらに苛立たしさが募った。
「忠告しておく。二度とデータを改竄かいざんをするな。君が『銀河一の操縦士』になるというのなら尚更だ。書き換えるなら、もう船には乗せない」

流用軍服 む

 きつく伝える僕に、彼は不満げな顔で反論した。
「言っとくが、俺は自分のミスを隠すために航行ログをいじったことは、宇宙の神様にかけて一度もねぇ。隠さなきゃいけねぇような恥ずかしい飛ばしは、これまでもこれからもしねぇからだ」
「随分自信があるんだな」
「そりゃ、銀河一の操縦士だからな。大体、今回の元ログだって、別に隠さなくたって、俺は構やしねぇんだぜ。俺の立て直しの早さは逆に自慢ができるレベルだ」
 僕は動揺した。レイターの言うとおりだ。彼の修正技術はベテラン操縦士と見まごう秀逸さだった。

 今回の件はあくまで僕のミスだ。彼は、僕をかばうためにログを書き換えたのか。

 ハハハハハっ。
 突然レイターは大声で笑いだした。

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「ほんとにあんたは面白れぇ」
「……」
 意味が分からない。僕は他人から面白いと評価されたことはない。一体何が面白いのか。
「あんたのこと、好きじゃねぇけど信頼できる。俺との約束も守ってくれてるしな」
 とウインクした。

 マフィアと深く関わってきたレイターの過去を僕は艦長にも誰にも話していない。だが、それは彼との約束を守っているわけではない。自分の判断で黙っているだけだ。
「もうしばらく、おつきあい頼むよ教育係さん。ここから追い出されちゃ、たまんねぇからな」
 それだけ言うとレイターはベッドに寝転がった。

 疲れた。
 着替えるのも面倒だ。
 重い身体を自分のベッドに横たえた。 

 引力圏に捕まった時の緊張が蘇る。死の恐怖によるストレスで疲労が増幅されている。
 レイターが寝ている上のベッドが目に入る。マフィアに命を狙われるという死と隣り合わせの状況は、どれほどの負荷がかかるものなのだろうか。

 そのレイターもきょうは緊張して疲れたのだろう。幼く無防備な寝息が上から聞こえてきた。そのリズムに誘われて僕も眠りに落ちていった。      (おしまい)  第六話「一に練習、二に訓練」へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」