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短編小説 肩書き上司

お腹が空いたので、僕は買い物に出かけた。

ショッピングモール「怒号(どごう)」はいつも通り賑やかだ。
食品だけでなく、衣料、書店、ゲームセンターと、子供から大人まで楽しめる。

僕は食品売り場に行く前に書店に立ち寄った。

入口には、書店員がオススメする書籍が並んでいる。

人前で叱らない上司になるための本

肩書きにふさわしい教養が身につく本

パワハラ上司のための転職本

僕は店内を歩き回り、一冊の本が目に止まった。

小説 パワハラ上司よりも出世した青年の冒険

僕は、この本がベストセラーだと知り、レジに並んだ。

本を購入後、僕は食品売り場に行った。

店内を歩いていると、パートと思われる女性がうつむいている。隣には上司らしき男性もいる。

「君、やる気あるの?」

上司らしき男性が叫んだ。

「ごめんなさい。手が滑って、、、それで醤油を落としてしまって、、、それで、、、。」

パートの女性は醤油の瓶を落としてしまい、醤油がこぼれている。瓶の破片も散らばっている。
しかも、女性の手から血がでている。

「困るね、そういうことされると。会社の評判が落ちるよ。君が掃除してくれるの?君が醤油代を弁償してくれるの?ねぇ、聞いているんだよ。」

声を荒げる男の上司の胸元には「部長」と書かれた名札がぶら下がっている。

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数年後、株式会社「怒号」は倒産した。

SNSにより会社の悪いイメージが拡散され、売上が低迷。経営不振に陥った。

その後、パワハラ上司はハローワークに通い続けた。

「こんにちは、〇〇さん。どうぞお座りください」

ハローワークの職員(相談員)が言った。

「〇〇さん、この求人を応募するにあたって確認したいことがあります」

元パワハラ上司は何でしょうか?と尋ねた。

「〇〇さんは社会人経験が長い。何かスキルをお持ちで?」

元パワハラ上司は自身満々に答えた。

「部長ならできます」

「部長ならできる、、、?」

相談員は困惑した表情で元パワハラ上司を見つめた。

「えーと、、、それはどういう意味でしょうか?」


どうやら元パワハラ上司は「部長」という仕事があると思っていたようだ。

部下に指示を出すことが部長の仕事だと。


「なるほど、そういうことでしたか」

ハローワークの職員はため息をついた。

「失礼ですが、人は肩書きを失うと周りの態度も変わります。部長だから周りの人間も従ってきた一面もあります。でも、あなたはもう部長ではない。肩書きを失っても、あなたから去っていかない人間がいるのであれば別ですがね」

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元パワハラ上司の面接当日。

「ここが私の受ける会社か」

株式会社「リベンジ」はわずか数年で一部上場した会社である。

「失礼します」

元パワハラ上司はノックを2回(正しくは3回)し、部屋に入った。

そこには、株式会社「怒号」のパートとして勤務していた女性が座っていた。
醤油をこぼして謝っていた女性だ。

「私が社長の△△です」

女性はニコッと笑いながら言った。

「どこかでお会いしたような気がしますが、まぁ、いいわ。どうぞ、イスにおかけください。面接を始めましょう」

そういうと、真顔で女性は笑った。





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