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情報募集:生活保護の窓口の建物と配置と使い心地について

 2021年9月現在、中野区が福祉事務所(生活保護の窓口を含む)を本庁外に移転させようとしている問題が焦点となっています。

 詳細は、小林美穂子さんのご記事「東京・中野区区役所の新庁舎から排除される『生活保護課』、差別はこうして作られる」、およびいくつかの報道によって、関心を持つ方々には比較的広く知られています。

 そもそも、福祉事務所の建物や配置はどのようであることが望ましいのでしょうか? 私は出張先で、「そこに福祉事務所があれば行ってみる」ということを励行してきました。その経験から、「他の部署と同じ建物にあればよい」と言い切れるかどうかについて、やや疑問を感じています。

 そこで全国の皆様、特に生活保護を利用していたり利用経験があったりする方に、情報提供をお願いしたいと考えています(情報提供フォームはこちら)。大げさに言えば「福祉事務所のハードウェアやアーキテクチャのモデルづくり」の最初の0.1歩を目指しています。問題は、モデルが存在しないことだと思っています。

役所の本庁舎の中でも差別的な配置はできる

 福祉事務所、特に生活保護担当部署を本庁舎の中や駅前などの立ち寄りやすい分庁舎の中にはおかず、離れた場所に設置している自治体は、実質的に何らかの生活保護差別を行っていることが珍しくありません。
 しかしながら、生活保護担当部署を本庁舎の中に配置することによって差別する自治体も、けっこうあります。たとえば、吹き抜けやエスカレータから丸見えの位置に生活保護の窓口があり、まるで全来訪者の「さらしもの」になるかのような役所があります。また、「庁舎に入ると正面に目隠しも何もなくドーンと生活保護の窓口が」という役所もあります。もしかすると「権利なのですから堂々とお越しください」という意図なのかもしれません。あるいは、「他の来庁者の視線の中、来れるものならどうぞ♪」という意図なのかもしれません。もともと「生活保護は恥」という意識や相互監視の雰囲気が強い地域で、運用実態からは生活保護の利用抑制の臭いが強く立ち上るようなら、「つまり、恥の意識を煽って相談や申請をさせない配置だな」と推察できます。が、逆もありえます。

役所の本庁舎の外にあることは、差別の温床でも人間的配慮の温床でもありうる

 本庁舎とは別の場所にある福祉事務所は、必ずしも「だから悪」とは言い切れない側面があります。生活保護を利用することは当然の権利ではありますが、だからといって、ためらわずに申請して利用出来る方は、まだ日本の主流ではないでしょう。本庁舎とは別の場所にわざわざ作られた福祉事務所の中には、そういった当事者の心情へのデリケートな配慮が伺われる素晴らしい建物もあります。かと思えば、本庁舎と離れた場所に置くことによって「ここに来るのは日陰者」「ここに来たら何をされても文句を言えないってわかってるよね?」というメッセージを感じられても致し方ない、という福祉事務所もあります。
 いずれにしても、生活保護以外の用事で役所を訪れる人々の目にふれにくいこと自体に、生活保護を利用する人々に対する差別的な扱いをエスカレートさせるリスクがあります。入管で繰り返し行われる人権侵害には、「他の省庁や機関の視線や介入による歯止めがないから起こる」という側面があります。福祉事務所がそのような場所である限り、「生活保護は権利」とは言えません。

 人や運用などの「ソフトウェア」は、もちろん重要です。建物や配置といった「ハードウェア」「アーキテクチャ」は、簡単に変更するわけに行かず、変更や新設には時に多額の費用が発生するだけに、人や運用とは異なる意味で重大です。

生活保護の窓口の「ハードウェア」「アーキテクチャ」のモデルはどこに?

 福祉事務所の建物、生活保護の窓口の配置に関するモデルのようなものは、日本に存在するのでしょうか? 私は、生活保護に関する取材や執筆をはじめて10年になりますが、見たことがありません。

 神戸大学教授であった精神科医の中井久夫氏は、在職中の1990年代、精神科病棟「清明寮」の設計に携わりました。中井氏が「患者が過ごす場であり治療の場」「医学生や看護学生の教育の場」「そこで学んだ人々が、日本各地や世界で医療者として活躍する際に参照するモデル」という意識をもって設計した「清明寮」は、入院経験を持つ人々の話を聞く限り、医師・看護師等との相性が悪い人にとっても「なぜか落ち着ける」という場でありつづけているようです。居住環境は重要です。

 精神医療における神戸大学「清明寮」と同じ意味でモデルとなる福祉事務所の建物、あるいは自治体庁舎の中での福祉事務所の配置は、今の日本には存在していないと思います。何をどう考えて、どのように作ればよいのでしょうか。
 ハードウェアやアーキテクチャに関するモデルや指針は、ないのなら作らなくては。だって、必要ですから。

生活保護の窓口の建物と配置と使い心地に関する情報を!

 まずは現状に関する情報の蓄積が必要であろうと思います。
 全国各地の皆様、生活保護の窓口がある建物、窓口や相談コーナーの配置について、こちらのフォームに情報とコメントをいただけないでしょうか。生活保護の利用経験があってもなくてもかまいません。

 伺いたい内容は、概ね以下のとおりです。

1. ご自身について
2.  自治体名
2. 福祉事務所または当該部署の名称(不明なら町名等でかまいません)
3. 時期
4. 窓口あるいは建物の配置がわかるメモ(庁内や所内の案内図の写真があればベストですが、手書きの写真の添付でも充分です)
5. 建物や配置に対する評価
6. 使い勝手に関する評価
7. その他コメント

 一応、2021年10月31日を目処に取りまとめられればと思っていますが、その後も情報は歓迎いたします。
 いざという時、誰もが希望とともに心楽しく訪れることのできる「生活保護の窓口」を現実に近づけるために、どうぞ情報提供をよろしくお願いします。

ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。