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レンタサイクルの彼女 (第六話/最終話)
【二十四歳の冬】
カレンダーをみて、床がもう冷たいのを感じた。彼女が家を出てから一週間は経つだろうか。
彼女が別れのスイッチを押した。でも、そもそも告白してきたのは彼女だ。スイッチは当然告白された側が持っているものだと思っていた。
気持ちが落ち着かない。彼女への不満をリスト化しながら、何とか自分を正当化しようと努めた。
でも一人には広すぎる部屋のせいで余計に虚しくなった。
「こんなこと
レンタサイクルの彼女 (第五話)
【二十四歳の春】
東京の家賃は高かった。埼玉で同じレベルの家なら七割くらいの価格で住める。僕は文具商社の東京営業所に勤務するにあたり、電車に乗る時間が三十分以内で収まるところで家を探した。もう少し駅を下ったり、間取りを妥協することも検討したが、一度気に入ってしまった家を見つけてしまったせいで、それ以外が視野に入らなくなった。そして結局、背伸びして理想的な家に住むことにした。彼女は夢追い人で収入
レンタサイクルの彼女 (第四話)
【二十歳の秋】
落ち葉が足元に積もっている。僕のチノパンと落ち葉の境界線がわからないほど馴染んでいる。
彼女の予言はしっかり当たった。彼女はノストラダムスを超えた。ノストラダムスは二千年が来ることを予想できなかった。きっとノストラダムスは競馬も苦手だろう。大穴に大金をぶっこむタイプのはずだ。
僕は大学になるべくいたくないので、暇なときは喫茶店にこもっている。そうしていると彼女も時間が空い
レンタサイクルの彼女 (第三話)
【二十歳の春】
桜の花びらが僕のまわりにも舞う。
僕は二十歳になるのと同時に大学生になった。
新入生歓迎会のシーズンにお酒が飲めるメリットは大きい。大学生活の八割は新歓コンパで決まる。胡散臭い自己啓発本のタイトルみたいなことを思っていた。
最初にお酒を共にするのは彼女だった。彼女が僕の大学の合格祝いを企画してくれたのだ。
場所はチェーンの居酒屋だったが、僕にはピューロランドと同じくらい
レンタサイクルの彼女 (第二話)
【十九歳の夏】
エアコンの風が参考書のページをめくる。
青チャートを置くには狭すぎる机が並ぶ自習室にも少し慣れてきた。彼女は晴れて大学生となり、僕は予備校生となった。
高校生のころと変わらず、友人と呼べるような人はできていないが予備校生という立場なので気にならなかった。そういう意味では“予備校生”という肩書きは最強である。
今日は息抜きに彼女と会う。彼女は七月なのに師走のような忙しさのた
レンタサイクルの彼女 (第一話)
【二十四歳の冬】
カレンダーをみて、床がもう冷たいのを感じた。彼女が家を出てから一週間は経つだろうか。
晴天の霹靂だった。
二人が別々の方向に進む選択のスイッチは僕が握っていると思っていた。でも彼女も同様に同じスイッチを持っていて、それを押したのだった。
彼女とはなんとなく、このまま一生を添い遂げると思っていた。僕の人生はいつも上手くいかない。彼女は僕に不満を持っていたのだろう。まぁ、