不動産調査の基本:現地調査が物件の価値を左右する理由
登場人物
田中 美咲(たなか みさき)さん
年齢:22歳
性別:女性
職業:不動産会社の新卒社員
学歴:大学卒業(経済学部)
バックグラウンド:
美咲さんは、大学を卒業したばかりの新卒社員で、不動産業界に興味を持ち、地元の中堅不動産会社に就職しました。しかし、業界での経験はまだ浅く、特に不動産調査や基本的な業務の流れを一から学びたいと強く考えています。
目標:
不動産業界での基礎知識を身に着け、自信を持って業務を進めたい
1年以内に一人前の営業担当として成長し、顧客から信頼される存在になりたい
課題:
専門用語や手続きに対する理解が浅く、業務で戸惑うことが多い
忙しい業務の中で十分な学習時間が取れない
初心者向けのわかりやすい資料が少ないと感じている
ニーズ:
要点をまとめた、簡潔でわかりやすい説明を求めている
実務に直結する具体的な例や手順が記載されたガイドが欲しい
社長
経歴:
土地家屋調査士、行政書士、不動産コンサルティングマスターなど数々の不動産関連の資格を取得
不動産に関する広範な業務実績を持つ不動産調査・開発のスペシャリスト
不動産業務の実績:
宅地造成や分譲開発、事業用地の開発、用地仕入れ、テナント誘致、土地の買取やコンサルティングなどの豊富な経験
市街地再開発やCRE(企業不動産)業務、資金調達、不動産証券化なども手掛けている
開発許認可、重要事項説明書作成、現地調査、測量設計、地盤調査など、不動産に必要な調査・分析業務も幅広くこなす
社長は、不動産の基礎知識から高度な専門知識までカバーするプロフェッショナルであり、美咲さんが目標達成のために学ぶべきことを多く持っています。以下は、美咲さんと社長の「不動産調査の基本」についての会話です。
美咲
「社長、先日見た資料に『現地調査が重要』って書いてあったんですけど、具体的には何をするんですか?」
社長
「現地調査は、不動産の本当の価値を見極めるために欠かせない作業だよ。見た目や利回りだけで判断するのは、投資物件を買うときの大きな落とし穴なんだ。」
美咲
「利回りって、利益を計算する指標ですよね?それだけじゃダメなんですか?」
社長
「その通り、利回りはこう計算する。『利回り = (年間家賃収入 ÷ 購入価格) × 100』。でもね、表面的な数字に惑わされちゃいけない。例えば、高利回りの物件でも、建物が老朽化して修繕費がかさむ場合、結局利益が減ることもある。」
美咲
「あ…なるほど。それに修繕費なんて考えたこともなかったです。」
社長
「そうなんだ。しかも建物だけじゃない。法律や周辺環境、隣地の状況など、現地に行かないとわからないことが山ほどあるんだよ。」
美咲
「じゃあ、現地では具体的に何をチェックするんですか?」
社長
「まずは基本として、道路幅員。これは最低でも4メートルが必要なんだけど、それ以下の場合は再建築の際に敷地を削らなきゃならないこともある。そして、周辺施設の状況や地域の雰囲気も重要だ。例えば、夜間の治安なんかは実際に行かなきゃわからない。」
美咲
「データや写真だけじゃカバーできない部分が多いんですね…!」
社長
「その通り。現地調査は五感をフル活用するんだ。例えば、近隣住民とのトラブルになりそうな要因がないか、道路の状態が悪くないか、音やにおいも気にする。」
美咲
「でも、周辺環境だけでなく、建物自体にも問題がある場合ってありますよね?」
社長
「まさにその通り。建物の法的な状態も現地調査で確認すべきだ。例えば、既存不適格建築物なんて聞いたことある?」
美咲
「はい、少しだけ…。建築当時は合法だけど、今は法律に合わない建物のことですよね?」
社長
「その通り!これがあると建替えや売却時に大きな制約が出る。こういう物件は、データだけ見てると見落としやすいんだ。」
美咲
「じゃあ、現地調査をちゃんとやらないと、後々売るときに困る可能性が高いってことですね?」
社長
「その通りだね。不動産では『出口戦略』が重要なんだ。つまり、買ったときだけでなく、将来的に売却することも見据えておく必要がある。出口を考えると、建物の状態や周辺の将来性も含めて判断しなければならない。」
美咲
「なるほど…。出口戦略って奥が深いですね。具体的にはどう考えればいいんですか?」
社長
「例えば、建物の耐用年数を考えたり、周辺の再開発計画を調査すること。新築の物件でも、10年後に人気が落ちそうなら投資としては不利だろう?」
美咲
「確かに…。新築だから安心ってわけじゃないんですね。」
社長
「その通り。そして、法律や環境の変化も常に考慮する必要がある。特に現地調査では、そのエリアの未来の可能性も見極めるんだ。」
美咲
「じゃあ、現地調査をしっかりやれば、未来のトラブルを未然に防げるってことですね?」
社長
「まさにそれが目的だ。現地調査は、医者で言う健康診断と同じ。表面的に元気そうでも、内部に問題があれば長く持たないだろう?不動産も同じで、しっかり調査して初めて長期的な価値を見極められる。」
美咲
「ありがとうございます、社長!次の現地調査には私も同行して学んでみたいです!」
社長
「いい心意気だね。実際に現地を見ることで、デスクワークだけでは得られない気づきがたくさんあるからね。期待してるよ!」
美咲
「社長、現地調査に行くときに準備するものって何がありますか?ただ歩いて見るだけじゃダメですよね?」
社長
「そうだね、現地調査は道具が命と言ってもいい。適切なツールがないと、重要なポイントを見逃してしまうこともあるからね。」
美咲
「道具って具体的にどんなものですか?」
社長
「まず必須なのは、デジカメかスマートフォンだ。物件の外観や敷地内を撮影するために使うね。」
美咲
「スマホなら私も使い慣れてます。でも、ただ撮るだけじゃ不十分ですか?」
社長
「いい質問だね。ただ撮るだけだと後で『これ何の写真だっけ?』ってなる。写真を撮る順番を決めて、メモとセットで管理することが大事だよ。例えば、正面→側面→裏側という順番で撮影すれば後から整理しやすい。」
美咲
「あ、確かに。写真だけだと後で混乱しそうですね…。他には?」
社長
「次はスチールメジャーだ。特に7.5メートル以上のものが便利だね。敷地のサイズや道路の幅を正確に測るのに使うんだ。」
美咲
「7.5メートルって、結構長いですね!それってどうして必要なんですか?」
社長
「例えば、建築基準法では道路幅が4メートル以上必要だ。でも現地で測ってみると、意外に足りないことがある。その場合、将来的に建て替えが難しくなる可能性があるから、正確に測るのが大事なんだ。」
美咲
「なるほど…。道路幅だけじゃなくて、敷地内の高低差も測れそうですね?」
社長
「その通り!敷地の地盤が低い場合、雨水が溜まりやすいとか、建物の設計に影響が出ることもあるからね。現地調査では、スチールメジャーでしっかり測定しておくのが基本だ。」
美咲
「あと、現地調査で見落としがちなのって何ですか?」
社長
「そこで役立つのがチェックリストだね。事前に調査項目をまとめておくことで、見落としを防げる。」
美咲
「チェックリストって、例えばどんな項目を入れるんですか?」
社長
「まずは接道状況。道路の幅員や舗装の状態、排水設備なんかを確認する。それから、敷地の形状や越境の有無も大事だね。例えば、隣の家の塀が敷地に入り込んでいたらトラブルになる可能性がある。」
美咲
「それ、普通は気づかないかもしれません…。でも、トラブルになると困りますね。」
社長
「そうなんだよ。あと周辺環境も重要だ。近隣施設や騒音、日当たりなんかは現地に行って五感を使わないとわからない部分だね。」
美咲
「わかりました!現地調査には、カメラ、スチールメジャー、そしてチェックリストが欠かせないんですね。」
社長
「その通り。特に初心者のうちは、準備が不十分だと見逃しやすいから、しっかり準備していこう。」
美咲
「ありがとうございます!次回の現地調査には、チェックリストを作って準備万端で臨みます!」
社長
「いい心意気だね、美咲さん。準備を怠らないのが、プロとしての第一歩だよ。」
美咲
「社長、物件の接道状況って具体的にどこを確認すればいいんでしょう?名前だけは聞いたことがあるんですけど…」
社長
「接道状況の確認は、不動産の購入や評価において超重要だよ。特に道路幅員がポイントになる。」
美咲
「道路幅員ですか?4mとか5mとか、数字で書かれているのを見たことはありますけど…何がそんなに重要なんですか?」
社長
「道路幅員が4m以上ないと、建物を新しく建てる許可が下りないことがあるんだよ。建築基準法で決められていてね。例えば、幅が3mしかない道路だと、建物を建てるときにセットバックが必要になる。」
美咲
「セットバック…聞いたことはあるけど、どういう意味なんでしょう?」
社長
「セットバックは、道路の中心線から2mずつ後退して建物を建てることだよ。例えば、道路幅が3mだったら、中心から0.5mずつ後退することになる。つまり、その分だけ敷地の有効面積が減るってこと。」
美咲
「なるほど!それって、建物を設計する時にすごく影響がありそうですね。」
社長
「その通り。だからこそ、現地調査で道路幅を正確に測るのが重要なんだ。スチールメジャーで測ったり、役所で資料を確認したりして、きちんと幅員を把握する必要があるよ。」
美咲
「でも、どこからどこまでが道路なのかって、どうやって判断するんですか?境界が分かりにくいところもありますよね。」
社長
「いいポイントだね。そこで重要なのが境界標とU字溝だ。境界標は道路の端を示す杭や鋲のことで、これが見つかれば道路の正確な幅を測れる。」
美咲
「もし境界標が見当たらない場合はどうするんですか?」
社長
「その場合は、U字溝の外側を基準に測ることが多いね。でも、それでもわからなければ、役所に行って確認するのが確実だよ。役所では道路台帳や幅員図を確認できるからね。」
美咲
「役所での確認も必要なんですね。じゃあ、舗装状況とかはどうなんでしょう?」
社長
「それも大事なポイントだね。例えば、コンクリート舗装の道路だと、掘削工事にコストがかかることがある。一方で砂利舗装や未舗装の道路はメンテナンスが必要になるから、将来的なコストを考える必要がある。」
美咲
「コストも結構影響しそうですね…。道路の状態が良ければ安心ってわけでもないんですね。」
社長
「その通り。舗装が新しい場合、一定期間は掘削工事が制限されることもあるんだ。それがインフラ整備に影響を与えることもあるからね。」
美咲
「道路ひとつ取っても、確認することがたくさんありますね。接道状況の確認は本当に重要なんですね。」
社長
「その通り。道路幅員、セットバック、境界標、舗装状況…これらを見落とすと、将来的に大きなトラブルになる可能性がある。不動産業では、こうした細かい確認がプロとしての信頼につながるんだ。」
美咲
「これから現地調査に行くときは、しっかりチェックリストを作って確認していきます!」
社長
「いい心がけだね、美咲さん。現地調査は、見た目だけじゃわからないことを見つける大事なプロセスだから、丁寧に取り組んでいこう!」
美咲
「社長、排水設備って、どれくらい重要なんでしょう?正直、目に見えない部分なので、あまり気にしたことがないんですけど…。」
社長
「美咲さん、排水設備は超重要だよ。住環境や不動産の価値にも直結するポイントだから、現地調査では必ず確認するんだ。」
美咲
「具体的には、どんなところを確認すればいいんですか?」
社長
「まずはU字溝。これは道路や敷地の排水をする溝のことで、特に雨水を効率的に流す役割があるんだ。状態が悪いと、大雨の時に浸水してしまうこともあるから要注意だね。」
美咲
「U字溝って、見た目では何を確認すればいいんですか?」
社長
「例えば、泥が詰まっていないかとか、溝が壊れていないかをチェックする。溝が壊れていると修繕費用がかかるし、詰まっている場合は排水能力が落ちてしまう。」
美咲
「なるほど。でも、U字溝に蓋がついている場合もありますよね?そういう時はどうしたらいいんでしょう?」
社長
「いい質問だね!蓋がついているものは『暗渠(あんきょ)』と呼ばれるけど、蓋があると内部の状態が確認しづらい。そんな時は役所で図面を確認して、排水状況を把握するといいよ。」
美咲
「次に、本下水とか浄化槽っていう言葉を聞いたことがあります。それぞれどう違うんですか?」
社長
「本下水は、公共の下水道システムに直接つながっているもの。浄化槽は、敷地内で汚水を浄化してから排水するシステムだよ。都市部は本下水が多くて、地方だと浄化槽が主流だね。」
美咲
「それって、どちらが管理しやすいんですか?」
社長
「本下水の方が管理は楽だよ。公共機関が維持管理をしてくれるからね。一方で、浄化槽の場合は定期的に点検したり、維持費がかかったりする。ただ、浄化槽は設置場所によっては使い勝手が良い場合もある。」
美咲
「浄化槽の点検って、何をするんですか?」
社長
「例えば、浄化槽ポンプが正常に動いているかを確認するんだ。手で触れて動きを確かめたり、音を聞いて動作をチェックしたりね。」
美咲
「マンホールについても調べるべきなんですか?」
社長
「もちろん!マンホールの蓋に『汚水』や『雨水』って書いてあることがあるけど、これを見ると物件が本下水につながっているか判断できる。蓋に市区町村のマークがあれば、行政が管理している下水道に接続されている証拠だ。」
美咲
「逆に、私設管っていうのもあるんですか?」
社長
「そうなんだ。私設管だと周辺住民で費用を負担して管理する場合があるから、修繕費や管理費が必要になる可能性がある。事前に役所で確認しておいた方が安心だよ。」
美咲
「排水設備を調べると、購入後のリスクを減らせるってことですね。でも、結構細かい部分まで見ないといけないですね。」
社長
「その通り。U字溝の状態、本下水か浄化槽か、マンホールの種類…どれも住環境や管理コストに影響を与える要素だからね。初心者でも、こういう基本を押さえれば、物件の評価がしやすくなるよ。」
美咲
「次の現地調査では、このチェックポイントをしっかり確認します!」
社長
「いいね!物件調査の質が上がれば、美咲さんの提案力もさらに向上するはずだよ。次の現場で実践してみよう!」