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人生のゴールをその先に延ばしたら、生きるのが少し楽になった

「前向きに明るく過ごされていて尊敬します」
「どうしてそんなに穏やかに余命と向き合えるのですか」
時々このようなメッセージをいただく。

就職活動をしている時、ある面接官に問われた。
「あなたは何のために生きていますか?」
就職活動対策のマニュアル本にはないような質問だった。
少し間をおいて、「幸せになるため…ですかね。キャリアもそれを叶える一部だと思っています」と答えた。
何が正解だったかは知らんけど、面接官はすごく嬉しそうにしていたのを覚えている。
私はその幸せを見つけるために仕事をこなし、恋愛をした。

2018年の春。
私はずっと希望していたプロジェクトのミーティングに、他チームでありながら週に一回参加させてもらうチャンスを捕まえた。
同時に、幸せな家庭を築くことが夢だった私に、結婚の話が現実的になってきた。
式場や指輪を探すのが楽しくて仕方なかった。
いろんなことが順調に動き始めていた。

その二ヶ月後、末期癌宣告を受けた。
長い入院生活と休職期間を経て仕事に戻った時、みんな温かく迎えてくれた。
だけど、同じチームだった子が私の希望していたチームに異動となり、私が週に一回参加していた事実すらなかったことのようにされていた。
私自身も、いかに迷惑をかけずに仕事が出来るかを一番に考えるようになり、「自分のやりたいこと」にはすべて蓋をした。
結婚の話も、先方のご家族の反対を受け、破談となった。
あんなにロマンチックなことを言ってくれていた彼も変わっていた。
「家族になってからの癌告知だったら精一杯支えていた。癌になってから家族になるのは難しい」
泣きながらそう言われた。私は泣かなかった。

いろんなことを掴みかけていた。
それを失ったのは、末期癌になったからではないのかもしれない。
なっていなくても、うまくいってなかったかもしれない。
だけどそれでも、その時の私には病気のせいにせざるを得なかった。
末期癌になったことよりも、それによって積み上げていた自分の夢がぜんぶ崩れ落ちたことの方が辛かった。ボロボロだった。
私は何もかも平均的で、特別優れたこともない。
何より残り時間がないのだ。
ここから挽回なんて出来っこない。

「うちの娘結婚するんだよ!」
「出産しました!元気な男の子です。これから家族三人仲良く頑張っていきまーす」
「花村さん、昇進して、〇〇プロジェクトにも抜擢されたんだって!」
この間まで自分にも身近なことだと思っていた話題が、違う次元のように聞こえる。
「桃花ちゃんも癌なんかに負けず頑張りなね。」
それでも何も動じてないかのように、にっこにこの笑顔で祝福を述べ続けた。
祝いたい気持ちは本当であること、心配をかけたくないこと、そして小さなプライド。
壊れてしまいそうだった。
弱肉強食の世界にいる動物であればもうきっと死んでいるのだ。医療の力で、他者の力で生きていられるだけ。

もうこの人生、終わりでいい。

蒸発して、私のことは誰も知らないところで余生を過ごし、そのまま野垂れ死にたい。
人生で初めて「蒸発」について検索をした。

その時、このまま私がいなくなったら残された家族や親友はどうするのだろうとよぎった。
捜し回る老いてきた両親。たった一人の妹。
身重なのにお守りを届けてくれた友人は?遠方から駆けつけてくれたあの子は?
悩み苦しんだ彼は?代わりに病院に連れて行ってくれたあの人は?

私は死んで終わりでも、その後を生きていくみんなの人生をたとえ少しでも狂わせてしまうんじゃないだろうか。
自分を大切に思ってくれる人の余生を悲しみに包まれたものにしたくない。ましてや後悔なんてさせたくない。
そこでようやく、人生のゴールは自分の幸せではないんだと気づいた。
ゴールはその先、死んだ後。
大切なみんなが少しでも幸せに過ごせること。
そう考えたら、生きる意味はあるかなって。
嘆き悲しみ不平不満を口にしたくなることなんて山ほどあるけど、それでも楽しみを探しに行く。
「平均よりずっと短かったけど、みんなのお陰で幸せな人生だった、ありがとう!だからみんなも楽しんで!」
そう言えたら、遺してしまう人たちも少しは救われるかもしれないと思っている。

突然キングボンビーがくっついて、カード全部捨てられ、借金まみれになった桃太郎だけどさ。(突然ゲームの桃鉄ぶっこみ)
リセットせずエンドロール流れるまでやりきろうかなって。
銀河鉄道カード引くかもしれないしね!
エンジェルカードでもいいからね!
欲を言えばダイヤモンドカードが引ければ(以下略)

今前向きに明るく見えているのなら、それはいなくなった後も人生を守りたいと思える大切な人たちのお陰です。

私のゴールは、死んだ後にある。
本来は、ひたすらに明るくて強い人間じゃないから、時々は弱音を吐くかもしれないけど。
いま私に出来ることは、限りあるなかで残りの余生をめいいっぱい楽しむこと。
みんなのために、投げやりにならずに、最期まで。

先日またひとつ歳を取れました。
宣告から2回目の誕生日。
よかったよね。

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人生第二章を歩むための、なにか"きっかけ"を与えていただけたら嬉しいです!あなたの仕事や好きなことを教えてください。使い道は報告させていただきます。(超絶ぽんこつなので遅くなっても許してください)