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2019年ベストアルバム2: 75位〜51位

2019年ベストアルバム1: 100位〜76位

待っていただいた方本当に申し訳ありませんでした。
遅ればせながら2019年ベストアルバム、誰が全部読むのかわからんけど100枚です。後々になって振り返っても価値のある作品を選べたつもりです。長いけど全部に目を通してくれたら嬉しいな!

本稿公開現在、新型コロナウィルスが未だ治療法の確立されない中感染者が増える一方であり、各地で混乱と同時に公演のキャンセル等アート/エンターテイメント業界も大変な打撃を受けています。
とりあえず音楽に限って話をしても、主な収入源をライヴに置くアーティストと音源に置くアーティストがおりますが、まず前者を助ける策としては、一つでは無いと思いますがとりあえず簡単な一歩かつ実現したらもっとも効果的という事でふじもとさんこのキャンペーンに共にご賛同頂けたらなと思います。

音源による収入の割合が大きいアーティストにとっても、公演中止は小さなダメージではありません。私自身がどちらかと言えばライヴハウスやクラブに足を運ぶよりもレコードにお金を使うタイプのリスナーなので、必然的にこのリストにも(収入割合としてはともかく)録音により意義を見出すアーティストの率が多くなっているかなと思います。
また現状は国内のニュースに目が行きがちで、こういう状況下にそうなってしまう事は決して悪い事とも思いませんが、ダメージは日本国内に留まりません。相次ぐ英語圏アーティストのアジアツアーの中止は、ファンやヴェニューのみならずアーティスト本人にも痛手であるわけです。

そんな様々な角度からダイレクトにダメージを受けたアーティスト、また…経済を回す事こそが至上の活動である、といった論調には率直に言ってあまり与したくないのですが、ある程度業界としてお金が回らないと文化的活動も立ち行かなくなるのが現実です。そういった状況下、普段YouTubeや定額制サブスクストリーミングをメインに音楽を聴いている方にも、サポートとしての意味も込め個別にお金を出して頂けたらな、という思いもあり、ストリーミング(Spotify)のほかアーティストを最もダイレクトに近い形でサポート出来るBandcamp、国内大手でのLPやCDといったフィジカル販売のリンクも(ある場合は)全ての作品に貼ってあります。
もちろんサポートとしてだけでなく、より高い音質で聴ける事や現在ではある種煩雑でさえあるフィジカルフォーマットであえて聴く体験、それらがシンプルにあなたにもたらすものも必ずあるはずです。

私が貼ったリンクから直接購入いただけることも嬉しいですが、外出自粛の波はアーティストを支えるもう一つのプラットフォーム、レコード店にも打撃を与えていると聞きます。このリストから気になった作品をピックアップし、実店舗であれオンラインであれ皆様それぞれの地元拠点のレコード店で購入していただければ、それもまた私としてもとても嬉しいですし、きっと現状に対する大きなサポートになると思います。

音楽を、文化を、どんな状況下でも絶やさぬように。その一助となれれば幸いです。

75. Bon Iver - i, i

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Spotify / Bandcamp / LP

10年代USインディ・ロック界の顔の一人と言える男声SSWがディケイドの締め括りに出した作品。
前々作『Bon Iver』のオーガニックなサウンドとロードムービー的空気感、前作『22, A Million』の実験的なプロダクションと内向的なムード、のちょうど間のような作品。
…と書くと、中庸で凡庸な所に落ち着いてしまったのでは?と思う向きもあるかもしれない。実際そういう批判も出ており、Bon Iverに時代のフロントラインに立つ事を求める者には些かの失望が交じる作品という事は認めねばならない。
しかし、前々作前作と、放浪の旅と内省を経てシンプルで素直で穏やかな境地に至った姿になんだか感慨を覚える向きもまた少なくないはずだ。かつて、ヒッピーの夢も学生運動もベトナム戦争も、あらゆる角度で”敗北”を味わったアメリカにJames Taylor「Fire and Rain」が救いの曲となったという話があったように、混迷の時代にこのアルバムの穏やかさが救いだったという声はこれから少しずつ増えていくのではないか。

74. Town Portal - Of Violence

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Spotify / Bandcamp / LP

デンマークの3人組ロック・バンド。リリースはエッジーな音楽を多くリリースし注目度を上げているArt As Catharsisから。
キャリア的に10年選手のこのバンドと若造を並べるに躊躇はあるが、共通項も多いblack midiとあえて比較すると、共に少なくないメディアがマスロックと括りつつも、マスロック全盛期00年代の典型とは全く違う要素を併せ持つ事だ。
サブジャンルの定義論は面倒な事になりがちだが、マスロックの大雑把な定義を、変拍子と性急さ、パンクを源流とするジャンルには珍しく演奏のテクも必要要件の一つである事、と言ってそれほど異論は出ないだろう。その点、そもそもTown Portalの演奏はドラムはともかくギターとベースに関しては特別難易度の高いプレイはあまり無い(ギターは妙な和音が頻発するが、おそらく弾きやすい変則チューニングを用いている)。
そして、マスロックの源流として多く挙げられるのが80年代のKing Crimson、通称ディシプリン・クリムゾン。クリムゾンを想起させるのはこのバンドも同じでも、ディシプリン・クリムゾンよりも70年代活動休止前、通称レッド・クリムゾンの頃と近い。ハードコア・パンクのストイシズムを継承した多くのマスロックと比べ、どこかサイケデリックな陶酔が残り香として僅かにだが確かに感じられるのも70年代的だ。
またトランペットとサックスを導入した楽曲もあり、背景にさりげなくジャズの影響があるのもblack midiと共通している。早々にこのバンドより多くのプロップスを獲得したblack midiのファンには是非こちらも聴いて欲しい所だ。

73. Anna Wise - As If It Were Forever

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Spotify / Bandcamp / LP

Kendrick LamarやTeebsら一筋縄では行かないヒップホップのメンツを中心にバックを務めキャリアを築いてきた女声シンガー、奇才Jon Bapとの連名作を挟んで2作目のフルアルバム。
Review coming soon

72. Teebs - Anicca

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Flying Lotusが設立したBrainfeeder所属のプロデューサー、5年ぶりのアルバム。
兆しこそあれどまだニューエイジ・リバイバルという言葉を口にするものは殆ど居なかったと言っていい前作の時点で既にそういった要素が感じられたが、時代の追い風を受けてその要素は更に強まっている。現在のリバイバルでその側面が注目されるのは(音楽とターム自体の広まりに比しては)少なく感じられる、ニューエイジとは元来かつてヒッピーだった者達のムーブメントだった事を思い出させるように、サイケデリック・ロックや日本で言う所のソフト・ロックの香りが絡まる。Animal CollectiveのPanda Bearをフィーチャーしてレーベル設立者FlyLoの面影も漂うビートと共存させる「Studie」は、00年代末に夢見たサイケデリアの未来の実現であり、ニューエイジの歴史も踏まえた再解釈として最高峰のものだろう。
退廃スレスレの甘いノスタルジアと前衛スレスレのサウンド的冒険心が最も危ういバランスで共存した作品。終盤、霧のように降りてくるメロトロンとハープが久石譲もしくは『スーパードンキーコング』シリーズのサウンドトラックばりに泣きのコード進行を描く「Slumber」がノスタルジア側にバランスを崩すと、退廃だとわかりつつも堕ちていく様に身を委ねるしかない。

71. Sudan Archives - Athena

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Spotify / Bandcamp / LP

シンガーでありながらヴァイオリンを中心としたマルチ・インストゥルメンタリストでもありビートも自作するマルチタレント。名門Stones Throwより2枚のEPを経て満を持しての初フルアルバム。
Spotifyでの公開日は11月1日。フィジカルのクレジットにも制作日時は明記されていないが、同じくSpotifyでは3月1日公開のSolange『When I Get Home』からの影響はどれだけ反映されているだろうか?スクリューめいたドープなサイケデリアの演出は前年EP『Sink』にも見られたのでソランジュの影響と断言は出来ないが、アルバムという形式にパッケージングするためのアプローチとしてのスクリュー(的サウンド)使いは『When I Get Home』とかなり似ている。ただ、ソランジュほど大胆に未知の領域に踏み込んではおらず、もう少し輪郭は掴みやすい。それ故強烈さでは劣るが裏を返せば親しみやすい。
まあ、ソランジュとの比較ばかりで語るべき作品でも無いのだが。この作家特有の個性と言えばやはりメイン楽器がヴァイオリンである事に起因する部分だろう。ヴァイオリンと聞いてイメージするバロックだロマン派だというようないかにもなクラシカルの要素は薄く、フィドルと呼んだ方が相応しい演奏であったりピチカートでギターを想起させる形であったりが多い。それながらギリシャ神話の女神をタイトルに冠し、ジャケには石像、ヴァイナルは琥珀色、となんとなく古式ゆかしい意匠で作品を覆っているのは、ヴァイオリンという楽器がこういった奏法の方がメインであったかもしれない歴史のifとしての提示なのではないか。

70. m-flo - KYO

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Spotify / 2CD+DVD / 2CD / CD+DVD

クラブ・ミュージックのトレンドとJ-POPを最も上手く結び付けるユニットの、初期ヴォーカリストだったLISAがアルバムのスパンとしては18年ぶりに復帰しての9作目。
このユニットの最重要ピースがプロデューサーの☆Takuなのは確かだろう。そして、今回復帰したヴォーカルのLISAも素晴らしい歌い手であると言うに躊躇は無いが、しかしLISA不在時代”loves”として多数のヴォーカリストを招いたその誰もが敵わない程圧倒的とは思えない。ではこの本作が18年前の『EXPO EXPO』以来の傑作ではないかと感じてしまうのは何故か?
☆Takuがメインヴォーカリストを一人と想定する事で、元々多芸なこのプロデューサーの方向性が散らかり過ぎるのを抑えたからだろうか。それは確かにあるだろう。だがそれだけとは思えない。「come again」がJ-POPにかけたマジックを(ギリギリ)覚えている世代が故のノスタルジー?これはなかなか否定し難い部分もあれど、少なくともサウンドは18年前に立ち返る懐古では全く無い。やはりラッパーのVERBALを含めたこの3人が揃ってこそのバンドマジックめいた何かがあるのだ。
トラップから特徴的なビートではなくウワモノを抜き出して独特のストーン感を再現した「STRSTRK」で鳴るシンセはどこか音楽的後継者の一人とも言えるtofubeatsへのオマージュとしても響く。

69. Beirut - Gallipoli

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元々Zach Condonのソロユニットとしてスタートし、特に大きな路線変更無くも現在はバンドとして活動している。
ザックの管楽器を主としてクレズマー的な色合いを基調としつつも、”ワールド・ミュージック”という括りの雑さを逆手に取ったかのように世界各地を擬似的にそしてノスタルジックに描く基本路線は今作も変わらず。が、ジャケットの香水瓶がブラウン管越しのイメージである事が示唆するように、”疑似”性への自覚がより増している。
今回の舞台はイオニア海に面するイタリア南部を冠した題名の通り南洋。「On Mainau Island」では古典的なメロディを歪んだ形で鳴らし、「Corfu」でのアコースティック楽器の短いループと現代的な圧を持ったキックの絡みはすわBeirut流Vaporwave解釈か?と思わせるなどエレクトロニックをスパイスとして絡ませながら、ガリポリが舞台のはずの物語に大雑把な南のイメージとして中南米が現れては消える。「私達はここに住んだ事が無い」と気付くとVHS的なローファイ感を備えたシンセが幕を下ろし、現代的なドラムの音といかにも南洋の戯画というスティールパンの音がエンドロールに添えられる。
言葉も自然音のサンプリング等も用いずに具象と言っていい程港町の風景を描く様が圧巻な「Gauze fur Zah」後半部分でピークを迎える音による情景描写力が異質。

68. Vampire Weekend - Father Of The Bride

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00年代後半から10年代前半にかけてのブルックリン中心USインディ隆盛を中心で彩ったバンド。コアメンバーの一人Rostam Batmanglijが脱退して初となる6年ぶりのアルバム。
Review coming soon

67. Lauren Desberg - Out For Delivery

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Spotify / Bandcamp / LP

未だ20代ながらレコーディング・キャリアだけでも7年に渡る女声ジャズ・シンガー。
Braxton Cookも参加するなど”その手”のメンバーも絡んで所謂ところの現代ジャズなリズムへのアプローチやポスト・プロダクションがフィーチャーされていながら、スタンダード・ナンバーも演ずるなどトラディショナルなジャズへのこだわりも隠さないあり方が魅力的。
その姿勢がアルバム全体を見たときのマクロなコントラストだと言えるならば、例えば先述スタンダードのひとつである「I’m Gonna Sit Right Down and Write Myself A Letter」におけるピアノKris Bowersのプレイは、ペダルを踏んで鮮やかに流す部分とスタッカートで跳ねるような部分とバッキングに明確なコントラストを付けた、言わばミクロなコントラストだ。そうした各楽曲のアレンジにおけるミクロなコントラストが折り重なって、アルバム全体にまた違うコントラストが見える。
軽妙にさり気なくも凝ったポップさは、10ccやTodd RundgrenからThe Flaming Lips等に至るようなロック畑のポップなメロディとストレンジなアレンジを併せ持つアーティストのファンにもアピールし得る。

66. The Comet Is Coming - The Afterlife / Trust In The Lifeforce Of The Deep Mystery

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The Afterlife: Spotify / LP
Trust In The Life...: Spotify / LP

UKジャズを代表する超絶ブロウのサキソフォニスト、Sons Of Kemet等でも知られる若き”King” Shabaka Hutchings率いる3人組。
元々Sun Ra等からの影響だろう、コズミックなテーマで作品を作っていたが、今年は復活した名門impulse!に移籍して、Nat Girsbergerによるアートワークも含めて連作的なアルバムを2枚リリースした。後に出た『The Afterlife』は惜しまれつつ早逝したビートメイカーRas Gに捧げられてもいる。
ロックやヒップホップやテクノのヴォキャブラリは最早必修科目である現代ジャズのマナーで全体をドライヴさせるBetamaxのドラムの上でシャバカがワイルドに吹きまくり、Danalogueのシンセが宇宙的であったり未来的であったりとコンセプトを提示する、という基本路線は変わっていない。が、若さ故のパワーで押し切るのが魅力でもあったこれまでの演奏から、BPMを下げたり音の隙間を増やしたりしてディープかつドープなサイケデリアを創出する方向性にシフトしていると伺える。
言わば過渡期とも見れるが、「Timewave Zero」や「Lifeforce part II」といった楽曲は無視禁物な素晴らしいものであるし、シャバカを筆頭に個々の演奏自体が魅力的なので、初めて彼らを聴く向きにも十分勧められる仕上がりになっている。この2枚からなら『The Afterlife』がより推薦度高し。

65. Thom Yorke - Anima

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言わずと知れたRadioheadのフロントマン。今回もバンド/ソロ共に長年の相棒Nigel Godrichとの共同作業。
レディオヘッドに比べると音楽的ヴォキャブラリの更新をあえて控えめにして感情表現にフォーカスしてきた印象の強いトム・ヨークソロ作品としては意外でもあるアグレッシヴなサウンド・アプローチで、Billie Eilishあたりと勝負するぞとでも言うような気概を感じる。その分レディオヘッドとの差別化が薄い印象はあり、複雑なファン心理も抱いてしまうが…
白眉は「Twist」後半のドラマティックなコード展開から、冒頭のシンセサイザーの音色が響いた時点で”勝った”ような美の極致の如しサウンドが聴ける「Dawn Chorus」という3〜4曲目の流れ。
ちなみにアナログ盤にはシークレット・トラックが用意されており、それがまた素晴らしい。ファンにはお馴染みStanley Donwoodとトムによるアートワークも相変わらず素晴らしく、溝の幅を贅沢に使ったカッティングによる音質も優れているのでアナログを是非推薦したい。

64. Deerhunter - Why Hasn’t Everything Already Disappeared?

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前回のディケイドの変わり目にドリーム・ポップやシューゲイザーのファンを賑わせて登場したこのロックバンドは、4年ぶりの新作でジャンルのトレードマークたる空間系エフェクトを排したストイックかつミニマルなサウンドによって「何故まだ全てが消え去ってはいないのか?」とポスト・アポカリプスを歌っている。
2019年ベストアルバム補完ミドルレビュー集1: Juu & G. Jee, Francesco Tristano, Benny Sings, Caroline Shaw, Lena Andersson, Deerhunter, OGRE YOU ASSHOLE

63. salami rose joe louis - Zdenka 2080

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Spotify / Bandcamp / LP

Bandcampでファンベースを築いたベッドルーム・ポップな女声SSW、Brainfeederに所属しての初作。
もともと”ベッドルームと宇宙を繋ぐ”というような感覚が感じられた作家ではあったが、今回はかなり宇宙≒Sci-Fi表現に振り切ってきた。なにせ”2080年、エリート達の資源豊富な惑星への入植が太陽の急冷却によって失敗し、地球に残された人間がある日異次元で目覚めた”というゴリゴリのコンセプト・アルバムなのだから。
全体的な音の質感はベッドルーム制作な色合いを残しており旧来のファンもスムースに馴染めるだろうが、Brainfeeder移籍という事でか、むしろそういった表現をアピールしたくてBrainfeederを選んだという事か、設立者Flying Lotusの強い影響を感じる性急なビートと切迫感あるコード展開がフィーチャーされている点は賛否が分かれるかもしれない。
個人的には大歓迎な変化で、またFlyLo的ビートと旧来からの丸っこく人懐っこいエレピが同居している場面はこの人でなければ作れない音響空間だろう。また幾つかの部分にはTodd Rundgrenが感じられ、すわ初期から影響源の一つだったのではとも思い至ったが、宇宙的なサウンド志向がそれをより炙り出したように思う。
Sci-Fi志向を前面に出して尚ド派手なサウンドでは無いが、さり気なくも確実にトラディショナルなSSWのスタイルと現代的なビートや音像の感覚を結び付ける、あらゆるジャンルの音楽ファンに推薦したい一作。

62. OGRE YOU ASSHOLE - 新しい人

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ゆらゆら帝国人脈を受け継いだ日本のミニマルなサイケデリック・バンド。そのキーパーソンの一人石原洋の手を離れての2作目。非常に質の高い作品ではあるが…?
2019年ベストアルバム補完ミドルレビュー集1: Juu & G. Jee, Francesco Tristano, Benny Sings, Caroline Shaw, Lena Andersson, Deerhunter, OGRE YOU ASSHOLE

61. The Humble Bee & Offthesky - All Other Voices Gone, Only Yours Remains

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Spotify / Bandcamp / フィジカル国内取扱見つからず。Bandcampに在庫あり

いくつものバンドを股にかけるマルチ・インストゥルメンタリストThe Humble BeeことCraig Tattersailとアンビエント系エレクトロニカ作家OfftheskyことJason Corderの共演作。
もちろん呼び名/ジャンル名を特定する事がそのままその音楽を捉える事とは異なる訳だが、しかしはて何と呼んだものか。Offtheskyの色が強いエレクトロニカ〜アンビエントとも聴けるが、The Humble Beeの生楽器演奏を軸としたポスト/インディ・クラシカルとも聴ける。この2人の結節点をジャズとして捉えて北欧ジャズが電子音を導入した流れにある作品とも、Gil EvansやClaus Ogermanのようなジャズ・オーケストラの最新解釈な作品とも聴ける。
そんな安易なカテゴライズを拒む美しいインスト群は、非常に叙情的で映像を物語を頭の中に喚起する。日本人的にはどこかセカイ系めいても見えるアルバム・タイトルをはじめ、各曲に付けられた表題はそれを更に加速させるだろう。最終曲はタイトルを知って聴くのと知らずに聴くのとで随分印象が違うかもしれない。

60. Ahnamusica - Star Light

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"Lo-Fi Hip Hop meets Citypop"を標榜する日本のマルチ・インストゥルメンタリストなビートメイカー。歌も自身で手掛ける。
Lo-Fi Hip Hop自体、故・Nujabesの強い影響下にありサンプリング素材に日本のアニメ音楽が使われる事も非常に多いムーブメントなので、そういった潮流を日本人が再解釈するのは逆輸入的な側面もあるわけだが、そんな文化的経緯を強く意識させずシンプルなポップとして耳を傾けられる形に落とし込まれている。いや、現状同じような音が多い訳では無いながらも、やはりLo-Fi Hip Hopが日本に端を発するだけあって、70年代から連なる日本的ポップスを融合させてこのようになるのは必然と言うべきか。
絵本のような、ジグソーパズルの絵柄にありそうな、安直なのかもしれないが抗い難いノスタルジアを喚起するジャケットが音も良く表している。ファンタジーの世界のようで、でもなんてことの無い現実の街並みのようでもあるドリーミンな架空の街。ずっとここにいたいけれどもいつかは離れなければならない夢の中の町のサウンドトラック。

59. Brad Mehldau - Finding Gabriel

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"ジャズの新譜"というものが他ジャンルのリスナーを巻き込むものでは無いと見做されていた時代からRadioheadをスタンダードと並べてカバーする等多様なアプローチを取り続けていた鍵盤奏者のシンセ主体作品。
Brad Mehldau - Finding Gabriel: それは巡礼か放浪か (年間ベストアルバム59位)

58. KIRINJI - cherish

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Spotify / LP

「エイリアンズ」で知られる90年代から活動を続ける兄弟ユニットが弟の脱退による実質的な解消を経て兄を中心としたバンドとして名義をローマ字のKIRINJIに変え再始動した3作目…
というバイオグラフィーに特段食指を動かされない層にこそリーチしてほしい、2010年代後半のUSにおいて高く評価されたR&Bやジャズとバチバチに渡り合える作品。
山下達郎のヴァイナルが中古で3桁台が当然の頃からシティポップやAORを雛形として曲を作り続けてきたKIRNIJIの頭脳・堀込高樹の作曲基本路線はそのままに、時代の方が彼に向かって来た事で、トレンドとは終始距離をおいて孤高を貫いてきたカタカナのキリンジ時代とは打って変わって最先端のサウンドアプローチをイキイキと吸収している。
Janelle Monae、Esperanza Spalding、cero、Anderson .Paak、小袋成彬、Mark Guiliana… 例えばこんな並びに興味を覚えるなら是非聴くべきだろう。USで日本でカッティングエッジな存在と認識されている彼女ら彼らのひょっとしたら一歩先さえ行っているかもしれないアルバムなのだから。

57. Toro Y Moi - Soul Trash / Outer Peace

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Soul Trash: Spotify / Bandcamp
Outer Peace: Spotify / Bandcamp / LP

10年代序盤を彩ったムーヴメント、チルウェイヴの筆頭格として登場したSSW。
ディスコグラフィとして正史的な位置付けでメジャーなプロダクションの『Outer Peace』と、今の所デジタルオンリーで傍流的な位置付けのセオリー破りなサウンドに満ちた『Soul Trash』の2作をリリース。
どちらかに軍配を上げよと言われれば『Soul Trash』になる。恐らくは小袋成彬『Piercing』のヒントにもなったのではないかと思われ、SolangeやJPEGMAFIA、Fear Gortaらとも共鳴する2019年のエッジーなキーワードと言えるコラージュ性の高さは非常に刺激的だ。
ただ一方で、グルーヴィーなポップを描く『Outer Peace』も無視されるべきでは無い。痛快なベースラインを中心としたシンプルに踊れる魅力ももちろんながら、少々皮肉めいた言い方をすればテンプレートをなぞったような部分もあるプロダクションをきっちり遂行出来るからこそ『Soul Trash』の冒険も成立するという、いわば表裏一体な面も浮かび上がるからだ。

56. Clams Casino - Moon Trip Radio

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Spotify / Bandcamp / LP (USオフィシャルサイト。極小生産のみ?で今の所日本取扱見つからず)

故Mac MillerやJojiなどへの提供で知られるヒップホップ・プロデューサー。
2010年代末期(そしておそらくは2020年代初頭にかけて)のサウンドを象徴する強烈なサブベースがこれでもかと使われ陶酔へと誘い、テクノやエレクトロからダブステップ〜ブロステップを想起させる倍音の立ったハードなシンセサイザーの数々は未来的表現として機能する。そしてタイトルは身も蓋もないとすら思わせる『Moon Trip Radio』だ。最新の電子音楽的表現をサイケデリアやSci-Fiの表現に使うのはマニアックなリスナーほど賛否が分かれる印象があって、かつての現代音楽作家の遺志を汲むような考え方であったり、ある時期以降のJeff MillsやCarl Craigには価値がないとするような見方からすれば本作にも価値が無いだろう。
逆にホラーやSF映画の劇伴こそ現代音楽が最も輝く場であると思えたり、前述ジェフやカールの近作、あるいは若めのアーティストであればHelena Hauff等が好きならばテクノやエレクトロとヒップホップというジャンルの壁を外して聴かない手はない。芸能山城組による『AKIRA』サントラ好きも必聴。電子音によるSci-Fi表現として2019年を代表する1作。

55. Little Simz - GREY Area

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Spotify / LP

ジャズシーンも活況を見せる南ロンドン発、マーキュリー・プライズにもノミネートされたスキルフルな女声ラッパーの新作。Kendrick Lamarら大物からの称賛も耐えないが、個人的にはBandcampでname your price形式のミックステープをリリースしていた頃から注目しており、その変遷をリアルタイムで見れている事をなんだか誇りに思えてしまうようなアーティストのひとりだ。
本作は幼馴染だというプロデューサーのInfloとほぼ二人三脚体制での制作。Michael KiwanukaにLittle DragonやChronixxといった大物フィーチャリングゲストも含むが、サウンド・プロダクションにはAstronoteとSigurdがそれぞれ1曲ずつInfloとの連名で絡むのみ。
随所にポスト・パンク的な鋭角性と捻りを忍ばせつつ、今のR&Bのトレンドにも目配せするそのバランス感覚が素晴らしい。一方で時にその天秤を思い切り振り切ってしまう勇気があるのも魅力で、(音楽アーティストとしての作風への近さとしても映画監督としての作品世界観への近さとしても)David Lynch的な匂いを漂わす「Venom」に宿る狂気には身が震える。
言葉数を詰め込む高速フロウから感情表現優先なフロウまでその使い分けもそれぞれにおけるスキルも図抜けていて世代随一のラッパー。過去作においてのInflo以外のプロデューサーからのトラック選びセンスも出色で、この後も更にあらゆる音楽愛好家の耳を惹き付ける活動をしていくはずだ。次はもう少し尺を長くとった作品でじっくり味わいたい。

54. THA BLUE HERB - THA BLUE HERB

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2CD / インスト盤付4CD

札幌が誇る日本語ラップ界孤高のトップランナー、活動再開の狼煙となったオリジナル・アルバムとして7年ぶりの作品はCD2枚をフルに使った2時間半の大作。
率直な所、もし音楽の価値が要素ごとに分けての採点によって計れるものならば、本作は必ずしも価値が高いと見做されるわけでは無いかもしれない。前作『Total』から活動休止までのシングル群にチラホラと見られたO.N.O.のサウンドの平板化、それは本作でも改善されておらず、素晴らしいものも含まれているが率直に言えばいくつかのトラックは2019年のヒップホップとして少し厳しさがある。ただBOSSのリリックは、リアルを重んじるが故に加齢も素直に反映させている点に好みが分かれるだろうが私的にはそれも好みであるし、また独特のフロウやライミングにメッセージ性のキレは衰えを知らぬと断言しても良いだろう。しかしそのBOSSのラップに比重を寄せて見ても2時間半は少々長い。重い。その尺全体を息もつかせぬ緊張感と言うのは難しい。
だが、本作はだからこそ意味がある。青山真治『ユリイカ』やジュゼッペ・トルナトーレ『ニュー・シネマ・パラダイス』ディレクターズ・カット版(劇場公開版は駄作だ)のように、冗長ではないか無駄ではないかという部分がある事こそむしろ本作の意義だ。輝ける瞬間もあれば沈むことも停滞することもある、というのが人生なのだから。1曲1曲におけるBOSSの筆致に勝るとも劣らない雄弁さでアルバム構造そのものが”人生”を写し撮っている。

53. Marcus Fischer & Burke Jam - Vanitas

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Spotify  / Bandcamp

重鎮の域に入ったアンビエント・マスターと若手サウンド・アーティストの共演作。
「最も環境音に近い音楽」。あるいは、ECMじゃないが「静寂の次に美しい音」。小さめの音で流せばチルアウトやリラクゼーションのBGMとしても機能するし、大きめの音で聴くなら坂本龍一が近年探求している”楽音と非楽音の間”を攻めた音楽としても聴こえるだろう。日常の背景、非日常としてのアート体験、音量だけで全く違う機能に様変わりする。
またフィールドレコーディングによる具体音の使用もあって映像喚起力は高く、”架空のサントラ”としても響く。更には聴き手のシチュエーションや精神状態に応じてもまた見せる顔が異なるので、故に折りに触れ何度も聴いてしまう。実に重層的な魅力を持った作品。

52. Boris - LΦVE & EVΦL

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Spotify / Bandcamp / LP

Sunn O))とも共演経験があり音楽性的にも共振するものを持つ日本のヘヴィ・サイケ・バンド、Jack White主宰Third Man Recordsに移籍しての初作。アートワークを2つ載せているが、デジタル・リリースは全てひと繫ぎであるし、LPも2枚のパッケージ販売のみ。それでも2つ載せたのには理由があり…
Boris - LΦVE & EVΦL: あまく危険な香りの轟音 (年間ベストアルバム52位)

51. uami - Composition baby excersise book (long) / Composition baby excersise book (five)

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(long): Spotify / OTOTOY
(five): Spotify / OTOTOY

Soundcloudに音源をアップロードするやいなやあれよあれよと話題と知名度を拡大させた日本の新星女声SSW。
散漫さスレスレなほどとにかく芸の幅が広く、ニューエイジ寄りアンビエントなタッチから壊れたような激しいハードコア、歌謡曲的ポップさを持ったメロディから現代音楽的な掴みづらい跳躍に満ちたメロディ…僅かなキャリアでの初作でそのどれもが板についているのだから舌を巻くほかない。
もう一つの個性は自ら手掛ける打ち込みにおいて、平気でプリセットそのままのようなチープな音色を使う点。これは旧来的には制作環境のチープさを示すものとして受け取られただろうが、近年のソフトシンセやサンプラーのヒット作はプリセットもそのためにアーティストを呼んで作らせたりとかなり凝っているので、あえてチープな音色を選んでいるのかもしれない。これが時代背景もありなかなか掴みづらいが、例えばJerry Paperやsalami rose joe louisの試みをより先鋭化したものとも受け取れる。ではさてそんな近年のインディポップを聴き倒した豊富な含蓄の元に作られた音楽なのか?と考えると、そうであるような、より肌感覚重視であるような…ここも聴くほどにわからなくなる。掴めなくなる。
総じて何度か用いてきた”掴みづらさ”という言葉にこそこのSSWの魅力は集約できると言えよう。この先どんな路線へ向かうのか、読めないからこそ考えるのが楽しい、追いかけるのが楽しい存在だ。

2019年ベストアルバム3: 50位〜26位
2019年ベストアルバム4: 25位〜1位

結構ギリギリでやってます。もしもっとこいつの文章が読みたいぞ、と思って頂けるなら是非ともサポートを…!評文/選曲・選盤等のお仕事依頼もお待ちしてます!