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【実話系・前世怪談】苦しめる理由

あれはいつだったか。

当時親しかった友人などの記憶から考えて、たぶん私が37〜8歳くらいの頃だったと思う。

ある晩、自室でいつものように寝ていた私。頬に何かが当たる感触がして目が覚めそうになった。

(ううーん、くすぐったいなあ!)

誰だろう。イタズラに頬をくすぐられている。ふやふやと頰になにか触れている

(うははっ、やめて、くすぐったい!)
首を振って払おうとしたその時、

グン……!

突然、首が締まった。

「があっ…!」

顎が上にのけ反る!
溺れるように仰向けにもがく。

「うぐあ、あ、がっ……」
首を絞めるそれを取り除けようと首に手を伸ばすが強い力で首を紐のようなもので上に引っ張られている。

(いっ、息が 出来ないっ!)

「がっ、、があああっ……!」
助けを呼ぼうにも声が出ない。足をバタつかせる。誰かっ、助けて!

もうダメかと気を失いかけた時、フッと解放された。慌てて布団から這い出す。

振り返って枕元を見る。
さっきまですごい力で私の首を絞め上げたはずの紐は、ない。

それどころか、私を絞め上げた誰かがいたであろう私の枕の上は壁があるのみだった。

壁から手が生えてきて私を紐で絞め上げたとでも言うのだろうか。

恐ろしい体験をした。本当に息ができなかった。本当に殺されるところだった。

「ハァ、ハァ、なまんだぶ、なまんだぶ…」

震える声で念仏を唱え、神仏の加護を祈った。怖いというより、実害がある。本当に殺されるなんてことがあるんだ、幽霊に。

神仏に祈って少し落ち着いた。まだ怖いが、寝ないわけにはいかない。今日はいつもよりやけに眠い。

もう大丈夫だろう。そう思って布団に入った。

眠りに入る私の頬を、また何かが触れた。くすぐったい。

(はっ、まただ!)

そうか、これは、紐が頬に当たる感触だったんだ。

(逃げなきゃ!)
と思ったが遅かった。

グン…!
また首を締め上げられる。

「うがあっ……!」
息ができない。

(誰かっ、誰か、助けてえええっ……!)


(殺されるーーっ!!)
気を失いかけたとき、フッと力が抜けて解放された。


気づいたら、私は違う場所にいた。ここは日本ではない。ずいぶん前だ。

100年?……もっと前。

私は17歳くらいの少女だ。髪は肩より少し長めのストレートヘア、髪の色は金髪に近い明るめのブラウン。肌は白い。体型は痩せている。

私の姿は白人の少女だ。

身体を見ると腕にブツブツがある。腕だけではない、身体のあちこちに妙なできものが出ている。ブツブツと醜い……

複数の医者に診てもらったが、原因はわからないと言われた。謎の病気?じゃあ、薬もないの?

ブツブツだらけの醜い身体を人に見られるのが嫌で、私は外出できない。数ヶ月も引きこもっている。もう何日も家族以外の人と会っていない。


もともと暗い性格が、さらに暗くなってしまう。誰のせいでもないとわかっているが、家族と話すのも嫌だ。

親は心配するあまり、
「もうこうなったら霊媒師にでも相談するしかない」
と言い出した。降霊術とか言って、怪しげな儀式をする連中だ。

(アホか)
そんなインチキに頼ろうとは、我が親ながらアホだと思う。

「絶対行かないからね!」そう言って断った私を、思い余った家族が強引に縛り上げた。

後ろ手に腕を縛られ、口には猿ぐつわをされてしまった。歩くことは出来るが、これではどうにもならない。馬車に乗せられ連れてこられたのは都会の一角、大きな建物が並んでいる。

人目に配慮してか、馬車を降りる際に頭に上着をかけられたので家の外観はわからなかった。歩くよう促され、室内に入ってから上着を外され、猿ぐつわも解かれた。

「もう暴れないから腕も外してよ」

言ったが無理だった。後ろ手を前に変更して縛られた。
(もう暴れないと言ってるのに!)

憮然とした顔で、室内をじろりと見回す。
(さすが霊媒師の家ね。ずいぶん陰気な部屋だこと。)

時間も遅かったせいもあり、室内はうす暗い。

「ハァ…、まったく、霊の存在を信じない人もいますけど、霊は本当にいるんですからね!」

私の様子を少し離れたところから見ていた中年の婦人が言った。汚いものでも見るかのような顔で私を見ている。肩口の膨らんだブラウスと長いスカート、地味で暗い色の服を着た痩せた女だ。

(この陰気なおばさんが霊媒師?)

睨み返した私におばさんはさらにムッとした様子でため息をつくと、「こちらへ」と、私だけを階下へ誘導した。家族はこの先へは入れないらしい。

(地下室?)

暗い階段を降りて開いたドアから中に入る。おばさんも中に入ってきてドアを閉めた。

(窓がない)
当たり前だ。地下だから。

ランプの灯りがほのぼのと室内を照らしている。意外と明るい。

部屋の真ん中にはテーブルがあり、その向こうには、男が……
「やぁ、どうぞ座って!」

不意に陽気な声を掛けられた。まじまじと声の主を見る。

メガネを掛けた中年男がテーブルの向こうに座っている。背はそんなに高くなさそうだががっしりした筋肉質のせいか大きく見える。
白いシャツにサスペンダーで吊ったズボンという、ラフな格好。
テーブルに両肘をついて手のひらを組みニコニコと笑っている。

ひょうきんそうな男だ。
私もつられて思わずニッと笑い、彼と向き合って腰をかけた。

どうやらこの男が霊媒師らしい。
さっきの陰気なおばさんはドアの隣にある小さな机に向かって座っている。
どうやら会話のメモをとっているようだ。そうか、おばさんは助手なのか。


座ったもののどことなく落ち着かない。縛られた腕を大人しく膝に置き、霊媒師の男の方に向こうとするが、妙に左側が気になる。何もない空間をチラッと見る私。

「そう。二人の人間が横に並んでいると、二人から見てちょうど三角形の頂点になるあたりに霊が出やすいんだよ!」

霊媒師の男がサラっと言った。慌てて私は左側を見るのをやめて、ニコニコした男を怪訝な顔で見る。
(いきなり気味の悪いこと言わないでよ……)

筆記役のおばさんも、メモを取りながら私をジロッと上目遣いに見た。さっきはしてなかったメガネ掛けてる。


「コナン・ドイルもさ、霊魂の存在を信じてるんだよ!」
霊媒師は楽しそうに言う。
ああ、コナン・ドイルね。いま新聞で小説書いてるひと。
代表作はシャーロックホームズ。

コナン・ドイルも神秘主義よね。

降霊術とか、奇妙な儀式やってるんでしょ?
窓のないこういう部屋でやるんだ?

うさんくさいものを見る目で男を見ると、男は少し身を乗り出して話し出した。

「これから僕が言うことは本当のことだ!よく聞いてほしい。」

妙な気迫のこもった声にギョッとして、椅子の背もたれに身体をのけぞってしまう。

「君の先祖に銀行員の男がいたはずだ。名前はリチャード・バークレイ。30代半ばで亡くなってる。」

「彼は天然痘で死んだ。リチャードは知ってほしいんだ。自分になにがあったのかを!」

突然、霊媒師の身体がパァァァッと光を放った。
えっ、なにこれ……

「知ってあげてくれ!リチャードを。彼は自分を知ってくれと君に訴えかけている!!」


場面が変わった。
私の家が見える。街中の小さくて可愛い木造の家。そこだけ三角に尖った屋根裏部屋を見上げる。

私は物置き部屋となっている屋根裏に駆け上がった。両親もついてくる。窓から差し込む陽の光の中、私たちは先祖の古い記録や持ち物を探した。

「あった!」

見つけた。すごく古い、これはたぶん銀行の通帳のようなものだろう。金額やサインが書かれてある。

名前は、リチャード……、リチャード・バークレイ!!

天然痘で死んでしまった銀行員のリチャード……




石造りの大きくて立派な建物が並ぶオフィス街、銀行から出てきた黒いつば広帽子(シルクハット)をかぶった小柄な男が、こちらに気づいて照れくさそうに微笑んだ。

あなたが銀行員のリチャード?
ご先祖だけどあんまり私と似てないのね。
黒い髪、素敵よ……

リチャードが私に笑いかけている。

「えへへ、こんにちは!」と。




ここで私は目が覚めた。


こんな夢、初めてだった。
複数の出来事、国、時代を行き来する。

夢の内容を整理する。


英国
コナン・ドイルが新聞で連載してた時代
19世紀末から20世紀初頭。

英国の庶民の家
謎のブツブツが出来て悩む少女
霊媒師、降霊術

少女の先祖、銀行員のリチャード。
英国の銀行の歴史をざっと調べたところでは、1694年にイングランド銀行が設立されたらしい。リチャードが務めていた銀行の名前は不明だが、その頃から銀行というものはあったということだ。

少女の生きた時代は19世紀末から20世紀初頭。彼女の両親が物置部屋で共に先祖の記録を探したということは、両親もリチャードの存在を知らなかったのだろう。つまりリチャードが生きたのは彼ら家族が生まれるもっと前。

以上から、リチャードが生きたのはだいたい18世紀と考えられる。リチャードは天然痘で死んだと霊媒師は言っていた。

リチャードは子孫に自分の存在を知らせるために、少女に似た体験をさせていた。


じゃあ、
じゃあさっき、私が首を絞められたのはなんだろう……

なんだろう。

18世紀の天然痘で死んだリチャード
19世紀末から20世紀初頭にブツブツが出来て悩んでいた英国人の少女

では21世紀、いま、どうして日本人の私は首を絞められたんだろう?
どうして、英国人のリチャードや少女の夢を見たんだろう?


「リチャードは天然痘で死んだんじゃなくて、家族に殺されたんじゃないのか…」
ちょうどさっき寝てる私が首を絞められたのと同じように。

感染を恐れた家族によって。

いや、財産が目当てだった可能性もある。

わからない。


ただ理由はわからないが、リチャードは自分が殺されたことを伝えにきたのではなかろうか。



リチャードは、誰か私の知ってる人に似ている気がする。

たとえば、彼の照れたような笑い方は、私の死んだ父に似ている。


━━了━━

【追記】
この話はリチャードに何があったのかの考察が不十分なままでしたが、以下のコメント欄にて皆様のお知恵をいただき、少しずつ考察が進みそうです。

コメントくださった皆様、どうもありがとうございます!😄🙇‍♀️🙏リチャードも喜んでくれてると思います。


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