見出し画像

フランスの生活に思うこと Laven Chegeni ラヴェン・シェゲニ インタビュー(後編)

イラン出身のラヴェンは、現在はグラフィック・デサイナーとして、パリのデザイン事務所に勤めています。フランスに来て9年、彼女の暮らしは変わったのでしょうか?生活をしていて思うことについて話を聞きました。

メル氏:ラヴェンはイランからフランスに来て9年になるんだよね、フランスでの生活には満足している?

ラヴェン:うん、家族がそばに居ないのは寂しいけれど、フランスでの仕事や生活には満足しているし、何も不満はないわ。
実は今年、フランス国籍を取得したの*。ビザの心配をする必要なくなって、生活も安定するし、 イランのパスポートだけでは、どこの国へ旅行するにも手続きが面倒で不便だったから、とても嬉しいわ。

*イランやフランスでは、日本とは違い複数国籍を持つことが認められている。

メル氏:イランとフランスの生活に違いや共通点はある?

ラヴェン:実はフランスで生活を始めた時、カルチャーショックは受けなかったの。生活レベルに多少の差はあるけど、イランとフランスの文化、イラン人とフランス人の間に大きなギャップっは感じなかった。
自分が9歳と15歳の時に叔父を訪ねてフランスに来たことがあったのも大きいわね。 叔父が3人フランスに居るのはとても心強いわ。

メル氏:え、3人も!?なんで叔父さんがみんなフランスにいるの?

ラヴェン:元々スランスで勉強したかった 一番年上の叔父は 、40年前のイラン革命の後にフランスに来たの。それに続いて他の2人もフランスへ来たみたい。イランに残っているのは兄弟のうちで私の父だけよ。

メル氏:ラヴェンの今の生活は40年前に叔父さんがフランスに来たことがきっかけになっているんだもんね。何だか感慨深いね。

ラヴェン:本当にそうね!

メル氏:前回のインタビューでフランスに来たきっかけを話してくれた時、ラヴェンはイランが好きだし、絶対フランスに来たいわけでは無かったって言っていたよね。そんな中でも、イランよりもフランスの方がよいと思う部分はある?

ラヴェン:表現の自由があること!
イランでは表現活動やその内容が政府によって厳しく制限されているの。
例えば、私が描いているような女性の体の線が分かるような絵画も、イランでは発表できないわ。

画像2

メル氏:う~ん、一応服も来ているのに!厳しいね。

ラヴェン:そうなの。警察がギャラリーに抜き打ち検査に来るから、ギャラリーは少しでも検閲でリスクのある作品は展示したがらないの。
イランはアーティストにとっては難しい状況なのよ。それに比べるとフランスでは絵を描いて発表するチャンスがたくさんあると思う。

それと、イランでは政府の体制も良く変わるし、仕事、経済の面で生活を安定させるのが難しい部分はあるわ。現在行われている米国からの経済制裁 も一つの例よね。
インターネットの利用も制限されているし、FacebookもTwitterも、Instagramも使えない。
でもちょっと探せば抜け道があるのよね。お酒も禁止されているけれど、みんな隠れて飲んでるし。だから日常生活を築いて、それなりに快適な暮らしが遅れるのよ。ただ法から外れることは堂々とはできないし、政府がその気になれば何か理由を付けて逮捕される可能性は万が一にでもあるのよ。
そういう、いつもどこかで「監察されている」っていう落ち着かない感覚が少しあるわ。

メル氏:ラヴェンはイランから出て初めて、その「落ち着かない感覚」に気付いたの?

ラヴェン:そんなことない、イランに住んでいる人みんなが感じていることよ。政府がもう少し国民の自由を許したら、今イランから国外へ出ていても、母国に戻りたいって思っている人は絶対に多い。
私自身もイランが恋しいのよ。とても良い思い出が多いし。

メル氏:家族が近くに居ないのが寂しいって言っていたけれど、それ以外だとイランの何を懐かしく思う?

ラヴェン:風景、場所そのもの。私が住んでいた首都テヘランは山で囲まれていて、東西南北どっちを向いても遠くに山が見えたわ。ハイキングにもすぐ行けるの。今も帰省してテヘランの風景の中にいると、とても幸せに感じるわ。

なぜか私の心の底の底には「いつかはイランに戻る」っていう感覚があるの。
現実はどうなっていくかわからないし、結果的に、このままフランスで暮らして死んでいくのかもしれない。でも「もう戻らないって」いうのは感覚としては受け入れ難いの。ここでの生活には本当に満足しているのに、不思議よね。

画像3

メル氏:今や国籍を取得して、ラヴェンもフランス人なんだけれど、、、フランス人を見ていて思うことってある?

ラヴェン:フランス人の印象はとってもいいわよ。
パリの人は評判悪いけど、私は親切でオープンだと思う。首都で観光や仕事に来る外国人と出会う機会が多い部分、友好的にならざるを得ない部分もあるんだろうけれど。かえって他の地域の人の方が異文化に対する警戒心が強い気がする。旅行でパリに来るイランの友人も「パリの人は噂と違って親切!」って言っているわ。
今までの人生でいろんな人に出会って結局言えることは、人はどこでも一緒っていうこと。
どの国にも友好的な人と排他的人がいる。良い人、悪い人もいる。国籍ではなく性格よ。あとは、どんな風に教育されてきたか、とか。

メル氏:家族に関して、フランス人は個人意識が強くて、例えば日本みたいな伝統的に家族単位で社会を構成するアジアの国とは結構違いがあると思うのだけれど、イランと比べてどう?

ラヴェン:そうね、結構違うと思う。フランス人は、まずは個人。そして「自分が何者」追求をしているところがあるけれど、イランは家族関係にもっと重きを置いている。フランスでは日曜日に家族親戚で集まって昼食を食べる習慣があるけど、イランには“何曜日“とか無いわよ。いつも距離が近くて、毎日でも行き来するの。

画像4

メル氏:フランス人とイラン人の間で、考え方や行動の違いはある?

ラヴェン: 例えばフランス人が9か月後のバカンスの計画を立てているのを見ると、「9か月も先?!」って思っちゃう。今週計画して来週出発するのがイラン流よ。笑
中東は歴史的にいつも政治的な動きが大きいから、先に何が起こるか分からない。未来の予想がつかないから、あまり前もって計画を立てる習慣が無いんだと思う。そんなこともあって、イランの人は「今を楽しむ」って感覚が強いと思う。
フランス人の友人がイランを訪れた時も、そんな印象を持ったって言っていたの。「フランスよりも人々が幸せそうに見える。人々は笑顔だし、政治的状況は悪くても人生を楽しもうとしている姿勢が見える。、、、それに比べてフランス人は文句ばっかり言ってる。」って。

それと、イランの人々って、フランス人と比べて知らない人でも警戒せず信用しちゃうところがあるの。
例えば、何か買おうとして小銭が無かった時にはお店の人が「後で持ってきてくれればいいから」と言って気軽に言ってくれたり。
私が前回イランに返った時、歯医者さんで支払いをした後に帰りのタクシー代が無くなっちゃって困っていたら、「次回返してくれればいいから。」って受付の人が自分のお金を貸してくれたの。そんなことフランスでは絶対ないでしょ!?家で興奮しながらお母さんに話したら、「それの何が特別なの?だって後で返すんでしょ?」って不思議な顔をされたのよ。
そうやって、疑ってかからずに人を信用できる関係は気持ちがいいわ。

メル氏:ラヴェンは今はどっち寄りの考え方をしているの?

ラヴェン:う~ん、、、知らない間にフランス人っぽくなっているかもしれない、、、、考えすぎることもあるから。笑

メル氏:とっても興味深かった。色々聞かせてくれて、ありがとう!

*ラヴェンのインタビュー前編、「”クリエイティブ”を探して 」
https://note.com/461831_/n/n879f968576a0

ラヴェンの作品が見られるWEBサイト(グラフィックデザイン)
http://laven-chegeni.com/

インタビュー後記
ラヴェンとは長い間友人でしたが、フランスへ来た経緯、日々の生活に思うことを改めて聞き、とても興味深く思いました。
彼女が、イランという国の現在の政治の体制や、国際社会の中で現在置かれている状況は複雑なものだけれど、人々はそういったものに折り合いを付けながら生活を築き、フランスでもイランでも、生活や人々の間に大きなギャップは無いのだと強調していたことが印象的でした。
現在彼女がフランスで暮らしていることも、自身のアイデンティティに導かれた結果です。 国や家族を大切に思っているから戻る、イランの暮らしは不便だから戻らない、という単純なものではありません。
丁寧に選択を重ねて自分の人生を探している彼女の話の姿に勇気付けられました。
ラヴェンの未来がクリエイティブで素晴らしいものになりますように。Merci beaucoup, Laven!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?