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20210801

 疲れた神経が女の声を聞きたがる。
 窓辺にナギの植わった鉢、朝焼けが古いガラスを通ってハイボールを照らしている。
 ずいぶん前に居なくなった女がちらつくことがある。沢山与えられ何も渡せなかった。スーサイドだったおれと共に消えて、眠れない体と、増えていく手の甲のシミだけが残った。ハイボールを飲む。美化された女は詩のテクスチャになって、毎晩の夢のように流れて消えてゆくばかり。
 ラジオを点ける、女の声を探す。偶像化された願望は似たもので満たされる。ベッドの中で歌うようなディーヴァ。ダイアルを回す手を止めて、煙草に火を着ける。
 窓を開けて煙を吐くと、満たされることは無いと思った。吐いた息を吸うように、満たされた胃がからになるように、目覚めてもまた眠りたくなるように、死ぬまでイタチごっこを続ける。穴を埋めてまた穴を掘る。巧妙に隠され、見ないように努めている、同じ穴同じ砂の山。陽の当たる角度が変わって、ふと顔を上げると。熱砂の荒野がどこまでも広がっている。
 シャベルを捨てて歩き出す夢を見る。




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