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テレビについて㉞ドラマ 『マイファミリー』……犯人を分からせない、ということ。

 もう、すでに多く語られてきたのだけど、「マイファミリー」については、ドラマが終わってからでも、いろいろな見方が出ている。

なつかしい指摘

最終話で明らかにされたのは、たとえば一課長が「タブレット」という言葉にだけ反応したシーン、阿久津美咲ちゃんが一課長の顔を見たときに驚いたシーンなどであろう。
ただ、どちらも最終話で流れた映像と、それぞれのストーリー上のシーン(5話の21分あたり、9話の29分あたり)の映像は違っている。
阿久津美咲ちゃんは一課長と出会ったとき、5話では最初目を伏せており、彼が背を向けてから訝しげな視線を投げかけているだけだった。
10話の謎解きのシーンでは顔を見たとたんに大きく驚いている。
5話でこの映像が使われていれば、一課長犯人説はもっと強くなっていただろう。
「タブレット……」と呟いたシーンでは、本編9話では葛城刑事(玉木宏)は一課長が言葉を発しているときから彼を見つめているが、謎解きシーンでは発言が終わってから視線を動かして、あらためて一課長に注目したように見ている。
伏線シーンはわかりにくく、謎解きシーンではわかりやすく撮られているのだ。
まあ、ドラマなんだから、これでいいのだろう。
「謎解き本格ミステリドラマ」と銘打っていないのだから、些末なことだと私はおもっている。(本格ミステリファンは許さない気もするけど)

 この記事を書いたコラムニスト堀井憲一郎氏は、ずいぶん昔「テレビブロス」に連載もしていて、その当時から、様々なことを細やかにカウントをしたり、「調査」をするように文章を書いていたイメージがあった。

 年齢を重ねると、申し訳ないのだけど、ゆるくなってしまい、読者として勝手な話だけどガッカリしてしまうライターの人も少なくないのだけど、堀井氏は、今でも、最終話と過去の映像も再度「調査」をするような書き方をしているのが分かり、ベテランになっても変わらないプロフェッショナルな姿勢を見せてくれて、なつかしくも、うれしかった。

犯人の名前

『マイファミリー』は第1話からして「謎解きドラマ」には見えなかった。

 堀井氏は、そのように指摘していて、私も視聴者として、似たようなことを感じていた。主人公が、どのように、誘拐という理不尽な出来事に取り組み解決していくか、がテーマに思えた。

 そうなると、犯人役に最も要求されるのは、最終話まで犯人と分からないことになる。誰が犯人か分かってしまうと、そこで理不尽な困難の度合いが薄まってしまいそうだからだ。

 そんなことを考えていると、唐突に連想したのが、映画「セブン」のことだった。

 デヴィット・フィンチャーが監督をした映画。猟奇殺人をテーマとした衝撃的な展開と、とにかく映像がシャープで惹きつけられるのだけど、この犯人役のケビン・スペイシーは、映画のオープニングクレジットでは、表示されていない。

代わりにエンド・クレジットで最初に名前が表示される。フィンチャーは「主役2人とグウィネス、その次くらいが犯人だろうと予想されるのを防ぎたかった」と述べている。

 そのくらい、「誰が犯人なのか」ということは、見る側の気持ちに影響を強く与えるということかもしれない。

犯人役

 「マイファミリー」を見始めた時に、一番、犯人役だと思わなかったのが、サンドウィッチマン富澤たけしだった。

 それは、やはり自分の偏見もあるのかもしれないけれど、かなり演技力のある役者ばかりが揃っている中で、わざわざ芸人をキャスティングして、犯人役にするわけはない、と気がつかずに制作側の術中にはまっていたのだと思う。

 そのことを、富澤本人が巧みに補強していた。

犯人役と思ったら、刑事役だったのでびっくりしました(笑)。「俺でいいのかな?」と思いました。台本を読んでみたら、すごく話が面白くて、僕自身が早くドラマを観たいくらいです。

 このインタビューが載ったのは、3月でドラマが始まる前で、もしかしたら、台本が全部完成していなかったもしれない、と思ったが、ドラマ終了後、富澤が、こんなコメントをブログに書いている。

オファーを頂いた時に全体的なあらすじを読みましたが、もうすでにめちゃくちゃ面白くて絶対に話題になるんだろうなぁと思いました。
その反面、実力派揃いの役者さん達ばかりで、犯人という大役だなんてドラマをぶち壊してしまいそうなのでビビって最初は断ろうと思っていました。

 少し話を戻して、この5月の時のインタビュー↓でも、演技力の話に焦点が当たっていて、とにかく富澤は、自分が犯人と思われないことに関して、番組外で、結果として、かなり貢献していたことになる。

――相方の伊達さんとは?
富澤:しょっちゅう話しますよ。「そんなに聞きたいならいろいろ話すけど?」って言うと、「いや、それはな~」って言うから、どっちなんだよって。「あの時のセリフが怪しかった」とか言ってくるから、ちゃんと観てるんだなと思いますね。
――演技について何か言われるようなことも?
富澤:「お前、噛んでんな」と言われます。僕もちょっと怪しいなと思うことはあるんですけど、OKが出るのでいいのかなと思って。でもオンエアを観ると、実際ちょっと怪しいなっていうのはあります。言いづらい言葉がたくさんあるので、家ではずっと練習しているんですけどね。


安定していること

 このドラマは、先が見えない不安の中で、どのように対応していくか、という構造だったので、登場人物たちが、自信満々で安定しているわけにはいかない。

 通常の事件ものでは、刑事役は安定していて、だから、肩の凝らないストーリーになり、幅広い年代の支持を受けやすくなるのだけど、「マイファミリー」は、それを拒否するかのように、全員が先の見えない不安に巻き込まれているように見え、それが魅力にもなっていた。

 そのドラマの中で唯一、不安に支配されていないように見えたのが、富澤演じる刑事課長だった。だけど、それは、他の役者に比べて、コントは一流とはいえ、シリアスな演技を要求される中では、どうしても、全体の空気の中になじめないせいではないか、と思いながら、他のすべての人物が不安に支配されているような場面が多い中では、富澤の存在は、少しホッとできる要素でもあり、だからこそ、より犯人とは思えなかった。

 ただ、これはこじつけかもしれないが、この次から次へ「分からないこと」が起こり続け、そこに巻き込まれながらも、必死になんとか打開しようとしている人たちの中で、先が分かっている存在がいるとしたら、真犯人だけのはずだ。

 つまり、富澤演じる刑事課長だけが、全てを知っていて、その結果として「安定感」を醸し出しているとも言えるから、それは、最初から理にかなった演技を、ずっとしていた、ということにもなる。

 これは、もし狙っているとしたら、キャスティングした側の巧みさに、視聴者がはまっていた、と言える。

 終わってからしばらく経っても、こんなことを思ったり、考えたり出来るのだから、「マイファミリー」というドラマは、魅力的で印象が強かったのだと思う。


 それにしても、うちでは、妻がドキドキするというので、翌日の昼間に、録画した番組を見ていたのだけど、これをリアルタイムで見ると、日曜日の夜9時から始まって終わるのが午後10時。次の日に仕事が控えている人が多いはずなのだから、眠りにつくことに支障は出ないのだろうか、といったことが気になっていたけれど、とても大きなお世話だと、自分でも思う。



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