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かにみそ に関する、とても小さな思い出

 カニは、好きですか。
 好きな方にとっては、私のように、すごく好きではない存在は、理解しにくいかもしれません。
 食卓にあると食べますし、おいしい、とも思います。だけど、そこにあると、最初に“からをとるのがちょっと面倒くさい”などと、ひそかに思ったりしています。カニが好きな人の気持ちの熱量を考えると、そんなことをいうと、怒られそうな気もします。

 食べ物の好みは、その生育環境と関係があると思います。
 私が育った家庭には、カニが食卓にあがることは、とても少なかった記憶があります。
 昔のほうが、値段が高かったり、流通の関係で、食べる機会そのものが少ないという側面もあるのでしょうが、私の場合は、父親があまり好きではなかったようです。のちに知ったのですが、父は子供の頃、親戚の誰かに、カニにまつわる恐い噂(嘘なのですが)を吹き込まれたみたいでした。
 さらには、魚介類そのものも、食卓にあがる機会が少なかったと思います。それは、海のそばの街で生まれた父親が、上京し、食べた魚介類がおいしくない、と思い込んだようです。首都圏で生活することが多く、その際も、父の意向が優先されていたようで、食べる機会が少なかったと思います。

 戦後の一時期、特に豚や牛の肉が、やたらと偉かった時期があったようで、その風潮に影響を受けて、高度経済成長期からオイルショックの頃の、私の家の食卓には、やたらとトンカツや、コロッケが並んでいました。あれだけ、揚げ物をしてくれた手間ひまを考えると、母親も大変だっただろうな、と改めて思いますが、成長期の私や弟にとっては、とてもありがたい環境でもありました。

 そうなると、その家の食卓に、カニがあることはさらに少なくなり、食べる機会そのものも、まれになっていました。
 なじみが少ない食材は、そんなに好きにならないことが多いのでは、と思います。

 

 20代になり、仕事を始めてから、焼肉屋に初めて行きました。おいしいと思いました。しばらく、カルビ好きになりました。出張が多い仕事で、同業者の方々に、各地のおいしい焼肉屋を教えてもらい、週に3回くらいは、食べていました。気がついたら、1年もたたずに、10キロくらい太っていました。肉に関しては、なじみがあった、ということだと思います。

 海のそばの街に行った時には、当然のように魚介類を食べる機会が多かった記憶があります。ただ、その時の記憶は、焼肉に比べて、微妙に色が薄いように感じています。

 同業者の方々と食べに行ったお店のテーブルには、カニが並ぶことがありました。私は、淡々と食べて、他のいろいろなものを食べていると、隣の同業者の先輩から、声をかけられました。

『それ、食べないの?』
 視線の先には、カニの甲羅があり、その上には、かにみそ がありました。

 「あ、はい」
 かにみそ系は、舌の慣れがないと難しいのではないか、とも思っていました。20代になってから、初めて食べるようになったのですが、そんなにおいしいとは思っていませんでした。まだ複雑な味が分からない子供舌で、どちらかというと貧乏舌だったのだと思います。

 さらに、その人との会話が続きます。
 すでにアルコールも入っています。
『じゃあ、もらっていいかな?』
「あ、どうぞ、どうぞ」

 ちょっと間があきました。
『ホントにいいの?』
 こんな席にふさわしくないような強めの確認をされました。

「もちろんです」

 その人は、とてもうれしそうな顔をしました。そして、その かにみそ が乗った甲羅を自分の前に持って行きました。
 大人になって、こんなに素直に自分よりも大人の人が喜ぶのは、あまり見たことがありません。

『ほんと、ありがとう』と、すごく感謝が伝わってくるお礼を言われました。
 こちらが恐縮するくらいでした。

ただ、これだけの小さい思い出ですが、なぜか、今でも覚えています。

 失礼な事なのですが、そのとてもうれしそうな顔をしたのが、誰かははっきりと覚えていません。ただ、その頃、毎週のように会っていた仕事関係の方だったのは、確かです。仕事での関わりだけの人が、あんなにうれしそうな顔をしてくれることは、今に至るまで、そんなにない事なので、その出来事は、憶えているのだとも思います。

 今でも、かにみそを、積極的に食べたいと思わないままです。
 年をとっても、舌は成熟しないのかもしれません。


 かにみそ を改めて、検索すると、かにの脳みそと誤解されているようですが、実は、かにの内臓です、という言葉がありました。
 これは、今回、初めて知りました。



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