〇〇と僕『ら』~ラーメンと僕~
僕はラーメンが好きだ。
ある日ラーメン公方が将軍の座に就き、ラーメン以外の食べ物禁止令が発布され、365日ラーメンを食べ続けることになったとしても構わない。
3日も食べなければうなされ、夢に見る。
叶うことならば、ラーメンをすすって二酸化炭素を吐く、そんな生き物になりたいとすら思う。
兎にも角にも、僕はラーメンが好きだ。
暖簾をくぐり入店。
「いらっしゃい!」
席に通され、歴史が染み込んだテーブルに座る。
店内を見渡し、店主が書いた格言みたいな色紙がないことを確認。
一安心したところでメニュー表へ。
味噌、塩、醤油、豚骨、味は色々。
どの店でも同じ味を頼む人もいるが、僕は違う。
メニューを見て、お店が1番自信を持っているであろう味を頼む。
注文が終わったら、厨房の音に耳を澄ませながら待つ。
スープを火にかける音、麺を泳がせる箸が鍋に触れる音、どんぶりを置く音、麺の湯切りの音、スープがどんぶりを満たす音、海苔の缶を閉める音、レンゲを置く音。
「へい、お待ち!」
満を持してラーメン登場。
至福の時間の始まり。
生きとし生けるものに感謝し、いざ。
まずは、作り手の想いと魂が宿ったスープを1口。
チャーシューを箸の先で軽くスープに沈めて、その上のスープをもう1口。
喉奥をスープが通り過ぎるその瞬間、眼前に漂う湯気を鼻から大きく吸い込み、刹那の快楽に酔いしれる。
飲み込んだスープが落ちて腹がじんわり熱くなったのを確認したら、いよいよ麺である。
具の下から箸を入れ左右に開き、まんべんなく麺をスープに触れさせる。
1度箸を抜き、集中。
同じところから箸を入れ、グッと麺を持ち上げる。
軽く息を吹きかけ熱を冷ましながら、スープを纏った麺の光沢を楽しむ。
この時間は、短過ぎれば熱くて味がわからないし、長過ぎればスープが落ちて台無しになる。
眼を開き、耳をすませ、己の邪念を全て取り払うことでラーメンと僕だけの世界を作り出す。
そうすれば自ずと最高のタイミングで麺は口へと運ばれる。
あとは一思いに吸い込むだけだ。
ズズズっと音を立て口に放り込んだなら、麺の香りを感じながら咀嚼。
5割のところで追いスープ。
そこから先はいつもほとんど覚えていない。
覚えている時は、不味かった時だ。
気付けば目の前には空のどんぶり。
目覚めると風邪の熱が引いていた時のような清爽感。
夢のような時間。
箸を置き、空を仰いで、改めてこの幸福に感謝する。
「ご馳走様でした。」
しっかりと気持ちを込め伝え、退店。
店先で、目を閉じ大きく深呼吸。
食道に残る余韻を噛み締め、僕はまた歩き出す。
何度だって言う。
僕はラーメンが好きだ。
ラーメンの町、札幌で暮らした10年間、美味しいラーメン屋さんをたくさん見付けた。
狸小路の『喜来登』、中央区役所近くの『ごま太郎』、ラーメン横丁の『弟子屈』、千歳空港では必ず『白樺山荘』を食べる。
そして、たくさんのお気に入りの中で1番通ったのは『一粒庵』だ。
現在は札幌駅近くにあるが、僕が通っていた頃はラーメン横丁にあった。
すすきので酒を飲んだ時の締めの一杯は必ず『一粒庵』。
ラーメンを全力で楽しむため、いつも途中でツマミを食べるのを我慢し腹を空かした。
お気に入りは醤油ラーメン。
何度も通ったため違う味を試したこともあるが、結局醤油に落ち着いた。
平打ちの細い麺にあっさりした優しいスープが絡みつく極上の醤油ラーメンだ。
最後にもう一度言おう。
僕はラーメンが好きだ。
好きだ好きだ言ってたら、なんだか食べたくなってきた。
そういや『一粒庵』は、いつもビートルズが流れてたっけ。
今日はちょっと高いインスタントラーメンを買って、ビートルズのLIVE映像でも見ながら食べるかな。
『The Beatles / Blackbird』を聞きながら
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