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「オレオレ詐欺」から始まった「特殊詐欺」を、どうすれば防げるのだろうか。

 2度ほど、いわゆる「オレオレ詐欺」の電話がかかってきたことがある。

最初の電話

 夜中11時くらい。
「あ、俺だけど」
 軽めの若い男性の口調。
「どなたですか」
 と普通に聞いたら、さらに距離を詰めるような口調になった。

「何言ってんだよ。オヤジ。オレ、オレ」。
 うちには息子もいなければ、娘もいない。これが、オレオレ詐欺か。
「すみません、うちには息子がいませんが」。
「何言ってんだよ、おやじ。オレだよ」

 笑い声まじりで、まだ粘っていたから、失敗すると怒られるんだろうな、と思いながらも、もう付き合いたくないので、切ろうと思う。
「すみませんが、うちには息子はいないんで、切りますね」

 切った後、またかかってきたら嫌だな、と思いながらも、ちょっと怖いと考えながらも、しばらく電話もならなかったので、そのまま忘れてしまった。

二度目の電話

 もう一度かかかってきたのは、すでに違う切り口だった。時刻も夕方くらいだった。
「あ、もしもし」
「あ、どうしたの」
 私には弟がいて、ちょうど電話がかかってくるようなタイミングと、さらには、声がとても似ていた。

「あ、うん。さっき病院に行ったんだけど。」
「え、どっか悪いの」
「あ、なんだか、調子が悪くて、検査したんだけど」
「うん」
「明日、結果が出るんだけど」
「うん」
「そうしたら、また電話するよ」
「あ、そうなの。お大事に」

 少し沈黙。

「そのとき、いろいろお願いするかもしれないけど」
「あ、いいよ。できることはするから」
「じゃあ」。
 ちょっと元気がない時の弟の声そのものだった。

 ただ、当たり前だけど、完全に信じたわけでもなく、だけど、もしも、本当に病気かもしれない時には、変な電話をすると、余計に追い込んでしまうから、と思って、かけるのをやめようと、一旦は思った。

 だけど、まずは電話をした。留守番電話だった。
 だから、さっきは電話をくれたかどうかを聞いて、電話をくれたとしたら、大変だと思うので、できたら、また電話をください、とメッセージを残したら、1時間くらい経ってから、電話が鳴った。

 元気な弟の声で、さっきは電話もかけてないと言った。
 会話をして、やっぱり詐欺だったんだ、と思う。
 でも、その弟の声と、さっきの声はやっぱり似ていた。

 偶然だけど、もし、電話がしばらく弟とつながらず、次に、さっきの詐欺電話がかかってきたら、信じてしまう場合はあるかもしれないとも思った。

 その後、その電話は二度とかかってこなかった。

ヨーロッパの場合

 2000年代は、すでに「オレオレ詐欺」が社会的に問題となっていたと思う。その頃、ヨーロッパの、主に東欧に20年住んでいた友人が帰国し、会う機会があった。

 どんな話題からは覚えていないが、「オレオレ詐欺」の話になり、その友人は、どうしてそんな詐欺が成り立つのかは、よく分からない、と言った。

 その理由を聞いたら、いま、友人が住んでいる国では、親子や友人など、仲のいい人間同士では、本当に頻繁に連絡を取り合っているので、電話で「オレ」と言われて、別人であればすぐに分かるはず。もしも、微妙だったら、すぐに連絡を取るはずだから、この「オレオレ詐欺」が成立しないと思う、という話だった。

 詳細は分からないし、個人的な見方なのだろうけど、ただ説得力があったし、自分が無知なだけかもしれないが、そういえば、日本以外の国で、今で言えば「特殊詐欺」が、これだけ被害が大きいといった話は聞いたことがない。

 だから、もしかすると、このコミュニケーションが密であることが、「特殊詐欺」を防ぐ手段ではないか、と思った。ただ、それには、日本の社会的な構造自体を変えないと無理かもしれない、とも感じていた。

「オレオレ詐欺」の変遷

 どうして「オレオレ詐欺」のような電話が、うちにあったのかという理由は、簡単に言えば、「固定電話」だからだと思う。
 
 そして、「オレオレ詐欺」と言われていた詐欺は、名前を変えて行った。それは、自分の家に最初にかかってきた電話と、二度目の電話で、すでに方法が変わっていたように、ある意味では、どんどん犯罪の方法が変わっていったからだと思う。

 犯罪者と取り締まる側の、絵に描いたような「いたちごっこ」だった。

 「かあさん助けて詐欺」「振り込め詐欺」「還付金詐欺」「架空請求詐欺」さらにはさまざまな災害や事故に乗じての「カード無効」を口実とする新手の詐欺や、高額の「投資詐欺」など、いわゆる現代の「特殊詐欺」は巧妙な手口の開発?とともにしたたかに生き延び続け、多発している。

 「オレオレ詐欺」の最初の頃、大阪はだまされにくい。それは、「大阪のおばちゃん」のしたたかさ、と言われていたが、その後に犯人が関西弁を使い始めたら、その騙されにくさは、減少したという分析もある。

 この犯罪を少しでも減らすため、基本的には、多くは高齢者向けの注意喚起が行われてきたようだった。そんな広報のようなものも見たり聞いたりした記憶もある。

 見出し写真も「特殊詐欺」に対しての啓発ポスターだけど、ただ、これは、当事者に負担をかけすぎていると思う。というか、このポスターは、こんなに強そうな高齢の女性がいるのだろうか、という違和感がある。犯罪を、こうして当事者が防いで欲しい、という願望の現れかもしれない。

(余談だが、強い高齢女性というのは、一時期は、「男一匹ガキ大将」の“水戸のオババ”と言われる女性像の影響が強く、見出し写真のポスターも、そんな印象がある。)


コールセンターからの電話

 警察から、ということで、この「特殊サギ」の注意喚起の電話も何度か受けたことがある。それは、やはり、うちが固定電話だからだと思う。

 その会話の中で、まずは何かあったら、警察に電話をください。と言われる。その意味を聞いたら、だいたいこの犯罪は、地域で集中的に行われていることも多いので、その注意喚起のためにもなります、と言われ、なんとなく納得したような、しないような気持ちになった。

 さらには、その電話は、警察から直接ではなく、警察から委託をされた業者らしい、ということも知って、それでは、注意喚起としては弱くなってしまうのではないか、とも思った。
 
 そして、何度か、この「特殊詐欺」を防ぐための方法として、いつも「留守番電話」にすることを勧められた。ただ、これを聞くたびに、なんだか微妙な怒りのようなものを感じていたのは、それこそ、高齢者のことを考えているのだろうか、と疑問に思ったからだった。

 近所や、もしくは親の関係で、高齢者の知り合いが少なくない。
 その中の一部の人から、何度も聞いたのは、留守番電話は失礼、といった言葉だった。留守にしておいて、機械に伝言を頼むのはおかしい。可能な限り、本人が出るべき。といったことが真面目に言われていて、だから、留守番電話にしていたら、そこには一切、メッセージを残さない、という「信念」を持っている高齢者の方もいるのを知っている。

 そんなことを思うと、留守番電話を在宅時でもセットする、ということへの心理的抵抗があるから、そのような「警察」からの電話をもらったからといっても、その方針を変えるとは思えない。だから、その「警察」からのアドバイスは実質的には、役に立たない可能性も高い。

 考えるのならば、もっと実態に沿った、もし高齢者が被害に合う確率が高いのであれば、その高齢者の方々が、採用しやすい方法を考えればいいのに、と思った。さらには、何度も同じような注意喚起の電話をもらって、高齢者にちゃんと意見を聞いているのだろうか、と苛立った。

 もしも本当に防ぎたいのであれば、被害に遭う確率の高い高齢者に向けて働きかけるよりは、「オレオレ詐欺」といった子供や孫を「ダシ」に使うような犯罪であるならば、子供や孫と普段のコミュニケーションをどれだけ取っているのか?といったことが、おそらくは防ぐためのポイントになっていると思うので、、働きかける相手が違うのではないか、といったことを、その「注意喚起」の電話に対して、「何かご意見はありますか?」と聞かれた時に、何度か話した。

 つまりは、子供や孫の世代に、注意喚起を呼びかけるべきではないか、と伝えた。

 それでも、何度か、同じように「いつも留守番電話にしてください」といった生活実態に対しての「理解」が少ないような言葉を繰り返された。「委託」された人に言っても仕方がないし、無駄だと思いつつも、繰り返し、「子供や孫の世代に注意喚起をすべきでは」という話をした。

 ある時期、家族に向けての「注意喚起」キャンペーンもあったと思うが、もちろん、こうした私の話とは関係ないと思う。

とてもよくできている「犯罪システム」

 この本を読み、いわゆる「オレオレ詐欺」のことが、詳しく書いてあり、改めて、とてもよくできている「犯罪システム」だと思った。

 最初に人を集めるところ。かなり厳しいノルマを課して、残った人間だけに本当のことを教えること。さらに、読んでいて、かなり感心したのが、犯罪の後ろめたさを軽減させる「研修」のことだった。

 いわゆる「オレオレ詐欺」は高齢者をターゲットにすることが多い。それだからなのか、平日のおそらくは木曜日のゴルフ場に行く。医者が多くプレーしていると言われる曜日だ。その駐車場には、高級車が並ぶ。それを見せてから、ラウンドしている人を見に行き、そこに高齢者もいるから、こういう豊かな人間たちから、少しだけ金をもらう。格差を是正するに近い、といったことを語る。

 そのあとは、若い人間が、疲れて仕事を終えて、帰っていくような場所に行き、ゴルフ場との格差を強調し、だから、俺たちがすることは、犯罪だけど、そんなに悪いことじゃない、といったことを「研修」する。

 こんなことまで気が回るのだから、時代に応じて、さまざまな適応をし、変化をしていくはずだ。よほど、全力でこの犯罪に取り組まない限り、本当に撲滅は難しいと思った。

 元々、私も薄い知識でもあるのだけど、例えば誘拐事件で、最も犯罪成就のための「障害」となるのは、現金の受け渡しだということを言われていたはずだった。そこで、逮捕されたり、といったことが多いから、もし、その現金の受け渡しの部分が、犯罪者にとって「安全」であれば、犯罪の成功率は上がるはず、そんなことを聞いた記憶がある。

 そうであれば、そのお金を渡す方法として、銀行振り込みなど、被害者当人にやってもらえれば、犯罪で逮捕される危険は、格段に下がるはずだ。その現金の引き出しも、「受け子」のような、犯罪の「アルバイト」で何とかなるのだから、主犯者は捕まりにくい。

 つまりは、「特殊詐欺」というのは、相当に高度な犯罪である、ということを、まずはアナウンスした方が、いいのではないかと思うことがある。

 

「防ぐのが難しい犯罪」という認識

 「オレオレ詐欺」→→→「特殊詐欺」へ進化してきた「詐欺」は、その一端を知るだけでもかなりの「知能」が使われているし、また、犯罪を成功させる、という強い動機があるので、「研究」され、「進歩」しているのも事実だと思う。

 そうであれば、この「特殊詐欺」は犯罪史上でも、時代の流れの中で誕生したかなり画期的な犯罪でもあって、相当高度であり、ある意味、被害にあいやすい犯罪だと思う。

 だから、誰がだまされても不思議ではない。

 その事実をきちんと「広報」するメリットは大きく2つあると考えられる。

2つのメリット

 1つは、犯罪抑止の協力を求めやすくなること。

 例えば、「こうすれば防げる」と言い過ぎると、それが事実だとしても、それに気をつければ大丈夫なんだ、と思いやすくなる。

 それよりも、この犯罪は防ぐのが難しいということを、まず伝えることで、例えば、高齢者だけではなく、その子供世代の犯罪予防協力は、得やすくなると思う。

 みんなで気をつけて、考えて、行動しないと防げない。それが「特殊詐欺」という高度な犯罪である。そういう共通認識にして、社会全体で犯罪防止に取り組んだ方が、実質的に被害を減らせるのではないだろうか。


 2つ目は、犯罪被害者の2次被害を防げる可能性が出てくること。

「オレオレ詐欺」→→→「特殊詐欺」の被害者について、聞こえてくるのは、その被害にあった場合の、その後のことだった。

 まず、金銭的な被害にあうことで、直接的なダメージがある。その上、被害にあってしまった、という事実によって確実に傷ついているはずだと思う。

 それなのに、被害にあった当人が、どうしてそんなものにひっかかかるのか。といった非難を受け、それによって、「2次被害的」に傷ついてしまい、場合によっては、(特に高齢者の場合)心身の病気の悪化につながってしまう場合もある事が、さらに深刻なのだと思う。

 その場合、この犯罪が、誰でもだまされてしまうような高度な犯罪(これは事実だと思う)である、というアナウンスをした方が、身内の誰かがだまされたしても、同情的な見られ方をされる可能性が高まるし、少なくとも、「あんな詐欺にだまされて」と、非難されにくくなると思う。

 もし、そうなったら、「2次被害的」なことは減るので、この犯罪の防ぎにくさは、もっとアナウンスしたほうがいいのではないだろうか。

名前を変えること

 さらには、この「特殊詐欺」の名前は、考え直した方がいいのだと思う。

「オレオレ詐欺」「母さん助けて詐欺」「振り込め詐欺」「特殊詐欺」そんな風に名前が変わってしまうと、まるで、呼ばれなくなった犯罪がなくなったか、減ったのか、違う犯罪になったのか。そんな印象になってしまってもおかしくない。

 そうなると、それまでの「オレオレ詐欺」への予防策への心構えみたいなものが、その度に、リセットされてしまうのではないか、という懸念がある。

 小田嶋隆氏は「電話詐欺」にした方がいいのではないか、という指摘をしているが、これが、かなり正確な見立てに思えるのは、全ては電話から始まっているからだ。もう少し言えば、うちもそうなのだけど「固定電話詐欺」という名称にした方が、注意喚起としては有効だと思う。

 その名称について、もしも、小田嶋氏の推測のように、さまざまな政治的な都合により避けられているとすれば、それは、その電話から始まる詐欺を、本当に防ぐ気がないと思われても仕方がない。

 ただ、「固定電話詐欺」に名称を変えることで、電話でのセールスについては、マイナスになる可能性もあるのだけど、そのことと、犯罪被害のバランスをどう考えていくか?も、これからの課題になるのだと思う。



(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。


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