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【ネタバレあり】「目 非常にはっきりとわからない」で感じたこと 本質編

千葉市美術館の「目 非常にはっきりとわからない」に再び訪れた。

ちょうど一週間に訪れた前回はそうでもなかったのに、今日はすごく寒い。風も強い。季節が移り変わっていくのを肌で感じる。

訪れた後飲み込みきれなかったので調べてみたところどうやら「チバニアン地層」というものが関係しているらしかった。
非常に珍しく歴史的価値があるものらしい。
どんなに高価な宝石でも、知識がない人にとってはただの石ころでしかないことを思った。

チバニアン地層は千葉県市原市の養老川沿いで見つかった「地球磁場(地磁気)逆転期の地層」のこと。地球は大きい磁石のようになっていて北極にS極、南極にはN極がある。
本来はそれに応じて地層となる堆積物(れき・砂・泥・粘土、生物の死がい、海にとけていたもの、火山噴出物など)が引き寄せられる形で積み重なっていくところ、チバニアン地層には本来引き寄せられるべきものが反発し、反発されるべきものが引き寄せられていることが証明された。その地層が形成されたのがおよそ約77万年前とされていて、そのタイミングで地磁気(N極・S極)が最後に逆転したと推測される。

あまりの規模の大きさに脳の回転が一度止まる。中高生の頃に理科で学習した(であろう)知識が断片的に蘇る(気がする)。

確かにそうだ。
あそこに展示されているものは、本来は展示するべきではない「展示を開くための準備」が展示されている。
美術館を行く人たちは完成している美術を楽しむために来館する。自分自身もそうだ。
だから、初めてこの展示を見た時は、正直意味が分からなかった。ただ工事期間中なだけなのだと思っていた。
美術館の歴史として考えてみると、千葉市美術館のこの展示に集められた人たちは、チバニアン地層そのものである。
何百年か後に美術館の歴史が地層のようにまとめられたならば、明らかにこの地層だけ逆転している。
絵が銅像でない、何かあるのかも分からないものに引き寄せられて集まっている。
僕たちは堆積物の一部だったんだなと痛感した。思えば入り口にある柱もそうだ。来館したことを証明する黄色のAUDIENCEが無数に貼られていて、まさに層になっている。

ここまでは分かったけれど、まだ疑問が残る。なぜ同じような展示を7階、8階に分けたのか。
と、展示を動かしているのは何でだったのかということだ。

2度目の来館で、エレベーターに乗り一気に7階まで上昇している時、ディズニーシーにあるアトラクション、センター・オブ・ジ・アースを思い出した。
火山の中を探検し、最後に一気に急降下する人気のアトラクションだ。
アトラクション乗り場に行く前に、テラベーターと呼ばれるエレベーターに乗り込むのだけど、僕はあのエレベーターが大好きなのである。
何の匂いか問われたら分からないけれど、匂いが好きだ。実際にどうなっているのかは分からないけど、ものすごい勢いで下に下がっていく感覚も好き。
「目 非常にはっきりとわからない」も1階でエレベーターに乗り7、8階まで一気に上昇する。まさにセンター•オブ・ジ・アースと真逆だと思った。地下から地上に向かっていくとするならば、僕たちはマグマなのではないだろうか。
そう思って調べるとマグマはマントルと呼ばれる地球の内部で作られており、それは上層マントルと下層マントルという2つに分けられる。 となると7階と8階はマントルとして区分できる。

訪れた人々をマグマと呼ぶとするならば、僕たちはこのマントルで生まれ、7階と8階を彷徨う。彷徨っている僕たちも展示の一部だ。
もしかしたら「目 非常にはっきりとわからない」は美術館の中身ではないだろうか。
普段、目にしている閑静で美しく秩序ある美術館は、美術館の外側だ。
美しい外側を形成するために、内部では展示に関わる人たちが懸命に準備をしてくれているからこそ、僕たちはまっさらな気持ちで美術館を楽しむことが出来ている。展示物の一部に割れてしまったガラスがあったけれど、ああいう苦々しい思いを抱えた美術館関係者もきっといるのだろう。準備を整えてくれた方々のおかげだ。美術館を楽しめるのは当たり前ではないなと改めて感じた。

そして7階と8階ではフロアーを形成するマグマの流れが違う。
その流れを変えていたのが展示を動かす行為ではないだろうか。
一部始終を見ていたところ、薄々気づいてたものがはっきりと分かった。
あれは何も動かしていないということだ。
動かしているように見せて、途中から元に戻す作業に切り替えている。
僕たちがAUDIENCEなら動かしていた方々はACTORだろう。率直にいい演技だったと思う。良い意味で、まんまと騙されていた。展示の世界に入り込むことができた。
展示を動かす素振りをすることでマグマは堰き止められる。マントルの動きを体で味わった。バミってる訳ではなさそうだったので、おおよそこの辺りという感覚で移動させて戻していたのだろう。だからズレが生じ、元に戻っているかのようで展示自体が少しずつ変化しているのだと感じた。
下層マントル(7階)と上層マントル(8階)はそうやって絶えず微妙に変化し続けている。マグマもそれに合わせたり巻き込まれたりしながら変化していく。
生き物みたいだと感じた。この展示は生き物だ。人間という生き物が生き物のために生き物を展示している。

ともすれば地球も生き物だ。
風邪をひいたり、本調子じゃなかったり、気まぐれがあったりと常に一定ではない。地球だって地殻変動によって絶えず変化をし続けている。
その外側で当たり前のように僕たちは生活をし、天災等で変化の鱗片は感じられるけれど、内側のことは全く分からない。本当のところはどうなっているのかなんて、地球に住んでいるすべての生き物が理解できていないんじゃないだろうか。
それなのに地球で生きてる。昨日があったんだから明日があって当然と思いながら生きている。外側しか分からないくせに。
これってなんだかすごく不気味だ。
今自分が立っている地面のずっと下には意味が分からないくらい熱い液体の層があって、とてつもなく大きい磁石にもなっていて、反対側では人間が同じように生活している。
その事実が分かりそうで今ひとつ分からない。中身が分からないことは、すごく怖い。
この展示もそうだ。分かったような気がしているけれど、本当に言いたいことは全く違うことかもしれない。

地球に地層があるなら、きっとそこで生活する自分自身にも地層がある。
知識の地層。
見たり、聞いたり、食べたり、調べたり、体感したものが積み重なって僕という人間が形成されている。
当たり前だけど、不思議だなと思う。
というか不思議としか思えない。その先にどんな感情を抱いたら良いのか、分からない。
ひとつ分かるのは、何事も積み重ねが大切だということ。
今回は「目 非常にはっきりとわからない」を分かりたくてかなり苦労した。理解するための知識がないからだ。
ここに書き連ねたことはテスト前の一夜漬けみたいな付け焼き刃の知識なので、間違えていたらどうしようと不安にもなる。

更に具体的に、はっきりと分かったことを残して終わりにしたい。
もっと勉強しておけばよかった。

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