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【アート思考とマネジメント(1)自立分散型の直感的に正解をその場で創るチーム】

1、RESASのチーム作り
2015年、私は地域経済分析システム<RERSAS>の企画とプロジェクトマネージャーを担当していました。当社は2年かけて構築するというプロジェクトでしたが、突然半年で納品ということになりました。

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制作費用が5億円のサイトをたった半年で?!半年といえば、通常の大手開発会社でも仕様書、つまり設計図を作るまでで精一杯のはずです。通常のやり方では不可能です。最速で進めるにはいわゆるウォーターフォール開発ではなく、アジャイル開発しかない。

アジャイル開発の手法はデザイン思考と似ています。経産省や内閣府(クライアント)の意向を理解し、アイデアを出し、プロトタイプを作り検証する。これをデータビジュアライズ、セキュリティー、システム、UIデザインなど並列分散型の組織で展開していきます。最終的には仕様書は作らず、作りながら取扱説明書を作成し、それが仕様書の代わりのようなものになりました。おそらく仕様書納品なしという国家事業はあまり例がないのではないでしょうか。地方創生は内閣にとってそれだけ急務ということだったのでしょう。作る我々にしてみれば試練でしかありません。

そして、もう一つ重要なのが各部門のリーダーは全員ミュージシャンかアートセンスの高い人材をアサインしました。そして、制作はチームラボと協業しました。チームラボに提案に行くと、できるできない、予算は関係なく、一言聞かれたのは「シバ君、それ面白いの面白くないの?」でした。私は「ワクワクですよ、エキサイティング」と答えると、「じゃ、やろうか」
制作をチームラボに委託したのは、誰もみたことがないビッグデータ・ビジュアライズを短期間で実現するには自立分散型の直感的に正解をその場で創るチームでなければ実現不可能と感じたからです。大手ITベンダーは、そこまで柔軟性と創造性は持っていないでしょう。
クリエイティブマネジメントの視点からこの難題を解決するにはジャズの即興性を盛り込み、その場その場で正解を創る作業が必要だったのです。クラシックの様に指揮者の指示、つまり、「正解」の提示と指示系統の統一されたチームではなく、最小限のビジョン(テーマとコード進行)の共有から個々にソロで即興演奏をする自立分散型のチームを構成し、聴いたことのない音をその瞬間に創り出すジャズバンドの様な組織を構成しました。

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スポーツに例えると、野球よりもサッカーに近いかと思います。監督の指示に従う野球に対し、自立分散型で流動的な組織を構成していました。テクノロジーがどんどん加速していく中で指示待ちや承認待ちが最も無駄な時間になります。個々が自立して思考し、自分なりの正解を瞬時に見つけ出す個人の集団が必要だったのです。

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2、アート思考の組織をつくるクリエイティブ・マネジメント
アート思考の組織への実装は大きな課題です。そもそも、ビジネス(組織)にアート思考を導入しようという意識自体ハードルが高い事です。単純に絵画鑑賞や美術のワークショップをしたからと言って身につくものではありあません。今、大手企業が導入し始めているワークショップを通じてアートを理解しようという姿勢は良いことですし、創造力を豊かにするトレーニングになると思いますが、それだけで新規事業を生み出すような創造的な組織になるとは思えません。副産物として心理的安全性やエンゲージメントを生むサポートはできても、全体的に創造的な組織を創るには往々にして組織の根本的な意識改革が必要だと考えます。導入する、、、と言った時点でボタンを掛け違えている可能性があります。移り変わりが激しく「正解」が見えない中では今までの様に過去のデータに頼って「正解」がうまれる時代ではなくなっています。即興的に、つまり直感を信じて創造的なチームを創るマネジメントが重要です。仮に組織内にイノベーター気質のアート思考な職員がいたり、アート思考のセミナーなどでチームが創造的になっても、組織としてその能力を活かすことができなければ意味がありません。マネジメントでは、まずチームに対する絶対的な信頼と心理的安全性の確保を優先しました。クライアントからのプレッシャーを現場に落とさない様に焦りや不安をなるべく感じない様に現場を守ることを第一に考えました。次に方向性が見えない時、「正解」に迷わされ停滞した時には「とりあえずGO!」という姿勢でトライアンドエラーの許容量を提示します。余裕がある時はリスクはなるべくシェアできる様にしますが、このプロジェクトは一刻を争うため、責任はすべて自分が持つので「とりあえずGO!」という姿勢をみせます。もうひとつは、マネージャーとは言っても全領域を把握しているわけではありません。わからないことははっきり「それはどういうこと?」と聞きます。チームの中で周知の事実でもわからないもの、知らないものは噛み砕いて理解していく様にしました。これも時間的にはロスですが、周知の事ほど見落としている危険性があるのです。マネジメントの立場はデザイン思考です。クライアントとアート思考の制作チームの間を取り持つ、あるいは双方の「共感・共有」の環境をデザインします。制作チームには直感で動ける余裕をつくりながらクライアントにボコボコにされるという役回りです。そこにはマネージャー自身が創造的チームに対する理解と信頼がなければ成り立ちません。同時にクライアントとの折衝能力、これは比較的ロジカル思考の場合が多いです。理詰めで説明しないと理解できない方々を相手にしますから、エビデンスが必須になりますので、どんなエビデンスが有効か、または時間を稼ぐの納得できる理由などロジカル思考で考えます。この様にマネージャーに求められるのはアート思考への理解とデザイン思考的に制作、クライアント、ユーザーのそれぞれのニーズを満たしながら共感し、ロジカルにリスクマネージメントをし説明する能力が求められます。

3、新規事業の本質的意義、パーパスの再確認
”創造的な組織をつくる”の前に、実は重要なことがあります。これは、アート思考を取り入れる場合だけでなく、企業の新しい取り組みを始める時に共通した課題でもあります。それは企業カルチャーの土台であるパーパスが時代に即しているか?そして、現場に共有されているか?といった課題です。単純に言えば、私たち(企業)は何者で、何をしているのか?と同時に私はそこで(企業)何がしたいのか?をしっかり共有できているか?ここで重要なのは「私たち(企業)」と「私」の存在意義や目的が明確であることが求めらるということです。このパーパスを組織全体で時代に即した形で再構築したうえで新規事業をアート思考で考えることが必要です。いわゆる社訓に当たるものを想像されるかもしれませんが、その社訓はいつできたものでしょう?

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これだけ価値観の移り変わりが早い世の中で、時代に即していなかったり、形骸化していたり、誰も意識していないという現状ではないでしょうか?企業の社会的存在意義や何をするのか?どこを目指すのか?といった自社のパーパス「社会的な存在意義」を再構築してはじめて「なにをするのか?」「どうするのか?」が導き出されます。ぶれない姿勢と共通意識が土台にあってはじめて「どうするのか?」になります。

多くの企業は新規事業やDX自体の導入を目的にしますが、それは単にツールや手法であって、まずは自社の社会的意義を全員が共有してたうえでツールとして何が必要なのか?を判断する必要があります。新規事業やDXを目的にして進めているうち本質を失ってしまい、無駄な時間とお金がだけが垂れ流されていく可能性が高いのです。アート思考はハウツーではなく、この土台に乗っ取った状態や姿勢を意味するものだと考えてください。

つづく



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