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結婚記念ビールを造りました #木内酒造 手造りビール工房 【前編】

結婚式を挙げる記念に、オリジナルのビールを造ろうと思い立ちました。そういうわけで、常陸野ネストビールで有名な木内酒造の「手造りビール工房」にて醸造体験をやってきました。という話。

私事ながら、というか、この note に書かれることは殆ど私事なんだけれども、昨年末に入籍した。そして、昨日6月19日、自分の地元倉敷で結婚式を挙げることができた。社会がこういう状況の中で式に辿り着けたこと、関係する方々の様々なご支援に大変感謝している。

さて、話は準備段階、数ヶ月前に遡る。

結婚式にあたり、妻が趣味で習っているバイオリンを披露すると言い出した。個人指導を受けている先生も列席してくれるらしい。式場や両親に内々に相談したところ、是非に、という具合に賛成してくれた。

となると、翻って自分だ。妻が演奏を披露するというならば、新郎側としても何かしら出し物なりを用意したい。いや、しなければ折に触れて今後延々と言われそうな気がする。

一緒に演奏などできれば良いが、音楽は殆ど学校の授業しか経験がなく、殆どというのは、中学2年生のときベースを断念してから久しい。他の出し物は、というと、残念ながら人様に披露できるような特技はない。

そういえば数年前、丸メガネをかけていた頃、職場の飲み会で「滝廉太郎を称して『荒城の月』を独唱する」芸をやっていた時期がある。が、勿論アレは宴会芸だから論外。中華街の老舗を営む、お姉様オーナーにはウケたけれども。

自分の趣味と言えば、読書とサウナとアマゾンプライム、あとは世間の平均より少しだけビールが好きで、少しだけビールについて知っているくらいだ。

ビール。

・・・そう、ビール。

式に向けた節酒のせいか、普段よりは多少クリアな自分の頭に、以前耳にした「あるサービス」のことが浮かんできた。

一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。永遠に、幸せになりたかったら酒を造りなさい・・・昔の人の格言にも、確かこのようにある。

木内酒造「手造りビール工房」は、海外でも名高い国産クラフトの雄・常陸野ネストビールを生産する同社の設備を使って、オリジナルのビールの醸造を体験できるサービスだ。

体験できる範囲は「どのようなビールを造るか」という設計の部分と、ホップを添加した発酵前の麦汁ができあがるまで。名門常陸野ネストのスタッフがインストラクターとして付いてくれるので、自分のような素人でも安心して取り組むことができる。工房での体験作業時間は大体4、5時間くらい。

発酵以降の工程は木内酒造で実施してくれて、数週間後、完成したビールがボトルの状態で自宅に到着する。

つまりは、ここで醸造したビールを、結婚式に来てくれた皆さんに振る舞おう。それが、ビール好きの新郎として計画した「出し物」だった。ちなみに「Bridal」の語源は、 古いヨーロッパの風習において花嫁が持参する酒、Bride + Ale だとも言います。

そういうわけで初夏のある日、自分は勇躍、木内酒造の所在する常陸鴻巣(ひたちこうのす)駅に向かっていた。一滴も酒を飲まない妻には家で待っていてもらい、大学の先輩のMさんに同行をお願いした。

茨城県那珂市、JR 常陸鴻巣駅は水戸駅から20分ほど電車に乗った先にある。茨城県に行くこと自体が20年ちょっとぶりで観光もしたかったが、今回はまっすぐ目的地に向かう。

駅は無人で、ICカードで来た場合はワンマン電車の降車時に証明書のようなものを渡される。水戸駅に戻ってから清算するということだった。民家や畑が広がっていて、寂しい場所ではない。ただし、最寄りのコンビニまでは結構遠そう。車社会なんだろう。

常陸鴻巣から10分ほど歩いた先に、木内酒造がある。老舗の酒蔵らしい風情ある建物に、お馴染みのフクロウのマークが輝く。ビールファンにとって、これを見ただけで気持ちが高まるというもの。

広い敷地内には木内酒造の直売酒販店や、レストラン「蔵+蕎麦 な嘉屋」がある。すべて歴史を感じさせる調子の建物だ。老舗の酒蔵らしくと言うべきか、中庭には大変立派な盆栽が並んでいる。Mさんと「見る人が見れば数百万相当ではないか」等と話していた。残念ながら私有地扱いらしく、至近で盆栽の写真はとれない。

受付を済ませてしばらくすると、体験用の工房(蔵づくりだ)に案内された。

メインの作業スペースとなるのは、工房の大部分を占める300平米くらいの広めな空間。入るとすぐ、銅色に輝くカナダ DME 社製タンクが並んでいるのが目に入る。仕込、ろ過、煮沸の工程をやっていく釜だが、ナンバーが振ってあり、ちょっと「サンダーバード」を想起させるようなレトロなカッコよさを感じた。一釜で一度に 25L くらいまで仕込めるようだ。工房の中心あたりには作業テーブルが置かれていて、打合せや軽作業、そして昼食用のスペースである。


【1】ビールのデザインを決める

まず最初に、スタッフの方との打合せ形式でビールのデザインを決めていく。

「手造りビール工房」では、まず常陸野ネストの四種の定番銘柄、ホワイトエール、ペールエール、アンバーエール、そしてスウィートスタウト(残念ながらこの6月で終売)を試飲する。そして、この中から一つ、自分が造るビールのベースとなるスタイルを選択する。

続いて、IBU(ビールに含有されるホップの苦味成分の量、高いほど強い)、使いたいホップの品種SRM(ビールの色調と濃さ、高いほど黒っぽい)、アルコール度数を指定する。IBU から使用するホップの量と投入タイミング、SRM 、アルコール度数から麦芽の種類、配分と量が規定されるが、そこはスタッフの方が調整してくれる。また、副原料を持参すれば、それを麦汁に添加することもできるし、コリアンダー等、一部の副原料は工房側にも用意があるようだ。

一方で、今回自分が志向していたのは以下のようなビールだ。

① 一目、一口で手造り感が伝わるような、キャラクターのあるビールであること。

⇒ 特に私を新しく家族へ加えてくれる皆さんには、自分がどのような人間か、式を機会に知り、関心を持ってもらいたい。大袈裟なようだが、手作りビールを造って配るのにもそういう側面がある。なので、飲みやすい中にも印象のある、心に良い意味での引っ掛かりを残せるビールにしたい。

② 多くの人が抵抗なく楽しめるビールであること
⇒ 社会的な状況もあり、今回の式は親戚だけを呼んで開催することにしている。参列者は老若男女(正直「老」寄りだが)、様々な方々だ。当然、ビールが得意でない人も、所謂クラフトビールを飲んだことがない人もいるだろう。キツかったり尖りすぎていたり、飲みづらさに繋がる特徴は避けたい。保存方法による味の変動もなるべく抑えたい。

③ 自分の嗜好に合致したものであること
⇒ ともあれ初めての醸造体験、楽しんで作って、美味しく飲めることは第一だ。せっかくだから自分の嗜好を反映させた、後で振り返っても後悔しないビールにすること、それがマストだ。

上記をふまえてスタッフの方に相談し、なおかつ持参したビアスタイルガイドライン(2016)を参照しながら打合せを進めた結果、出来上がったレシピが下記。

ABV 5.5%
SRM 25.6
IBU 21.5

元とする常陸野ネストのビアスタイルはアンバーエールながら、意図としてはイングリッシュ・ブラウンエール的な方向性を目指してみた。つまり、刺激は穏やかでモルトの旨みをまったり楽しめるエール。

ブラウンエールスタイルのビールは大手にも、缶流通してる国産クラフトにも決して多くはない。殆どの参列者にとっては、新しい味覚との出会いになると考えた。一方で、ビタネスは抑制的でアルコール度数も高くはないので、普段クラフト系に馴染んでいない方でも飲みやすいものになると想定。ホップは草系、ハーバルなキャラクターを意図して選び、濃い目のモルトとあわせ、自分の嗜好にも寄せられる。

これなら比較的幅広い層に受け入れてもらえて、かつ「普段のビール」とは違う風味を明確に楽しんでもらえそうだ。

デザインが定まったら、いよいよ実際の製造工程に入る。

【2】麦芽計量、破砕

蔵の端に麦芽を計量するスペースがある。近寄っただけで、麦の甘く香ばしい香りが漂っていた。先ほどのレシピに基づいて、種類ごとのバケツから今回のビール用の容器に、計量しながら移して、ブレンドしていく。

満タンに麦芽の入ったバケツは結構重量がある。作業と共に甘い香りが一層感じられるのは良いが、商業ベースに乗せる規模でやるのは中々大変だろう。

ブレンドが終わった麦芽は、粉砕機(モルトミル)にかけて袋詰めする。ビール工場の見学は何度か行ったが、粉砕機が動いているのは初めて見た気がする。袋を覗きこむと粉塵のようになった麦芽の破片が少々舞ってきて、感染対策とはいえマスクをつけてきて良かったと思った。


【3】麦芽投入
【4】昇温、糖化(マッシング)

粉砕作業から工房に戻ると、スタッフの方が予め磨いた(成分調整済みの)水を 50-55℃ に用意してくれていた。先ほど粉砕した麦芽(グリスト)を流し込む。

混ざりたての麦汁をタンク下部から排出しては上から戻し、循環・攪拌を行う。これによって、ムラなく全体を粥状にすることができる。

次は昇温だ。麦汁の温度を65-67℃に調整し、麦芽中の酵素を活性化させる。これによって、酵素がデンプンを糖に変えるはたらきが促進される。自然界に存在するものが、65℃ という地球環境にあまりない温度で最もはたらきを発揮するのは、少し不思議に感じた。大きなヘラで釜内を混ぜながら、温度をあげていく。

写真では躍動感ある感じの腕に見えるが、私たちの手つきは少々優しくギコチなさすぎたらしい。最終的にはスタッフの方の助けにより、昇温・撹拌が完了した。

温度が十分に上がったら、酵素による糖化を待つために、40分間のレスト(待ち)に入る。この時点での麦汁を飲ませてもらった。まずくはないが、粉砕した麦を水に溶かしただけの、少々バサつきある液体だ。色は存外明るい。

これが無事、美味しいビールになるのだろうか。

レストの間、我々も昼食をとることになった。

手造りビール工房では、作業の合間にサバサンドと惣菜のランチを出してくれる。写真のとおり、なかなか豪華な昼食だ。酢で締まったサバ、野菜類の自然な味が楽しめる。うずらの卵も酢に浸けてあるようで、これが非常に美味だった。

昼食時でも他の空き時間でも、近くの直営ボトルショップで買ってくれば、常陸野のビールを工房内で飲むことができる。折角の昼食時間、Mさんはヴァイツェン、私はジャパニーズ・クラシック・エールで乾杯した。幕末明治の舶来ビールに思いを馳せたというこのビールは、当時のスタイルを正確に再現しているかはわからないが、ボディ感が強く、満足感の高いビールだった。

初夏、作業の合間と来れば、セゾンでも嗜むのがマナーかもしれないが。

後編につづきます。

あんまり関係ない話。

6月21日(月)からの飲食店における酒類提供のあり方について、ようやく行政の方針がでてきた。これまで規制を遵守してきたお店の状況が、これによって少しでも良くなることを願うばかり。行きたかった店に行けるのは素直に嬉しい・・・!

以上

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