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ツッコミたい

2月に異動することになった。
それに際して本日、次期上司との1度目の面談が行われた。

「まず、うちの会社に入った経緯から、教えてもらえますか?」

歳で言うと2個上の、次期から上司となる先輩に、パソコン越しに入社面接のような質問をされて、面食らった。
わたなべさん(仮名)は、見た目は優しいが、発言は鋭く、いつも本質を見る目をしていて、なんだか緊張してしまう。

「うちの会社での成功体験ってありますか」
わたなべさんは相変わらずにこにこしている。私は、入社してこれまでに、なにかひとつでも成功と呼べることがあったのか、懸命に記憶を遡る。

ん?ない。

まじでない。
記憶にないだけか?いや、ない。

「まじで、成功してないかもしれません、、」
これが入社面接だったら、これにて終了。後日、人事部からメールが届き、多くを語らない文面で、今後の活躍を祈られていたことだろう。


「首都圏グループは、入社1年くらいのメンバーが多いから、こいでさんに、こうしたらうまくいった、みたいな事を後輩に教えてもらえればと思ったんだけどね。ないなら無理に答えなくていいよ」
言い淀む私に、少し笑って、わたなべさんは言った。「残念です」を具体的に述べたような文章だった。

彼は私の発言におよそがっかりしただろうが、それ以上に私自身が、まじで成功体験ないんかい!という事実にがっかりしていた。そちらも残念でしょうけど、こっちも残念ですからね、と心のなかだけで思った。


「もう、無理かもしれない、、」

面談が終わり、隣に座っていた、私の担当を引き継ぐ予定の入社10日目の女の子に、早速泣き言を漏らした。

担当引き継ぎ入社10日新人は、本社で1週間の研修を終え、月曜日に初めて職場にやってきた。

丸二日同行しただけだが、好きな後輩に雰囲気が似ていて、その子のこともすぐに好きになった。引き継ぎ10日新人はとても落ち着きがあり、5歳も年下とは思えないほど、しっかりしている。よく気が付いて、よく考え、適度によく話し、笑う。

だから引き継ぎ新人には、私が知っていることの、すべてを教えてあげたいと思っている。しかし、実際には、私が知っていることなど、ほとんどないのだ。
これは、好きな女のために、ありったけの財産で何でも買ってあげたいのに、あまりにも金がなさすぎる男の虚しさに似ている。


そういえば、これまでの人生においても、すべての場面で、後輩に恵まれすぎている。ということは逆に、もしかしてマジで、私がポンコツなのかもしれない。
ああ、なんだか落ち込んできた。昼食に食べた茹で卵は妙に甘かったし、せっかくテプラで目印をつけたビニール傘が壊れていた。最近また太ってきたし、実家に戻ってからくしゃみが止まらない。携帯を開けば、憧れの人が憧れの人と対談していて、何者にもなれそうもない自分から遠ざかっていく、、




上司から電話がかかってきた。

「わたなべくんと面談、どうだった?」

「成功体験を聞かれたんですけど、まじで何もなくて、うまく答えられなかったです」
私が正直に言うと上司は、
「そんな事ないやろ」
と、あっさり言って、明るく笑った。


「お疲れ様です」
笑顔で会釈して、継ぎ人は反対方向の地下鉄に乗っていく。本当は、私も彼女とずっと一緒に働きたい。


最寄駅を出口に向かって歩いているとき、上司の言葉を思い出して、あまりにもあたたかい気持ちになった。同時に、これからは、もっと堂々と生きていかなければいけないのだ、と痛感する。大人なのだから、いつも誰かに褒められたり、フォローしてもらえることを、期待してはいけない。


だから、ポンコツと呼ばれても、即座に「誰がポンコツだよ!!」と明るく答えられる精神を持っていたい。そのためには、普段からもっと強い精神で、相手の発言にツッコミを入れる練習をしておくべきなのだ。

30代はツッコミだ。どうせ年を取ったらボケるのだ。今はツッコミ精神を鍛えよう。

なんだよ、今日の記事つまんねぇな。
じゃねーよ!面白いだろ!笑え!


とか言っていないで、まずポンコツを改善すべきである。



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