誰にも伝えられなかったこと

小指の無い社長、私の大切な名付け親。
あの包容力のある笑顔、私は忘れない。
初めて訪れた社長さんの邸宅、怖かったけど、豪華で格式があった。
初めて見た奥さん、クマのお母さんみたい。

社長の下で働いている父、部長だそう。
いつも家にいない。
たまに帰ってくる。
夜中とか夕方。そして、また出ていく。
出社にタクシーを使う。
朝、学校に行くとき、家の前でタクシーが待ってる。
違和感。ちょっと普通じゃない。
子どもでも分かる。
夜、時々会社の後輩を連れてくる。
母が手料理でもてなす。
優しいお兄ちゃん達、笑顔で遊んでくれる。
父は運転免許証を持っていない。
ある組の跡取り息子が、父の運転手。
いい人。笑顔が素敵。

ある日曜日の午後。
父に気に入られるカレーを作るため、
母は何回も作り直す。
辛さが足りないと、
私がスーパーに走る。
ビールが無いと、私が自転車をこいで
自販機に買いに行く。
たばこも同じく。
なぜ、なぜ、そこまでするんだ?と
私は思う。母に対してである。
私は母に頼まれればする。
母の役に立つならばいいと思っているから。

つづく

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