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〇〇と僕『く』~倶知安町と僕~

北海道虻田郡倶知安町。
僕は高校卒業までをこの町で暮らした。

後志地域の行政の中心地としての役割を担っている、人口1万5千人弱の小さな町である。
町の大半をじゃがいも畑が占め、家の横の空き地にはアスパラが自生する。

羊蹄山とニセコ連峰に囲まれた豊かな自然を活かした観光業も盛んで、2005年以降は全国地価上昇率ランキング上位の常連となった。

しかし子どもの数は年々減り、いつしか駅前の商店街は年寄りと外国人しか歩かなくなった。
優しいおっちゃんがやっていたおもちゃ屋も、「いらっしゃいませ」を言わないCDショップもなくなった。
僕が通った中学校も廃校になった。

幼い頃はこの町が世界のすべてで、羊蹄山の向こう側にも人が住んでいるなんて考えもしなかった。
世界一ピアノが上手いのはユウ君で、世界一の美人はミッチで、世界一足が速いのは父ちゃんだと思っていた。
初雪は10月で、雪解けが5月であることにも、なんの疑問も持たなかった。

そうして時は流れ、僕、ピッカピッカの中学生。

うわぁぁぁー!!!
なんなんだよ、このシケた町は!!!
右も畑、左も畑。前も山、後ろも山。
名産はじゃがいもと水。
み、み、みずぅ?!
この町にはなんにもないって言っているようなもんじゃない。
はぁー情けない。
って言ったって、なんにもないのはホントの話。
うわぁぁぁー!!!  

映画館、ライブハウス、小粋なカフェ、ハンバーガーショップ、そんな物はテレビでしか見たことがない。
エネルギーほとばしる多感な時期をこんな町で過ごすなんて、あーあ、最悪。
とにかくね、なるべく早く町を出なくちゃいけないね。
ってことで、高校卒業後に札幌へ。
その10年後には東京へ。

そんで、今になってようやく故郷の良さがわかってきた。

まず、空気が美味い。
朝の新鮮な空気を思いっきり吸い込むと、足のつま先まで行き渡るのを感じる。
そして、水が美味い。
物心ついた時から当たり前のように水道水を飲んでいたし、そういうもんだと思っていた。
しかし、札幌で暮らしてビックリ。
東京で暮らしてビックリ。
都会の水道はドブに繋がっている。
羊蹄山の湧き水、万歳。間違いなく誇れる名産だ。
野菜も美味い。
実家の横に勝手に生えてくるアスパラの方が、東京のスーパーで高値で売られている物より遥かに立派で美味い。
魚も美味い。
車で40分走れば海があり、朝取れた魚も手に入る。

相変わらず映画館もハンバーガーショップもない。
しかし、そこには何ものにも代えがたい豊かさがあることにようやく気が付いた。
いつになるかは分からないが、コロナが落ち着いたら1度帰ろうと思う。

もしかしたら、東京にはもう帰って来られなくなるかもしれない。
このシリーズが更新されなくなったら、そういうことである。

『toe / Goodbye feat. Toki Asako』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO  池守


『〇〇と僕』←過去の記事はこちらからお読みいただけます!是非!    


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