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20220121 O先生と、今年最初に買った本


 小学二年生の時の担任のO先生が訪ねてくる夢を見る。いかにも小学校低学年の先生らしい明るいおばちゃんのような先生は、鼻の横にほくろがあった。髪はふんわりとふくらんだ黒髪のパーマ。見たこともない、なのになぜか勝手のわかる、さらには親しみまで感じる台所の冷蔵庫を開け、先生が持ってきてくださったケーキを皿にのせる。でも、先生は遠慮して食べないかもしれないと思い、かごの中に入った焼き菓子(フィナンシェのようだが形は正方形でなんだか大きい)の袋を開け、別の皿にのせ一緒に出した。飲み物は紅茶だ。先生はやっぱりケーキには手をつけず焼き菓子だけを食べた。

 今年最初に買った本は江國香織の『ひとりでカラカサさしてゆく』だ。年末から気になっていて、やっと買って、読めた。新刊を買うのはドキドキする。
 死を悲しいものだとか、良くないもの、ネガティブなものとして扱っていない作品が好きだ。だからといって肯定したり迎合するわけでもなく。すべての人にいつかは訪れることとして、淡々と粛々と扱う。
 この話は、老人三人が大晦日の夜にホテルで猟銃自殺をするというかなり激しい内容なのに、なんだか淡々としている。死を目の前にすると、人は案外淡々としてしまう。残された人は生きているのだし、生きているなら生活があり暮らしがあり人生がある。労働があって納税があって、食事があり入浴があり睡眠があり、そういう毎日がある。その絶望と安堵の混じった、とても複雑な感情と日々。そういうことを淡々と書かれてしまうと、ぐったりしてしまう。好きすぎて。

 江國さんは一つ前の『去年の雪』もそうだけど、なぜこんなにたくさんの人を書けるのだろう。様々な人。
 江國さんの本は色々読んでいるけれど、もう少し昔の話はここまでたくさんの人は出てきていないように思うし、一人一人が誰も彼も江國ワールドの住人という感じの、江國さんにしか書けない個性的な人(派手とか目立つというわけではなく)のように思っていた。でも『去年の雪』『ひとりでカラカサさしてゆく』に出てくる様々な人たちの中には、江國香織っぽくない人たちもたくさん出てくる(ように私は思う)。だからびっくりする。不意打ち、というか、ドッキリを仕掛けられたような感じ。
 同じ作家を愛し、長く作品を読み続けるというのはこういう楽しさ(時に悲しい時もあるのかもしれないが)があるのがいいなあと思う。

 エアコンから変な音がしている。こんな大寒の時期に壊れなければいいけど。


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