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ラジオの記憶②「あるミュージシャンの言葉」

 最初から言い訳で申し訳ないのですが、ラジオのあいまいな記憶なので、それが本当に事実なのか、について、完全な自信がありません。

 だから、「あるミュージシャン」という表現にしましたが、この「あるミュージシャン」は、山下達郎氏のことです。もし、今回の記事の内容について、間違いなどがありましたら、訂正いたしますので、ご意見をいただければ、ありがたく思います。

 ただ、伝える価値はあるのでは、と思ったので、今回、書くことにしました。

インタビューでの言葉

 もう、ずいぶんと前のことです。
 ラジオをぼんやりと聞いていたら、山下達郎氏が出演していました。 
 おそらく、新しいアルバムを出すので、その宣伝のためもあって、インタビューに答えていたのだと思います。

 インタビュアーが、少しだけためらいの気配があったあとに、こんなことを質問しました。

 山下さんの楽曲は、どれも似ているように思いますが…。


 その質問に対する答えは、微妙に熱を帯びて、聞きようによっては、少し怒っているのかもしれない、と思えるような口調で、こんな内容を、山下達郎が話していました。

 人間にとって、本当に気持ちがいいと思える音は、限られている。
 自分は、それ以外を使う気はない。
 だから、結果として似ていると思われても、それは仕方がない。

 とても誠実で、正直な言葉だと思いました。
 その上、その時点で、すでにプロフェッショナルとして成果も出しているのですから、より凄い人だと思いました。

アルバムについての言葉

 これも、かなり昔で、おそらく20年くらい前のことだと思います。
 音楽関係の演奏者やシンガーの中で、「アーティスト」と名乗る人も出てきました。

 そうした傾向に対して、山下達郎は、確か番組内で、距離をとった話をしていたように記憶しています。それは、こんな内容でした。

 自分は、ミュージシャンであって、アーティストではない。


 そして、そんな話をしていた頃に出したアルバムのタイトルが「アルチザン」でした。

 その意味は、フランス語で、辞書によれば、「職人」もしくは「職人的芸術家。技術は優秀であるが、芸術的感動をよばない制作をする人を批判的にいう語」とあるので、そういう名前を自覚的に使う行為自体は、山下達郎氏本人には嫌がられる言い方だと思うのですが、本当の意味でアーティスティックなことだと思いました。もっとシンプルにいえば、かっこいいと感じました。

「クリスマス・イブ」

 これも、ずいぶん昔に、山下達郎氏が、たぶんラジオで話していたことです。雑誌のインタビューなど、他のところでも話している内容かもしれません。
 今も長く聴かれ続けている「クリスマスイブ」に関することです。

 1980年代初頭、オフコースは商業的にも成功していて、山下にとっても、気になる存在でもあった。自分でも、1人でもハーモニーを作れると思い、「クリスマスイブ」の間奏の部分も、1人で多重録音などを使ったが、そこの録音だけで1週間はかかってしまった、といった話だった。



 これは、かなり話の内容への記憶があいまいですが、楽曲制作に対して、ものすごく手間をかけ、しかも、高いレベルで実現させた曲、というように聞こえました。

シティポップの再評価

 また、山下達郎氏の番組内で、何度も聞いた記憶があるのが、アルバムの完成が遅れている、という話で、それは、もちろんサボっているというのではなく、完成度に対して妥協をしないことで遅れる、といったニュアンスだったと思います。


 ここ何年かで、1970年代から、1980年代の日本のポピュラー音楽の一部が、海外でも再評価され、それは「シティポップ」といわれ、その中でも山下達郎の「フォー・ユー」は、その象徴のように扱われ、特に、そのアナログ版のレコードは高騰している、という話も聞くようになりました。


 その再評価といったことの理由については、専門的には、いろいろと語られているようなので、私のような素人が、何かを言うこともできません。でも、個人的に、山下達郎氏に関しては、「クリスマスイブ」の制作時のような姿勢で、どの楽曲にも妥協なく取り組んでいるのだろうから、完成度が高く、「よく出来ている」から、年月がたっても聞くことができる、というシプルな理由も大きいと思っています。

 そうした「再評価」に対して、山下達郎氏本人はどう感じているのか分かりませんが、外から見ていると、これまでラジオで聞いてきた山下達郎氏本人の数々の言葉が、何十年もたって、改めて証明されているようにも感じています。

 今も、日曜日午後2時になると、山下達郎の声が、ラジオから聞こえてきます。
 毎週、欠かさず熱心に聞いているわけではないので、何かを語る資格はないのですが、このコロナ禍の状況でも変わらない放送を続けようとする姿勢も感じ、聞くと、やっぱり少しホッとします。さらに、どんな状況でも、ハガキ(もしくはメール)を、番組に送ってくれる「超常連」の方々の存在も、変わらない日常も、確かにあることを伝えてくれているように思います。



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